エピローグ② 少女徒花懐古録
目を覚ますと私は病院の中にいた。踏切内に立ち入って死のうとしたあの日、私は踏切の前で突然倒れこみ気を失って、この病院に運び込まれたみたいだった。
なんとか一命はとりとめたものの意識が回復するのは容易ではなく、あの世界にいたしばらくの間、私は現実では植物状態になっていたそうだ。
私が眠っている間、現実の世界では学校の雰囲気や世界が目まぐるしく変わったりすることはなかった。でも一つだけ、それからの私の人生に光が注ぎ込むような少し不思議なことが起こっていた。
それは私の病室に私宛の送り主がわからない贈り物が届けられていたということだ。贈り物の中身はクッキーにまんじゅう、カップラーメンにスナック菓子ましてやアイスクリームと病院のお見舞いには到底向いていないものばかりで、誰がこんなものを持ってきたのかと私の周りで少しの間容疑者探しまであったみたいだった。
結局、それは最終的に私と仲のいい誰かが持ってきてくれた、ということで一件落着となったのだが、私には彼女が届けてくれたようにしか思えなくて、何時しかその出来事は私の中で数年かけてリハビリを頑張る糧になっていった。
そうして、ようやく一人で体が動かせるようになった後、しばらくの間、私は彼女と歩いた道をできる限り歩き回り、彼女がいた痕跡がないかを探した。
けれども結局、上手くはいかないのが現実で、私が彼女と会うことはなく、そうやっていくうちに時に身を委ねて、いつしか私は大人になっていった。
そして今、私は彼女とあの世界で描いた物語をこうして文字に刻み込んでいる。あれから私はあの夢を見ていない。けれども、彼女が教えてくれた生きることの楽しさや言葉は今も私の記憶に、心に、しっかりと刻み込まれている。
私はあの時の彼女との約束を覚えている。ひと時の別れ、といった彼女の言葉を。だからこうして私は貴方のように綺麗な服に身を包んで、貴方のように少しおしゃれな化粧をして、貴方のように、貴方が作ってくれた居場所を守るために、今もどこかで元気に生きている彼女に、私は貴方のお陰で悪態をつきながらも時に逃げて時に立ち向かって、元気に生きているよとメッセージを送るために今日も人生を描き続ける。作家の名前を自分の好きなお菓子の名前にして。「みやちゃん」ふと懐かしい彼女の声が心の中で響き渡る。大丈夫だよ、あずきちゃん。私、頑張ってるから。私はペンを取って白紙にすらすらと描き始める。あの物語の続きを。種の痕跡を残すことはなく美しく咲いて散った徒花のような日々を。懐かしみと愛しさをこめて懐古録と名付けて。
少女徒花懐古録 @asanoto1226
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