第4話 とある剣士の後遺症〜定期検診〜

 デニスさんに密着して約一ヶ月、今日は月に一度の定期検診の日、取材陣はカメラが入ることをデニスさんと病院に許可を取り密着させていただく事になりました。

 まずは、問診から、するとデニスさんは一冊のノートを取り出しました。


「う〜ん……だいたい前回と比べて……0.8秒ぐらいかな? 反応スピードが落ちてますね」


「……そうですね、自分も感覚的にそのぐらいだと思いますね」


 後日、デニスさんにそのノートを見せてもらいました。

 その中身は、その日の仕事内容、どんな場所でどんなモンスターと戦ったか? モンスターの使った武器がどんな物で、どの角度からどの距離で、おおよその速度はこのぐらいの速さで、それを避けきれずどれ程の傷を負ったか、又はちゃんと避けきれたか、などなど細かく分析が書かれていました。

 デニスさんはこれにより自分は今どのくらい後遺症が進んでいるのかが分かるそうです。

 

「じゃあ次は魔法脳波をやっていくので、隣の部屋のベットで横になってて下さい」


「は〜い、デニスさんこちらですね、今、魔法の力を弱めるアイテムとかですね、貴金属とか身につけてはいないですか? もし身につけていたら外しちゃって下さいね〜」


「大丈夫です」


「大丈夫ですか、じゃあこちらのベットに横になっていただいて、睡眠魔法をかけるので、お体の力抜いてリラックスして下さいね〜」


「は〜い……」


 魔法脳波は対象者を魔法で睡眠状態にし、魔法脳波測定装置を使って、頭皮に取り付けた電極から脳の電気信号を記録します。

 簡単に言うと、夢の中で仮想の敵と戦いその時に発せられる脳波を見て脳神経の動きを見るというもの。


 ────1時間後


「は〜いデニスさん、起きられました?」


「はい……」


「デニスさん今、お身体はダルさとか気持ちが悪かったりとかの症状はありますか?」


「……大丈夫です……」


「大丈夫ですか? そしたらですね魔法脳波と脳覚醒魔法の治療も行いましたのでデニスさんゆっくりでいいので体を起こして頂いて、歩けそうなら待合室でお待ちいただけますか?」


「……はい……」


 待合室で待つ間、デニスさんに治療の事について聞いてみました。


 ────今、インタビュー大丈夫ですか?


「あぁ……大丈夫だよ」


 ────あのノートは毎回かいているんですか?


「あれは毎回欠かさず書いてる、あれはもう俺の生命線みたいなものだから……要するにあのノートを見れば前の状態と比較出来る訳だよ、感覚だけでやるとどうしてもズレが出てくるから数字としてちゃんと表示すればより精密に軌道修正ができるし」


 ────軌道修正とはどんな感じですか?


「う〜ん……綺麗に言い過ぎたな、ただの誤魔化しだよな、例えば攻撃の理想の避けた方がなんだか分かる?」


 ────……チョット分からないです。


「出来るだけギリギリで少ない動きで避ける事なんだけど感覚だけに頼ってやると過信しちゃって間に合わなくなるんだよ、だけど数字として分かっているんだったら大体この辺で避ける準備をすれば間に合うだろうという予測がより正確にできるでしょ?」


 ────それで効果が出るもんなんですか?


「いや勿論、ギルドの仲間に実践訓練とか付き合ってもらって、ちょっとずつ、ちょっとずつ修正というかまぁ……どこまで行っても誤魔化しにしかならないんだけどね」


「デニスさ〜ん検査結果が出たので診察室までお願いしま〜す」


 ────


「は〜いデニスさんね、それでは検査結果の方なんですが…… 魔法脳波のデータなんですけど、前々回の反応脳波がマイナス1.7Qhだったのが前回がマイナス2.3Qhで幅がマイナス0.6Qh分下がっていて……今回がマイナス3.1Qhなので0.8Qh分下がってますね」


「……」


「まだ急激に悪くなってる訳でもないですし脳覚醒魔法も一応掛けておいたので……いつも通りと言ったら変ですけど様子見でいいと思います」 


「……分かりました」


「でも、確実に悪化のスピードが上がってるんでね」


「……はい」


「急激にガクンと悪くなる可能性も全然ありますからね」


「……」


「その辺は頭に置いといて下さい」


「……分かりました」


 後日取材陣は、デニスさんの担当医にインタビューを行った。


 ────デニスさんの今の状態っていのは?


「まぁ……もちろん確実に悪化してますね……ただやっぱり凄い事だと思うのは普通の人だったらとっくにアウトですよね」


 ────どういう事ですか?


「脳反応を示すQhの下げ幅はもっと激しいはずですので、デニスさんは発症して10数年経っているので通常ならもうとっくに引退してもおかしくないですよね」


 ────医師の立場で言うと、そのQhがどのぐらい下がったら……。


「大体5Qhで反射速度が1秒遅れるんですね……そこまで行ってしまうと、まぁ……医者の立場からは責任を負いかねる感じですかね」


 ────回復の見込みみたいなものは無いんですか?


「ないです、出来る事は治療とデニスさんの努力で下げ幅を緩やかにする事だけです……でも普通の人よりも緩やかなので」


 ────それはデニスさんのポテンシャルとかで緩やかになってるんですか?


「まぁ、それもあるかも知れないですけど……一番は現役にこだわって努力してる所じゃないですかね? いわゆる執念ですよね……本当に凄い」


 帰路に着く途中デニスさんに何故そこまで現役にこだわるのかを改めて聞いてみた。


「……俺の親父がね昔職人やってたんだよね」


 ────なんの職人だったんですか?


「大工だよ……昔気質の人間でお袋が病気で死んでから男手ひとつで俺を育ててくれてね」


 ────お父様は今もご健在なんですか?


「いや……俺が14の時に肺癌で死んじゃった」


 ────そうなんですね……。


「その時はもうギルドで働いてたから死に目に会えなかったけど」


 ────デニスさんは9歳の時にギルドに入られているんですよね。


「親父にやりたい事があるなら若いうちに実践を積んだ方がいいっていう教育方針だったからね」


 ────どんなお父様だったんですか?


「もう仕事一筋みたいな人だったよね、どんなに身体が体調悪くても、終わらせなきゃいけない仕事があれば、3日3晩徹夜で仕事をやってるみたいな感じだったし、俺はその親父の背中を見てきてるからね」


 ────デニスさんの仕事へのこだわりはお父様の影響だったんですね。


「それとね……親父が癌で入院してる時に見舞いに行ったら親父にお前が一度志したなら最期までやり抜けよって弱々しい声で言われたけど、ずっとそれが耳に残ってるんだよね」


 父との口約束……"最期までやり抜け"その言葉を胸に後遺症になり収入は減り周りからなんと思われようとも今日も現役、これからも現役……しかし、またしてもデニスさんに試練が……





























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異世界ノンフィクション クマ田クマ尾 @Kuma3131

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