メッセージボード

「じゃあ!張り切っていこう!!」


「そうだな、せっかくやるんだ。楽しんで、張り切っていこう」



2023年8月28日午前9時


俺、常田勇輝は楠元楓と共に大阪から東京へヒッチハイクで向かうことにした。1週間前には考えもしなかったヒッチハイク。しかも2人で。自分からやるとは言ったものの不安が無いわけじゃない。むしろ心配していることの方が多い。無事にのせてもらえるのか、犯罪に巻き込まれないか、東京まだ辿り着けるのか…

そんな不安が残る俺をよそに楠元はカバンから勢いよくボードを取り出した。


「さあ!記念すべき初めての車は誰かな!私は優しい人の車がいいなぁ」


東京と大きく書かれたページを開きながら嬉しそうに話す楠元。俺も負けてはいられない。


「この道は東京へ行く高速に繋がる道だ。ここの見えやすい場所で立っていたらチャンスはあると思う。ヒッチハイクはとにかくたくさんの人に見てもらうことが大切だから目立つようにしよう。」


「流石常田くん。しっかり調べてるねえ」


「当たり前だろ。まずは別々の場所でボードを出してたくさんの人に見てもらえるようにするぞ」


「りょーかい!!目立つことなら任せといて!!」


「じゃ始めるぞ!」


俺たちは交差点に入ってくる車がボードを見えやすい位置にそれぞれ移動した。左手にボード右手にサンドサイン。そして背中の大きなカバン。映画や小説の中でしか存在しないと思っていた存在に自分がなっている事をまだ少し受け入れられていないが、やり切ってやる。

そう思い笑顔で道ゆく車に東京のボードを見せた。


「ちょっと常田君顔ガチガチじゃん笑スマイルスマイル!」


少し離れた場所から楠本の声が聞こえてきた。


「今かなり笑ってるんだが?」


「もっとちっちゃい子供が吉本新喜劇みてる時みたいに笑って!」


「俺は新喜劇見てねぇ」


「なら校長先生のズラが取れた時みたいに笑って!」


「そんな現場見たことねえよ!」


「嘘だぁ小学生の全校集会であったじゃん」


「楠元は中学からこっちに引っ越してきたんだろうが!」


「そう言えばそうだった。まあいいじゃん。

とにかく笑ってよ!」


「分かったよ」


俺は顔が変形するほど満面の笑顔でボードを掲げた。


「えぇ…顔どうしちゃったの?」


「おまえがやれって言ったからやってんだよな?」


「やっぱりさっきの感じでいいよ」


「それはそれで傷つくんだが?」


そんな感じで15分ほどボードを出していた。道ゆく車の中にはこちらを興味深そうにみている人もいたが、止まってくれる車は一台も無かった。俺は一度ボードを降ろし楠元の元へと向かった。


「楠元、そっちはどうだ?」


「全然だよー興味は持ってそうな人もいたけど止まってはくれない」


「まいったな。俺もだよ」


こうなる事は予想はしていたが実際にやってみると心にくるものがある。どうしたものか…


「あのー」


声のした方向を見てみると30代のキャリアウーマンらしき女性が立っていた。


「ヒッチハイクされてるんですか?」


「はいそうなんです!東京まで行きたくて!」


楠元は待っていましたと言わんばかりの嬉しそうな声で返事をした。そんな無意識の期待に気圧されたのか女性は少し後ろに下がりながら


「ごめんなさい。私はこの後仕事が乗せてあげられないの。でも、昔やったことがあるからアドバイスさせて。一般道よりも高速道路の入り口の近くやサービスエリアでやった方が可能性が高いわ。それとボードの目的地はもっと近くの方がいい。ここからだったら京都とか滋賀あたりの名前を出した方がいいわ」


「お姉さんもヒッチハイクされていたんですか?」


楠元がお姉さんに尋ねた。


「ええ、あなたたちと同じ学生の頃にね。じゃあ、私は仕事があるからこれで。頑張ってね」


「見ず知らずの私たちのためにありがとうございます!」


「いいのよ。楽しい旅にしてね応援してる。」


そう言うとお姉さんは颯爽と去っていった


「かっこよかったね」


「ああ、おかげでいろんなことを知れた。あのお姉さんのアドバイス通りやってみよう」


「常田君。私、徒歩で入れてここから近いサービスエリア知ってるから行ってみない?」


「本当か!場所は?」


「吹田サービスエリアだよ。知ってる?」


「吹田か…ここから電車で30分ぐらいか。行ってみるか」


「うん!」


そうして俺たちは吹田サービスエリアへと向かった




俺たちは電車と徒歩で吹田サービスエリアに向かい、1時間ほどかけて到着した。8月も終わるとは言えまだまだ暑い。二人共到着する頃には大粒の汗をかいていた。


「暑いー」


「仕方ないだろ。夏なんだから」


「知ってるよーでも暑いものは暑いの」


「そんなこと言ってないで乗せてくれる人を探すぞ」


「こんな暑さの中もう動けない。ちょっと休憩しよーあそこに売店があるじゃん」


確かに楠元の言う通りこの暑さの中を動くのもしんどい。


「ちょっとだけだぞ」


「やったーアイス食べよー」


2人で売店に入りアイスを食べながら少し休むことにした。こういう時にクーラーの効いた部屋はありがたい。そう思っていると、後ろ肩を叩かれた。

俺は驚いて後ろを振り向くとそこには中年で小太り。ちょび髭を生やした少し怪しげな男が立っていた。





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