芸術の果てに
Aoi人
始まりは、暗闇に入るところからだった
憧れの人と誓った。いつかあなたを超えて私が1位になる、と。
だから、私は努力した。毎日毎日、他のことは目に入らないほどに努力した。何もかも捨てて、絵画だけに全てを注ぎ込んだ。
それでも私は万年2位で、彼女が1位の座から降りることは一度もなかった。
でも、私は諦めたくなかった。だから、私は努力を続けた。
きっと彼女も努力し続けている。だから私はそれに負けないよう…いや、彼女を越せるような努力をしなければならない。
そのために高校も辞めて、絵画だけに私の全てを注ぎ込んだ。他のものが全部どうでもよくなるくらい、ただひたすらに絵を書き続けた。
そしてついに、昨日の品評会で彼女は1位の座を奪われ、2位になってしまった。ただ、勝ったのは私ではなかった。私はまた彼女に敗北した。
インタビューのとき、私は1位の人間の名前を初めて聞いた。知らない名前の人だった。
どれほど努力した人なのだろう。
私はそんなことを思っていた。私の全てを注ぎ込んでも勝てなかった彼女に勝てた、いわば私の参考にもなりそうな人だったからだ。
私はそいつの言葉に興味が湧いた。だから、インタビューの答えを期待して聞いた。
「今の世の中、独創的な個人の世界に埋め込まれた物語なんて誰も求めていないんですよ。必要なのは、パッと見ただけで感じられる『安心』なんです。複雑なのは外観だけで良く、中身なんてものはどうでもいいんです。むしろ中身があると安心感がなくなり、現代の
期待とは乖離した内容だったにも関わらず、そこにはその通りだと納得してしまった自分がいた。たぶん、頭では納得できたんだと思う。
でも、感情がそれを邪魔した。
私の世界を、私の色を、私の景色を、私の物語を、もう誰も評価なんてしてくれない。ただの面倒臭そうなものだとしか思わない。そんなことを言われてる気がしてならなかった。
私が今まで頑張ってきた
もう、全部が嫌だった。
「…あまりあいつの言葉を真に受けちゃダメだよ」
優しい声がした。憧れてたあの人の声だった。私は凄くイライラした。でも、声には出さないようにした。
「私の芸術なんか、もう…」
「そんなことない。私には分かる。あなたがどんな世界を見せたかったのか、あなたがどんな物語を紡ぎたかったのか、あなたがどれだけ努力したのか。私には、それがちゃんと伝わってくる。少なくとも、私が一番感動した作品はあなたのものだった。だから、あなたの、あなただけの芸術を捨てようとなんてしないで」
吐き気がした。
「…お世辞ならいりません」
「お世辞なんかじゃない。だってあなたは…」
「うるさい!」
私の中で何かが切れる音がした。彼女が狼狽えるのが目の端に写る。でも、今の私にはそんなことどうでもよかった。
もう、何も考えられない。考えたくない。だから
「もう、やめさせてください…」
「……」
彼女はそっと私を抱き締めた。凄く不愉快だった。でも、抵抗する力はなかった。
私にはもう、何も残ってなんかいない。希望も、未来も、
だから、もう…
「殺してよ…」
「……」
頭がボーッとして、瞼が重くなっていく。頬に水が落ちてくるのを感じながら、私の意識は暗闇に落ちていった。
そして次起きたときに私が目にしたのは…
「…知らない、天井だ」
芸術の果てに Aoi人 @myonkyouzyu
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