決意

次の日、必要なものを買い出しに行くために玄関を開け外に出ようとすると玄関の横から顔を覗かせている女が立っていた。楠元だ。

考えって家まで直接来ることかよ。今のは見なかったことにしよう。そう思い足早に通り過ぎようとすると


「待って待って」


慌てたように楠元が俺に声をかけてきた。


「何だよ」


「何だよ。じゃないよ!昨日電話したじゃん!」


「いいわけないよな?こないだ久々に会ったってだけで一緒に行けるわけないよな」


「いいじゃん!裾触れ合うも多生の縁っていうじゃん!行こうよー」


「あのなぁ、ヒッチハイクが危険てこと分かってるのか?」


「分かってるよ!でも私も旅がしたいのー東京までいきたいのー」


こんな会話をしながら近くのスーパーに向かっていたら気が付いたらスーパーに到着していた。


「あれ?スーパーじゃん。今から買い物?」


「ヒッチハイクに必要なものの買い出しな。何度も言ってるけど俺は・・


「いいねー行こう行こう!楽しみだなー」


そう言ってスキップしながら俺よりも先に店の中に入って行ってしまった。なんて能天気なやつなんだろう。そう思いながら店の中に入ると満面の笑みでこちらを見ながら小さく手を振っていった。


「楠元って超ポジティブ娘だな」少し嫌味を込めて笑顔の楠元に言ってやった。


「ポジティブ娘・・ポジティブ娘!いいねそれ!」


楠元はそう言いこちらにぐいぐい近づいてきた。兄貴といい、こいつといいなんで俺の周りにはこんな一風変わった人間がおおいんだ?俺は前世で何か罪でも犯したのだろうか。そんなことを考えながら楠元に向き合うと新しいおもちゃを買ってもらった子犬のようにワクワクした表情でこちらを見ていた。・・・どうやら俺はこいつから逃れられないらしい。一緒に行くかどうかは買い物が終わってから決めよう。


「初めにキャンパスノートを探そう。それと油性ペン。」


「行き先を書くボードだよね。知ってるよ!ならこっちかな」


そう言って張り切って文房具のコーナーに向かった。




「あと必要なものは・・


「ごみを入れたりするレジ袋とにおい防止の汗拭きシートじゃない?」


驚いた。まさか楠元も記事を見ていたのか?


「そんなに驚いた顔しないでよ。私だって行きたくて調べてきたんだから」


少し怒ったように顔を膨らませてこちらを見つめてきた。


「さあ、行くよ!」


俺は楠元のことを能天気で後先考えないやつだと思っていたが案外そうではないのかもしれない。少し考えを改めないといけないな。




「ねえ」レジ袋と汗拭きシートを持った楠元が神妙な面持ちでこちらを向いた。


「どうした?」


「お菓子は何にする?」


「お菓子なんていらねえよ!遠足じゃねえんだぞ!あと、別にお前と行くなんて一言も言ってねえからな」


「そんなぁ~」


「ほら、レジ向かうぞ」


「う~」


俺は泣きまねを始めた楠元をせかしながらレジに向かった。


「合計で1504円になります」


「これで」


「ありがとうございます。496円のお返しになります。」


なんか思っているよりも値段がたかいな・・


「おい、なんでスケッチブックと汗拭きシートが2つも入ってるんだよ」


「常田君の分と私の分で2つじゃん。あ、あとで半分払うね!」


「払うね!じゃなくてまだ一緒に行くなんて一言も言ってねーぞ!」


「わかったわかった。あとでファミレスでおごるついでに理由も話すから」


「俺はこの後勉強なんだが」


「お願い」


楠元は先ほどとは打って変わって真剣なまなざしでこちらを見てきた。今までのおどけた楠元とはまとってる空気がまるで違う。そんな楠元を見て俺は嫌だとは言い出せなくなった。


「・・分かった。ファミレスに行こう」





いつものファミレス_つまり、ここ最近楠元とよく会うファミレスはスーパーからは10分ほど離れた場所にある。俺たちは特等席に座った。


「で、なんでヒッチハイクがしたいんだ?」


「この夏静岡に友達と行くって話したでしょ?でも友達が行けなくなって私の帰省もなくなっちゃって悔しかったんだよね。その時にヒッチハイクの話を聞いてさ。ここから東京に行くなら静岡も通るんだよね。だから一緒に行きたいなって」


「確かに静岡は通るよ。でもヒッチハイクじゃなくてもいいだろ?他に方法なら沢山あるじゃん。」


「ダメなの」


「どうしてもこの方法じゃなきゃ。ダメなの」


「静岡市に私のおばあちゃんの家があるからそこで泊まることもできるし、案内もできるから。お願い」


必死に笑顔を取り繕っているが目は強張っていて、それどころか何か思い詰めたような表情で楠元は迫ってきた。何が楠元をここまでこの旅に駆り立てるのだろうか。俺は気になってしまった。


「何で…


「変な理由じゃ無いんだよ。でも迷惑はかけないから。だからお願い」


俺が聞くのを遮るように返事をして頭が机につきそうになるほど下げた。


「…ちょっと考えさせてくれ」


「分かったよ。また教えて。じゃあ!あっちに着くまでの道のりの話でもしようか!!」


先ほどまで真剣な態度が嘘のように満面の笑顔で話し始めた。


「まだ行くとは言ってないぞ!」


「いいじゃん!楽しいし」


「まずはここからスタートでしょ…」




「ただいま」


「おかえり。荷物は買えたの?」


「ああ、色々買えたよ。」


結局、あの後楠元とルートの話を一通りした後家に帰ってきた。しかし本当にどうしたら良いだろうか。楠元と一緒に行くべきだろうか。俺にはどうすべきか分からない。真剣な楠元の思いを汲むべきかどうか。しばらく考えた後、兄貴に電話をかけることにした。


「もしもし。」


「勇樹どうした?」


「実は…


「なるほどね。女の子も来るかも知らないと。それで俺に電話をかけたと」


「ああ。ヒッチハイク経験者として意見が欲しくてな」


「俺の友達も女の子と行ってる奴もいるしいいんじゃないか?でも、何かあったらお前が責任取れよ?」


「分かってるよ。だから考えてんだよ」


「何だよー怖気付いてるのか笑」


「そうじゃねえよ。でも真剣に考えないとな」


「嘘つけ。俺に電話してる時点で決まってたんだろ」



「……」


「図星か。後は勇輝に任せるよ」

そう言って電話を切った


俺は暗くなったスマホを見つめた。そして楠元に電話をかけた。


「もしもし、ヒッチハイクの件だけど…







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