第四話 黒鉄とウルフのガンファイト

 授業明けの昼休み、一輝の小隊は屋上で地図とチェスの駒を広げて、なにやら騒いでいた。


「だからー、ここは僕らの火力を生かして離れた方が!」


一輝が言うと女子陣が反論する。


「だったら近づいて殲滅した方が早いでしょって。犠牲はつきものじゃないの。」


愛秋のその言葉に今度は瑛人が反論した。


「だけど一輝と僕は近距離より中距離の方が戦いやすいから、なるべく離れて戦いたい。」


それに対して次は結城が口を開いた。


「それでいったら僕らは近くで戦いたいんだよねー。愛秋の言うとおり、囮としても使えるんだからさ。」


そして、その後も十分弱時間は流れ、やがて沈黙が流れた。しかし、その沈黙を壊すように、一輝が言った。


「じゃあ、こうしよう。これならみんな納得できるはずだ。」


一輝は駒を動かしつつ、何かを説明し、皆を説得した。


「うーん…これならまぁ。」


愛秋も不満を抑えつつ、了承した。他の皆も私も僕もと一輝の案に賛同した。そうしてやっと議論が収まった時、咲夜が眠そうな声で一輝に尋ねた。


「…どうなりましたか?すみません、ご飯で眠くなってて…」


 そうして迎えた5限目、生徒達は寂れた市街地のようなフィールドに集まっていた。生徒達は皆、黒のシャツにダボっとしたズボン、中にはミニスカートの者もいる。誰も軍服のような姿だ。そして生徒達は教師はと目線を向けている。


「今から分隊演習授業を始める。順番は今朝のプリントを見ておけ。まずは、えー…フルメタル…スクールと、ウルフ分隊!配置につくように。」


一輝達は立ち上がり、励ましを貰いながら指定の場所へ移っている時、ある男が声をかけた。


「お前らが対戦相手、へぇ、弱っちそうじゃん。せいぜい肩慣らしになるまで持ってくれよ?」


それに一輝が反論した。


「えー‥っと、リーダーの、黒崎くんか!大丈夫、20分だけ戦ってやるよ。みんな、敵であるトイプードルやチワワの相手をして差し上げろ。存分に可愛がってやれ。」


そういって彼らは足を動かし、それを見た黒崎は大きく舌打ちをして、苛立ちを隠さず分隊と一緒に配置へ向かった。彼を除いた分隊のメンバーにはどことなく、怯えているような、怖がっているような目をしていた。

高校内での初の分隊演習が、今始まる。

 ブザーが鳴り響いた。試合開始の合図だ。一輝は叫んだ。


「みんな、勝つぞ!作戦通り、しばらくは固まって動いてくれ!咲夜、デートかっこわらいの時間だ!2人で攻め滅ぼすぞ。」


咲夜はその言葉に若干驚きながら、はいと返事し一輝について行った。かくして、分隊は二手に別れることとなった。

 瑛人達は、所々が崩れたビルの2階をを拠点として索敵を行っていた。


「うーん、いないわねぇ…」


愛秋がそう言うと、瑛人がそう言う。


「当たり前だよ。相手はおそらく一点に固まったいる。だから、僕らならあそこに移動すると思う。」


瑛人はそう爆破されたような小さな店を双眼鏡を向けていたが、敵を見つけたのか、来た!を連呼していた。


「見つかった?奇襲しに行く?」


結城が彼に問うと、瑛人はもちろん。と小銃を手に持った。引き金でハッピーになれるチャンスが嬉しいのか、SMG女子たちは全速力で向かった。瑛人は、それを必死で追いかけるべく、待って、待ってと言いつつ、重い小銃を背中に追いかけっこをしていた。

 所変わって、咲夜は屋上に、一輝はその下の2回にいた。ビルの側面には大きな穴が、半球のように空いていた。一輝がポツリと独り言を漏らす。


「うーん…驚くほど静かだ。やっぱ、あいつから処理すべきかなぁ…なんか、きな臭いんだよな。あの目、あの返事。」


そう相手の分隊についてあれこれ考えている時、聞いたことのある怒鳴り声が聞こえた。


「おい、まだ見つけられねーの?早くしてくんね?」


黒崎は大声で、ヤジを飛ばしていた。編隊を見る限り、自分を守る為味方を盾にするような魂胆が見透けていた。


「おっ来た来た。やっぱ周りからかな。なんか強そうなんだよな。」


そう一輝はそう呟いてAK47の引き金を抜いた。

 ウルフ分隊は、奇襲的な銃撃に、総員混乱状態にいた。


「お前ら、早く反撃しろよ!リーダーの俺が倒れたら終わりだぞ!」


その言葉にビクッとなる様に焦る手でところ構わず反撃していたが、未だ一輝の場所は掴めずにいた。そうして暫く虚を弾いていた彼らの耳に、屋上から爆音が届いた。気づけばm16を持った分体の1人が倒れていた。そうして、僅か2分弱の衝撃に耐えきれず、黒崎は足早に撤退し、それに着いていくように残りの3人が走っていた。ただ、その隙を一輝は見逃さなかったようで、

「ファイア」と一言呟いてからカラシニコフを火吹かせたが、急所には当たらず、気絶には至らなかった。

 一輝と咲夜は一階で合流し、グータッチでお互いを讃えていた。


「お疲れ様、やっぱスナイパーは偉大だよ。たった1発で撤退まで持ち越せるなんてさ」


咲夜はその言葉に謙遜を込めて返す。

「いえいえ、不破さんもお疲れ様です。囮となってくれたお陰でうまく狙撃ができました!」

そう答える咲夜の笑顔は、先ほどまでスナイパーとして恐怖の底にしたとは思えないほどだ。


「んじゃ、柳樹さん達と合流しよっか。多分、もうすぐここに…」


一輝がそういった直後、交差点の隅からアキたちが走って出てきた。


「お疲れ様、もう戦闘は終わったよ。MVPはこれじゃ咲夜になりそうだな。」


照れくさそうにしている昨夜を横目に、ユカとユウキが残念そうに言った。


「あーあ、折角ウチらの銃が役立つと思ったのに。」


「そう残念がらないで。撤退しただけで、あと3人残ってるから。さぁ、みんなで潰しに行こう。」


その言葉に女子2人は、明るさを取り戻して子供のように走り始めてしまった。

 場所は移って、瓦礫の向こうに隠れて作戦を黒崎が伝えていた。


「いいか、後ろはフィールドの壁、そして両隣にはビルや店の亡骸ばっか。つまり、一方向意外に敵は出てこない。ここにおびき寄せて反撃を喰らわせるぞ。」


1人が反論をしようとしたが、黒崎の睨むような目と周りの静止で、言いかけた言葉を反芻する様に戻した。


「じゃ、決まりだな、見張りしとけ。スマホやっとくから。」


彼らはその命令にうんともすんとも言わずに従った。反論しても無駄だと思っているのか、普段から怒鳴られたりしなているのであろう。肉体的な疲労から、目は試合が始まるより黒く見えた。が対して黒崎は、疲労をなんなそのと言うかのように楽しそうな目でスマホを見ていた。

 一輝は息切れしつつ瑛人の腕を首に陰ながら彼に問いかけた。


「どう、回復した?こっちも限界なんだが。ライフル2丁待つの、ものすごいきついんだけど。」


彼のその言葉を瑛人は少し元気を取り戻したのかもう大丈夫と言い、しかしフラフラしながら一輝達と同じペースで走った。


「ちょっと一輝!遅いんだけど。」


「そうだよ瑛人くん、男の子なんだから僕より体力あるはずじゃん。」


アキとユウキは元気で且つ不機嫌な顔でそういった。


「なんで、あいつらはあんなに元気なんだ…もうあの2人で勝てるんじゃないか?」


息切れしつつ、一輝は言い、優しく咲夜はそれに返した。


「まぁまぁ、瑛人さんは元々無理して近距離に合わせてるんですし、一輝さんもちょっと前まで5人と戦ってたんですから。しょうがないですよ。」


「ありがとう、やっぱあの子達よりよっぽど女の子してるよ。ヒロインじゃんこれもう。ライフル、持つよ。」


一輝はそう言い、瑛人もうんうんと同意する。その言葉に咲夜は答えた。


「いや、大丈夫ですよ。さっきまでアサルトライフル2丁持ってたんですから。申し訳ないです。でも、ヒロイン…」


咲夜はその後しばらくもヒロインと静かに味わうように復唱していたが、それに割り込むかのようにアキが叫んだ。


「10字の方向に敵発見!反撃するわ。」


やけに嬉しそうな声で言っていたが、ユウキもそれに続けて楽しそうだと言っていた。


「よし、これで最後だ。終わったら学食行く?風の噂だけど、ラーメン、売ってるらしいよ。」


そう一輝が言うと、瑛人は目を明るくして言った。


「何味?」


「今日は二郎リスペクトだったと思いますよ。」


そう咲夜が答えると、瑛人は水を得た魚のように叫んだ。

「5秒で潰す!」


そういい終わる前に、彼はギアを上げたかのように全力ダッシュを繰り出した。


「全く、調子のいいやっちゃの。どう、咲夜も行く?スイーツもあるらしいよ。」


「え、行っても…いいんですか?」


咲夜の驚いたような問いに彼は、元気な声でもちろんと答えた。


「4秒で潰します!」


そう言って今までにない速さで駆け抜けた。


「ほんっとに…待ってやー!ちょっとー!」


ポツリと残された一輝も、鬼ごっこのように彼らを追いかけていた。


 「まずい、このままじゃ負ける!」


彼らは反撃をかけるつもりが防戦一方であった。


「やばい、こっちも、こいつら、当たるのが怖くないのか?」


そう言って彼らはSMGを持った少女に向けて乱れ撃っていたが、彼女ら2人はハイになっているのか、向けられた銃弾は虚を貫くだけだった。


「はじめましてぇ、チワワちゃん達!」


アキは甲高い声で相手に顔を見せないほど屈んで走っていた。

弾切れを起こし、クソッと言ったり、舌打ちをしたりしている彼らが見たのは、まるで悪魔のような笑顔を。銃口と上は上へと上げられた悪魔のようなドス黒いような笑顔だった。命まで刈り取られると感じた2人は、他の生徒達にまで聞こえるほどの叫び声が聞こえた。

そうして悪魔のような笑顔の2人に、1番奥の瓦礫に潜んだ黒崎ともう1人の生き残りは、銃を抱えて震えていた。


「おい、お前行ってこいよ。」


黒崎は震えた声でそう言う。


「はぁ?やばいよあいつら、悪魔だよ。」


もう一方が震えていた声でそう言い、また彼女らの甲高い笑い声を聞いて、ヒッと震えが強くなる。どうやら、それは黒崎も同じらしい。


「いいから行ってこい!ぶん殴るぞ!」


大声で黒崎は言い、一方は二重に孕んだ恐怖でおかしくなったのか、ちくしょぉと叫びながら彼女らに突撃していった。

案の定、彼は2人の悪魔に、いらっしゃい言われながら、と蜂の巣にされた。


「黒崎くぅーん、かくれんぼはもう終わり?ん、あれぇ?弾切れちゃってる」


アキも続ける。


「だめだめ、私たちに怯えてるんだわきっと。ねぇ?チワワちゃーん。あれ、私も。弾切れちゃった。」


黒崎はついに狂った。言葉で表せない、もはや言葉ではない叫び声をあげ、つい先ほどのように、まるで旧日本軍のように突撃をした。が、そのトンプソンを、雷鳴のような狙撃で後方の壁に叩きつけられてしまった。だが、黒崎は即座に腰の銃を取り出そうとしたが、手が震えていたのか、拳銃を落としてしまった。彼はそれを拾おうと前を屈んだが、その頭頂部には二つのバレルが、コツンと当たった。


「あぁ、終わった…降参だ!降参!助けてくれ!殺される!」


黒崎は腰を抜かしたのかそう叫んだ。刹那、終了のブザーが鳴った。黒崎にとっては敗北の合図だっただろうが、その屈辱よりも生をギリギリこれからも享受できると思ったのか、安堵の表情を浮かべていた。

悪魔達は正気を取り戻したのか、あらと少女の声を上げていた。


「良かった。やっと"人"に戻った…」


それに瑛人もうんうんと頷く。


「なにが、人に戻ったよ!バカ!」


そうアキが良い、今度は瑛人達が追いかけられる番となった。


 「はい、食券ちょうだい、えーと…ニンニク入れる?」


演習疲れの生徒が多く、忙しいのか少し焦った声でおばちゃんが聞いた。


「全マシ二つと少なめマシマシカラメで。っと、それと──」


「抜きマシマシカラメで!」


食堂には、チャーシュー3枚乗った二郎を貪っている分隊「フルメタル;スクール」の姿があった。体力をだいぶ使ったのか、咲夜をのぞいて、まるで逃げる獲物を捕まえるかのように食べていた。


「うーん、やっぱ美味い!やっぱりチーズも合うんだよな。エイト、はいあーん」


瑛人は戦士の目をしていたが、それに気づき、チーズが乗った焼豚をパクリと食った。しばらく咀嚼して、美味いと、ポツリと呟いた。


「あっずるい!僕も欲しいです!」


昨夜がそういうと、一輝は少し驚いたが、咲夜にも与えた。


「確かに、美味しい!あっでもこれって…」


咲夜が顔を赤らめて呟くと、アキがムッと一輝に言った。


「ずるい!私も!」


「えぇー?でももうこいつ一つしか居ねぇし、まぁ、あーん」


アキは食い気味で頬張り、そしてその後咲夜と睨み合いの銃撃戦が怒っていた。ユウキとエイトはそれを引き気味で見ていたが、一輝はそれも知らずに二郎を貪り食っていた。

そうして一輝が最初に食べ終わった頃、一輝はみんなに言った


「すまん、ちょっと野暮用。すぐ戻ってくるよ。」


 夕方にもなり、自販機の隣のベンチで、ウルフ分隊はしみったれた雰囲気で居た。


「葬式会場はここですかっと。」


一輝がそう言うと、黒崎が口を開いた。


「お前、何の用だ。」


「おっと、そんな怖いこと言うな。ほら、君ら腹減ってるだろう。」


一輝はそういってみんなにおにぎりの入った袋を「差し入れだ」と言い渡した。


「…ほんとに何の用だ。」


「まぁまぁ、お前らってほんと惜しいよなぁ、俺らとは行かずともそこそこ強いのに、チームワークがゴミなんだから。」


イラついたかのように黒崎はハァと言ったが、一輝は続ける。


「編隊見たけど、リーダーが聞いて呆れる。いいか?負けたのはこの子達のせいじゃない。捨て駒にしたお前のせいなんだ。それを、いい加減逃げずに認めようぜ?」


「三年間共にする仲間に対する態度がそれか?いい加減、子供のままじゃなくて、ちょっとは大人になろうぜ?情け無…」


「辞めてくれ!」


1人がそう叫ぶ。以前から黒崎は黙ったままだ。


「辞めてくれ、確かに、不満はある!こんな分隊で良いのかと何度も思った。だけど…だけど!」


「だけど?なんだ?」


一輝がそう囃すとその男子は続ける。


「大切な…仲間なんだ!仲間を、そんな簡単に見捨てられないだろ!」


黒崎は涙浮かべた顔を上げ、ハッとした表情を作った。他の生徒も僕も俺もと、その言葉は私が黒崎以外の総意となっていた。


「へぇ、いい仲間持ったじゃん。トイプードルさん。大切にしたまえよ。いつか、それが灰みたいになって消えちまう前に。」


そう一輝吐き捨て帰って行った。その背後には、大粒の涙が頬を伝った黒崎の姿があった。その姿を見て、情けないと思うものもあるだろう。しかし、その周囲にいる「分隊のメンバー」たちは、ひどく暖かく、抱擁的な態度だった。


 「全く、遅いわね。私たちもう食べ終わっちゃったんだけど。」


まぁまぁと不満げなアキを周りが宥めている中、お待たせ!と元気にみんなに言った。


「ちょっと、何してたの?遅いんだけど!」


「ごめんごめん、ちょっと、迷える子犬達を導いてた。」


「なにそれ、どうせトイレやらでゲームしてたとかでしょ」


「あはは、バレちゃった?」


そんなイツキとアキの会話を見て、3人は疲れた雰囲気から解放されたと笑顔で見ていた。


「じゃ、ゲーセンでも行く?」


一輝のその言葉に、全員口揃えて元気に


「行く!!!」


「じゃ、決まりだね。言っとくけど、レースゲームじゃ負けないからな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 10:00 予定は変更される可能性があります

FULLMETAL;School @Saku_Rui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ