麻雀伝説 後編

東一局 1巡目  西家 剛力ごうりき かい


やはり相手はイカサマをしているようで

南家の鳶蔵えんぞうからリーチが入る


(もう隠す気すらねぇ。マジで俺の事を潰しに来てるな)


少し焦る壊にツモ番が回ってくる。

引いた牌は 5マン


欲しい牌だった為、手牌と入れ替えようとした時、壊は何かに気付く。

そしてそのまま、5マンを手牌と交換せず河に捨てた。


鳶蔵えんぞうは壊の捨て牌を見て少し体が動いたが、ハッとしてそのまま考え込む。


(ここでロンできる!できるのだが…)


鳶蔵えんぞうは前局で壊が見せた振聴フリテンイカサマを警戒し、迂闊にロンができなくなっていた。

しかし、ここで見逃せば1巡の間は振聴フリテン

自身のツモ牌でしかアガれなくなるのだ。

ここで壊が鳶蔵えんぞうを急かす。


「長考も場合によっちゃあ反則だぜ?」


鳶蔵えんぞうは悔しそうな顔をしながらたかへとターンを譲った。



東一局 2巡目  西家 剛力ごうりき かい


たかが牌を引き終わり、鳶蔵えんぞうのツモ番となった

引いた牌は 5マン


鳶蔵えんぞうの顔から少しの笑みが漏れる。

たかはその顔を見て確信する。作戦は成功した。と


(よっっし!計画通りぃ!俺の仕込みで鳶蔵えんぞうのツモ牌を5マンにしておいた。これで和了アガれば振聴フリテンなんて関係ねぇ!)


たかは壊に嵌められた事で1人では勝てないと確信し、作戦を変える。

自身の勝利を捨て、鳶蔵えんぞうを勝利させる事にシフトしたのだ。


(行け鳶蔵えんぞう!あいつに一泡吹かせてやれ!!)


そしてたかはこの事を鳶蔵えんぞうにも知らせていない。

その為、このイカサマがバレたとしても責任を負うのはたか1人だけである。



「ツモ!」


鳶蔵えんぞうの宣言が卓に響く。

それを聞いた、壊は打開策を考える。


(ここから鳶蔵えんぞうを嵌める方法1つだけ!)


それは鳶蔵えんぞうの手牌の一部をすり替え、和了アガれない形にする事。


方法は簡単だ。

自身の持つ牌を適当に5枚抜き取り、表面を削ることで、本来場に4枚しかない白が5枚存在する事になる。

これは絶対にありえない。つまり


この牌を鳶蔵えんぞうに擦り付ける事で、和了アガって取られていたはずの点を逆にこっちが奪い取るのだ。



そして壊にその時が訪れる。

たか鳶蔵えんぞう点棒を渡す瞬間、壊は鳶蔵えんぞうの手牌の一部を自身の物とすり替える。

そして白々しくこう言うのだ。


「まてよ?その手牌はなんだ?」


盗人猛々しいとはこのことである。

鳶蔵えんぞうはまさかと思い、自身の手牌を見ると確かにおかしい。


「白が、5枚ある…。」


「こりゃあチョンボだな」


壊はかなり強引な手口で鳶蔵えんぞうを嵌めた。


(点を払った後に仕掛けて来やがった!予想外だクソッ!)


たかは自身の油断が招いた事態に反省しつつ、イカサマの証明法が無い事は分かっている為、次の試合の準備を始めた。



東一局(2回目) 終了


1位 剛力ごうりき かい 43000点


2位 たか   33000点


3位 鳶蔵えんぞう  27000点


再び、イカサマの判明で終わった為

勝負は3度目の東一局へとなだれ込む。



東一局 1巡目  西家 剛力ごうりき かい


勝負が始まり、自身にツモ番が回ってこようとした時、鳶蔵えんぞうは手牌に違和感を感じた。

たか鳶蔵えんぞうの様子がおかしい事に気づき、心配そうに目をやる。


えんちゃん、それ…」


ここで2人は気付く。

このゲームでの勝者それは、

イカサマを使い、点を稼いだ者ではなく



だと。



「ッ…!」


しかし気付くのが遅過ぎた。

既に壊は鳶蔵えんぞうの手牌に多牌ターハイを施している。

あとは指摘するだけで2000点が手に入ってしまう状況だ。


(前見してくれたイカサマ、そっくりそのままお返しするぜ)


「おい、お前それ多牌ターハイしてるな?」


鳶蔵えんぞうは頭をフル回転させ、罰符チョンボの回避法を探す。だが、時間が足りなかった。


「返事がねぇって事は認めるんだな?」



壊の容赦ない一言によって

東一局(3回目) 即、終了


1位 剛力ごうりき かい 45000点


2位 たか   37000点


3位 鳶蔵えんぞう  21000点


言うまでもなく、イカサマの判明により

勝負は四回目の東一局へと突入する



東一局 1巡目  西家 剛力ごうりき かい


壊は気付いていた。

このまま行けば自分は。と


イカサマを擦り付けた際、

壊が得られる罰符バップは2000点。

一方、親のたかは4000点の罰符バップを得る。

そして鳶蔵えんぞうは6000点を失う。


現状、鳶蔵えんぞうから点を絞り取れる回数は多くて4回。

つまり、このままゲームが進むとこうなる



1位 剛力ごうりき かい 53000点


1位 たか   53000点


3位 鳶蔵えんぞう  −3000点



このまま終局まで鳶蔵えんぞうから罰符バップを取り続ければ、最終的にたかと同点になってしまうのだ。


だが、逆に言えば一度でもたかからバップを取る事さえ出来れば、壊の勝利はする



(勝負は1巡目で決まる!)



壊は仕掛ける気だ。

たかはそれを知ってか知らずか、奇しくも同じ1巡目に仕掛ける。


東家 たかのツモ番

たかはあらかじめ仕込んでおいた牌を引いて、わざとらしく手を揺らすと、大声で和了アガりを宣言した。


「ツモォ!天和48000点!」


一度でも点を取れれば勝ち。

それは、相手も同じ


鳶蔵えんぞうより俺の点が高いなら話は別よぉ!この勝負、勝たせて貰うぜっ!)



天和 最初に配られた牌で和了アガる大役。

出現率は約0.002%という代物。

相手が出したなら、それは十中八九イカサマによるものだろう。



(バレバレなの物を、よくもまぁ連続で出せる)


壊は呆れながら振聴フリテンイカサマの時にくすねた9ソーを床に落とし、わざとらしく言う。


「…?何か落ちたな、ちょっと見てくる」


壊がそう言い卓の下を覗こうとした時、

たかから待ったがかかる。


「ちょっと待て!」


それを聞いた壊の動きは静止し、たかの発言を待つ。一方、止めたはいいもののたかは悩んでいた。


(こいつ、卓の下でイカサマするつもりか?!どうやって?…いや、今までも意味のわからない方法でイカサマをしてきた男だ。あり得る、、)


(だが、ここから目を離せば、あいつはイカサマ仕放題。クソッ!分からねぇ!どっちを取るべきだ!?)


その悩みを、たかの視界に映る鳶蔵えんぞうの姿が晴らす。


(そうだ!卓にはまだ鳶蔵えんぞうが居る!鳶蔵えんぞうが居る限り、!!)


「待ってろ、俺が見る」


壊を椅子に座り直させ、たかが卓の下に潜り込む。

そこでたかが目にしたのは9ソー

2局前に壊が行った不正フリテンイカサマの証拠である。

たかはこれを覚えていた。


(9ソー、勝った!仮にあいつが俺の牌に細工できたとしても、イカサマの指摘によって点の動きはプラマイゼロになるだけだ!)



一方、卓の上では

鳶蔵えんぞうが自身とたかの手牌へのイカサマを警戒している。

そんな鳶蔵えんぞうを尻目に、壊は目の前にある牌山の端2枚をった。


盗った内の1枚を左手へ移し、鳶蔵えんぞうの真横に投げ飛ばした。

鳶蔵えんぞうは、壊のイカサマだと思い飛んでいった牌の方を向く。

壊はその隙を見逃さない。


僅かな時間を利用し、鳶蔵えんぞう手牌から1枚抜き取り、たかの手牌と交換した。

これにより、役がなくなり不聴ノーテン

たかに4000点の罰符バップが発生する


(これで、俺の勝ちだ!!)


壊は興奮気味に指摘する。


「おいおいたかァ!お前またチョンボだなぁ?!」


被せるようにたかも大声で叫ぶ


「お前もなぁ!!」


そう言ったたかの手にはしっかりと9ソーが握られていた。


「これは言い逃れできねぇ!」


しかし、壊は動揺の素振りすら見せない。


「は?」


そしてたかは気づく

壊は自身の牌が落ちたとは一言も言っていないのだ。つまり壊はまだ言い逃れができる!

その上、アリバイを作る為に鳶蔵えんぞうの手牌を1枚減らしていた為、疑わしいのは壊よりも鳶蔵えんぞう


この状況を覆す言葉がすぐに出るはずもなく、2人に罰符バップが発生する。

これに今更気付いたたかは、拾った9ソーを地面に投げつける。


「クソがぁぁあ!!!!」


たかを嵌める為に壊はイカサマの証拠を見せていたのだ。



東一局(四回目) 終了


1位 剛力ごうりき かい 51000点


2位 たか   33000点


3位 鳶蔵えんぞう  19000点



これで壊とたかには、さらに2000点の差が付き、鳶蔵えんぞう多牌ターハイを指摘し続けるだけで勝てるようになる。

壊のイカサマを指摘する方法の無い2人に、

勝ち筋はもう無い。

ここから先はなし崩しに試合を消費するだけだった。


そして、最終的に勝負は計8回の東一局を経て、壊の勝利で終了する。



東一局(8回目) 終了


1位 剛力ごうりき かい 59000点


2位 たか   49000点


3位 鳶蔵えんぞう  −5000点



「おがぁぁああ!!なんでだよぉお!!!」


鳶蔵えんぞうが泣き叫ぶ。

この雀荘のレートは1点につき1万円。

彼は今回の敗北で自身の臓器を全て売ったとしても払いきれない借金を背負う事になったのだ。

鳶蔵えんぞうたかと壊の顔を睨む。今にも人を殺してしまいそうな目、正気の目ではない。


壊はそれを無視して賭場を去った。

たかは気まずそうに壊を追いかけた。

この日以来、鳶蔵えんぞうの姿を見た者は誰一人いない。



この戦いで、壊の儲けは約5億9000万円

アタッシュケースの中には、鳶蔵えんぞうの全てが詰め込まれている。


「足りねぇ」


これだけの大金を稼ごうと、壊の乾きは収まらない。まだ、ギャンブルに飢えているのだ

そうして、剛力ごうりき かいの伝説はもう少しだけ続く

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