麻雀伝説 前編

闇カジノ 地下3階、闇雀荘

レートは1点で軽く1万円超え

ここで負けた多くの者が地上に帰らない。

そんな場所に6000万円分のチップを担いだ剛力ごうりき かいが到着した。


ドスドスと歩き出す壊に視線が集まり、その姿を見るやいなや多くの客が逃げ出す。

さっきまで満席だった雀荘には吸いかけのタバコの匂いだけが残っていた。


いや、よく見ると僅かに人がいる。

といっても多く見積もって7・8人程度。


(ほとんどの奴が俺の悪評を知らない素人か、店が仕込んだサクラだろうな。)


この状況を見て壊がそんな事を考えていると奥の卓から声がかかる。


「おいあんた!俺達と三麻しねぇか?」


ごく普通の酒臭いおじさん2人組だ。

しかし、相当腕に自信があるのか壊見るなり勝負に誘ってきた。


(素人でも俺とやりたがる奴は少ねぇ、こいつら何か策でもあんのか?)


その自信のワケに興味が湧いた壊は勝負に乗ることにした。


「あぁいいぜ」


壊が空いてる席に足を広げて座ると、正面の男が麻雀牌を並べ始める。

隣の男が少し顰め面をして壊の足を押し返す

気付いた壊が足を縮めて椅子の下に隠した。


身長が2m弱ある巨漢と170cm程の中年男性2人組が小さい雀卓を囲って乳繰り合うという異様な光景を辺りの人間が見ていた。

雀荘の居心地の悪さは増す一方である。


見かねた正面の男が壊に向かって話かけた。


「ところであんた、名前は?」


「おぉ、名前な。俺は剛力壊ごうりきかいだ。よろしく」


壊の正面に座る男がたか

隣の男が鳶蔵えんぞうと言うらしい。

2人とも壊の名前を聞いたがピンと来ていない様子。


恐らく最近イカサマを覚えた素人が、調子に乗って勝負を挑んできたのだろう。

壊は少しがっかりしたが勝負は勝負。

潰すつもりで戦う事にした。


「んじゃ、始めるか」



東一局 1巡目  西家 剛力ごうりき かい


南家の鳶蔵えんぞうが打ち終え、壊の順番が回ってこようとした時、手牌に違和感を感じる。

試しに一から数え直してみると


(11、12、13、14…15!?)


牌の数が1!!

壊の手牌にイカサマが施されていたのだ。


鳶蔵こいつ多牌ターハイさせて来やがった!)


(勝負はとっくに始まってんだよ坊や)



多牌ターハイ 本来13枚(または14枚)であるべき手牌より、多くの牌を取ってしまう行為。

これが判明した場合、点を払う等のペナルティが発生する。



鳶蔵えんぞうは壊の油断を見逃さなかった。

壊が足を椅子に隠した瞬間、

その瞬間に牌を1枚紛れ込ませていたのだ。


(まずは2000点。わるいね)


(ナイスえんちゃん!)



だが、壊は曲がりなりにもイカサマ師。

イカサマにはイカサマで返す



(クソッ、ここは…)


「…?ちょっとあんたそれ、多牌ターハイじゃな



べキッ!メキメキメキッ!!!



壊は左手で手牌の端から不要な1マンを取り出し、手の内に隠した。

そしてそれを握り潰し、粉状になった1マンを卓の下に撒き散らす


ターぁ?なんだって?」


そう言うと壊は鳶蔵えんぞうの顔をじぃ〜っと睨み、白を手牌の北と入れ替え河に捨てる。


(こ、こいつただモンじゃねぇ…!)


壊の異常なイカサマを目にした2人は、

わけもわからないまま恐怖した。


(あいつが何かをして牌が消えた。それは分かっている。分かっているのだが…証拠が無いから指摘できない!)


(仮に消えた牌について指摘したとしても「見間違い」と言われればそれまで。)


(だから今、牌が消えた事を俺が確信しているのはおかしい。このまま多牌ターハイだと言い張れば、逆にイカサマを指摘され点を取られてしまう…)


「クソッ!」



壊のイカサマは通った。


そりゃそうだ。

このゲームで人間が牌を握り潰す事を想定したルールなど作られていない。

場が完全に壊のペースに持ち込まれている。


(この程度か?余裕だな)


このまま行けば余裕で勝てると考えていた。だが相手もイカサマ師、一筋縄ではいかない。



東一局 2巡目 西家 剛力 壊


壊のツモ番、引いた牌は 西

そのまま西と白を入れ変え河に捨てる。


すると、それを見たたかの口角がぐっとあがり、大声でロンを宣言した。


「ロン!大三元、48000点だね」


(いいぞたかちゃん!)


(おうよえんちゃん!)


2人は座ったまま嬉しそうにハイタッチする。



大三元 白・發・中の牌を3つずつ集める事で成立する大役。



つまりたかはこの卓に12枚しか無い牌をたった2巡で8枚集めたと言うのだ。

当然ながら壊はそれに気付く。


「イカサマだな、やってくれる。」


たかは顔色一つ変えずに言った。


「いやいや、ツイてるだけだよ。な?」


バレバレの嘘。

だが、証拠がないから指摘できない。

バレなければイカサマも正攻法

それがこの店のルールなのだ。


「ツイてるだけ、ね」


壊は自分が嵌められたと言う事実に怒りが収まらず、唇を噛みしめた。


このロンが通れば壊の持ち点である35000点から48000点が引かれる。

つまり−13000点。

麻雀でのマイナス点はを意味する。



壊の負け



ではない。

この物語は剛力壊ごうりきかいの伝説を書いているのだ。

こんな所で負ける男に伝説など生まれない。

生まれるわけがない。

壊の勝負は、まだ終わっていないのだ。


「おや?おやおや?そりゃあ振聴フリテンじゃねぇの?」



振聴フリテン 自身の河に和了アガリ牌を捨ててしまう行為。これをするとロンで和了アガる事は出来なくなる。



河に2枚しか牌がないこの状況で、壊は振聴フリテンを指摘した。

それを聞いたたか鳶蔵えんぞうが大笑いしながら壊を煽る。


「ちょっと兄ちゃん、いくら悔しいからって嘘言っちゃあいけねぇなぁ?」


「そうだぜ?そもそも俺が自分の河を見逃すミスなんてありえ…」


そういったたかの河にはボロボロの白が1枚置かれていた。


「は?!そんな訳ないだろ?俺はちゃんと…は?は?!」


2人は驚き、何度も確認し直す。

しかし、何度見直してもそこには白が1枚あった。


「お前っ!イカサマか?」


壊はニヤッと笑い、鷹を煽り返す。


「いやいや、ツイてるだけ。だろ?」



ー1分前ー


たかが壊にロンを宣言した直後、

2人は席に座ったままハイタッチをしていた


その間壊は、鳶蔵えんぞうの手牌から2ピンを盗み、表面の模様を削り取る。


2ピンからを作り出したのだ。


その白をビリヤードの要領でたかの河まで突き飛ばした。


白はしばらく卓上を回転しながら進み、河にあった9ソーを弾いて入れ替わった。

白は、徐々に勢いを失いその場に留まり、弾かれた9ソーたかの背後へと飛んでゆき、卓から落下。


すかさずたかに話かけ気をそらすことで、バレる前に落下した9ソーを壊の異様に長い足で回収。


これが振聴フリテンイカサマの全貌である。


ーーー



振聴フリテンでのロン、罰符チョンボだな」


「お前が親だから、えっと?1人4000点、2人合わせて8000点だ。」


呆気にとられていたたかが声を荒げる。


「ふっ!ふざけるな!」


「こんなのありえない!さっまで!」


だが、証拠がない。

バレなければイカサマも成功法

それは絶対のルール。

それ故にたかは攻めきれない。


「証拠が事にはねぇ?ルールは守んなきゃだよな?」


「ぐっ…」


壊は更にたかを煽る。


「それに、イカサマしてんのは少牌ショウハイしてるあんたのお仲間じゃねーの?」


「「は?」」


2人の言葉がシンクロする。

そして、鳶蔵えんぞうが恐る恐る自分の手牌を見る。


「…1枚足りない」


2人の血の気が引く。

そんなことは気にもかけず、壊は容赦なく追撃する。


「ほんじゃあたかから4000点、鳶蔵えんぞうから2000点の罰符バップだな。」


「……はぁ!?」  「……クソが!」


壊のイカサマを指摘出来ない以上、2人は支払うしかない。

数分間ごねたものの、他の道が無い事を理解したのか2人は渋々点を払った。



東一局 終了


1位 剛力ごうりき かい 41000点


2位 鳶蔵えんぞう  33000点


3位 たか   29000点



そしてイカサマの判明により

勝負は2度目の東1局へ

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