「原義のハードボイルド」に近いほどに、たとえばA.ヘミングウェイの「老人と海」に近いくらいに描写をギリギリと削った作品です。
17歳の頃、「それまで出来ていたこと」が出来なくなった彼。
支えてくれる彼女の手を振り払い「消火する」に十分な打撃だったでしょう。
振り払われた彼女にとっても、彼への想いを「吹き消す」に足る打撃だったでしょう。
ですが、彼と彼女は再点火できるエネルギーを心に残していました。
ラストの行で再点火する彼と彼女の心がどんな炎を上げるのかは描かれていません。
読者の想像自由。
ただ、ラストシーンで降り積もる雪がいくらか、彼と彼女の再点火した心に溶かされることは間違いありません。
本作は状況の説明文を最低限まで削り、代わりにしっかりとした情景の描写と、そして恋して夢を見る少年少女の青春のココロをくっきりと浮かび上がらせている、まさに『名シーンを切り取ったような』傑作であります。
思うに短編と言うのは短いから短編なのであって、そこに長編作品のような細かい要素を詰め込むことは出来ません。
ならば、どうするか。
その答えの一つがこの作品にあると言っていいでしょう。
ストーリーを描くのではなく、ストーリーを内包した『シーン』を描く。
そこにこそ作者様の真骨頂があるような気がいたします。
さぁ、あなたもこの短いシーンをじっくりと読み込んで、青春時代の酸いも甘いもを含んだ自分に酔ってみてはいかがでしょうか。