チンチロ伝説

最初の狩り場を見つけたかいの歩みが止まりニヤリと微笑む。

すると、それに気づいた客全員が蜘蛛の子を散らすように走り去った。


当然である。

壊はこのカジノで最も悪名高い無敗のイカサマ王。


というか、

2mくらいある怪物のような男と戦うとよくわからないまま理不尽に負けるのだ。

戦いたい者などそうそういない。


この噂が広まってからというもの、壊と遊戯を共にするのはカジノで働くディーラーか、噂を知らない素人だけである。


「チッ!なんだよ、張り合いねぇな」


少し機嫌を悪くした壊の元にディーラーが駆けつける。


「ようこそ壊様ゲームに参加しますか?」


「おう、用意を頼む」


壊の言葉を聞いたディーラーは丼とサイコロを取り出した。


「賭け金は500万、親はお前からでいいぞ」


そう、壊が最初に選んだゲームは

丼の中にサイコロを落とし、出た目に応じた役で勝負する賭博ゲーム


多くの役があるが、ここでは

ピンゾロ・ションベンという役さえ知っていればよい。

なぜなら、



第1ゲーム

親 ディーラー


「では、行かせていただきます」


そう言うとディーラーは右手首を軽く振り上げ、丼に向かってサイを投げた。


が、


「オラァ!」


怒鳴り声のようなと咆哮と共に、壊の平手が目に見えないスピードで賽に突進し、空中で四方八方に飛び散る。


バチィイーン!!!


音の方向をディーラーが見る時には賽は遥か彼方、カジノの天井に突き刺さっていた。


「残念!丼から出ちまってるよ、こりゃあションベンだなぁ?」



ションベン それはサイコロが丼の外に出る事を指す。丼から賽を出してしまえば、その場で敗北が決定するというもの。



この男、敗北それを狙ってしたのだ。


壊はニヤリと笑い、天井から落ちてくる歪な形のサイコロをキャッチした。


「次は俺が親だな」


「え、ええ」


なぜなら、

剛力ごうりき かいの伝説とはこういう物語だからである。



第1ゲーム 終了

ディーラー ションベンにより敗北。

剛力ごうりき かいへ500万円相当のチップの支払い。

これにより壊の所有チップは2倍。

時価総額1000万円相当の物となった。

結果、第2ゲームのレートは跳ね上がる。


「賭け金は壊さんが決めて構いませんよ」


ディーラーの言葉に、壊は迷う事なく即答した。


「ほんじゃ、1000万だな。」


2連続のオールイン。

壊もまた生粋のギャンブラーなのだ。



第2ゲーム 親 剛力 壊


「ヴォラァ!!」


壊はサイコロの1の面を上にして指と指の間に挟み、丼に向かって的確な力で叩きつけた。


サイコロは一度も回転しない。

ただ、勢いと重力に従って丼の中へと凄まじいスピードで落ちてゆく。


ベキッ!と音がなった方向には1の目の賽が3つ、ひび割れた丼に突き刺さっていた。

そう、出せば掛け金5倍取り。

最強の役 ピンゾロの完成である。


「えっと?1000万の5倍、5000万の勝ちだな」


指を折り曲げ、数字にニヤニヤしていると

ディーラーはうめき声を上げ、何か言いたげな表情を浮かべて壊の顔を見つめる。

しかし、これに関してはイカサマとは言い切れないような純粋な力で勝たれた為、誰も口出しできない。


「まさか出せねぇワケじゃねぇよな?」


壊が腕をまくる仕草をすると、怯えた様子でチップを入れたアタッシュケースを持ってきた。


「ここにはもう、それ以上の金額は…」


「んだよあんじゃねーか」


壊は受け取ったケースを近くにいたスタッフに預けて笑う。

この勝利で壊の所有チップは1000万+5000万の合計6000万円分にものぼる。


「こんぐらいありゃ足りるかな?」


「ほんじゃ、次は…麻雀だな!」


そして、壊は6000万のチップを手に

闇カジノの中でもトップクラスに不正が蔓延る場所、地下3階の闇雀荘に向け歩き始めるのだった。

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