第10話 新たなる運命の始まり

全てが終わったかのように見えた瞬間、俺の心に一つの疑念が残っていた。ヴォイドリーパーズのリーダー、シャドウとの戦いを経て、ヴォイドの意志を断ち切ることができたはずだった。だが、そこに立っているアルベルトの冷たい笑みは、それがまだ終わりではないことを告げていた。


「お前たちは、まだ理解していないようだな……」


アルベルトの声が静かに響く。俺は剣を握りしめながら、彼を見据えた。ヴォイドの力は確かに封じ込めた。シャドウは倒れ、結界も破壊された。それなのに、なぜ彼はこうして余裕を見せているのか?


「シャドウや私たちは、所詮駒に過ぎない。ヴォイドの意志は、この世界のもっと深い部分に根付いているのだ。そして、その力を完全に解放するためには……」


アルベルトの手がゆっくりと空中に伸び、その指先が闇に溶け込むように消えていく。すると、周囲の空気が急に重くなり、異様な緊張感が漂い始めた。


「何を企んでいる……?」


俺は声を張り上げたが、アルベルトは答えない。ただ、淡々と手を動かし続ける。


「ヴォイドの源を解き放てば、リグレアのすべてが私の手に落ちる。お前たちは、ただそれを見届けるしかない。」


その言葉と共に、空間が裂けるように光が放たれた。アルベルトが触れた場所から、巨大なゲートが現れ、そこからは異次元の力が溢れ出してくる。まさに、ヴォイドの本質そのものが目の前に広がっていた。


「ここで……終わらせる!」


俺は剣を構え、全力でアルベルトに向かって駆け出した。だが、その一歩が重く、まるで異次元に引き込まれるかのように足元が揺れる。


「遅い、健吾……」


アルベルトは再び笑みを浮かべ、手を一閃した。その瞬間、異次元から無数の影が飛び出し、俺たちを取り囲んだ。


「くそ……!」


俺は剣を振るい、影たちを斬り払う。しかし、影の数は次々と増えていく。まるでヴォイドそのものが無限に広がっていくかのようだ。


「健吾、もう限界だ……!」


レイナが叫ぶ。彼女もまた、限界に達していた。シャドウとの戦いで既に疲弊していた俺たちには、これ以上の力は残されていない。


「どうすれば……」


俺は焦りの中で剣を握りしめた。だが、その時、頭の中にある感覚が蘇った。ヴォイドは単なる力ではない。それは「意志」だ。そして、その意志に対抗するには、同じように強い「意志」が必要だ。


「意志……」


俺は自分の剣を見つめ、深呼吸をした。シャドウとの戦いを通じて覚醒した「隠されたものを見抜く力」――それを今こそ完全に解き放つ時が来たのだ。


「俺は……この世界を守る。ヴォイドに飲み込まれるわけにはいかない!」


俺の声と共に、剣が眩い光を放った。その光はまるで、ヴォイドの闇を押し返すかのように強烈な力を放ち、影を次々と弾き飛ばしていく。


「健吾……!」


レイナの声が遠くで響いたが、俺はただアルベルトに向かって突き進んだ。ヴォイドの意志を断ち切る――それが今、俺の使命だ。


「これで……終わりだ、アルベルト!」


俺は剣を振り上げ、全力で彼の心臓を貫いた。その瞬間、周囲が静まり返り、アルベルトは驚愕の表情を浮かべた。


「まさか……ここまでとは……」


アルベルトの体が闇に溶けていく中、彼は微かに笑った。


「だが、ヴォイドは……消えない。お前たちがどれだけ抗おうとも、ヴォイドは存在し続ける……」


最後の言葉を残し、アルベルトは完全に消滅した。その瞬間、異次元のゲートも閉じ、ヴォイドの力が完全に封じられた。


---


「……終わった……」


俺は剣を握りしめたまま、地面に膝をついた。全身の力が抜け、やっとすべてが終わったことを実感した。


「健吾……よくやった。」


レイナがゆっくりと近づき、俺の肩に手を置いた。彼女もまた疲労で限界に達していたが、その表情には微笑みが浮かんでいた。


「ありがとう、レイナ。君のおかげで、ここまで来られた。」


俺は彼女に礼を言い、静かに目を閉じた。


「これで……本当に終わったのか?」


心の中で問いかける。ヴォイドの力は封じられた。だが、アルベルトが最後に言い残した言葉――「ヴォイドは消えない」――それが頭から離れない。


「……今は考えるな、健吾。」


レイナがそう言って、俺の肩を軽く叩いた。


「この世界は救われた。それで十分だ。これから先、何が起ころうとも、私たちは立ち向かう。それでいいだろう?」


俺は彼女の言葉に頷き、ゆっくりと立ち上がった。


「そうだな……俺たちは、まだこれからも戦うことになるかもしれない。でも、どんなことが起ころうと、俺たちは諦めない。」


レイナと共に空を見上げる。そこには、闇が消え、再び青空が広がっていた。


「これからが、新たな始まりだな。」


俺たちは互いに頷き合い、静かに歩き出した。この世界にはまだ多くの謎が残されている。だが、俺たちはそれに立ち向かう覚悟ができていた。


そして、新たな運命の扉が、今、開かれた――。


---


エピローグ:


数ヶ月が過ぎ、リグレアは再び平和を取り戻していた。ヴォイドリーパーズの脅威が消え去り、王国は復興に向けて歩み出している。だが、俺たちは知っている。ヴォイドの力は完全には消えていない。いつか再び、この世界に試練が訪れるかもしれない。


それでも、俺たちはその時に備えて、日々を生き続ける。仲間たちと共に、未来を切り開いていくのだ。


「健吾、次の冒険に出かける準備はできたか?」


レイナが笑顔で問いかける。


「もちろんだ。いつでも準備は万全だよ。」


俺は彼女に微笑み返し、新たな旅に向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】ヴォイドリーパーズ:隠れた戦争の支配者 湊 マチ @minatomachi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る