第6話

 夜中と言うことで、食券を入れればロボットが作ってくれるこの食堂では、厨房にすら誰もいなかった。

 スーパーの袋を二つ、四人席の片側の片方にそれぞれ置く。俺とこの子が向かい合う形で、隣の席に袋、という状況だ。

「いいのか、食わなくて」

「いえ、夜食はあんまり……」

 牛丼並盛を食べつつ、イチゴオレを飲む。食堂の飲み物にジュースも多いのは、結構良いことだ。

「それで、何から話そうか」

「あ、はい。まずはその、連絡先を……」

「そうだな」

 何となく上から目線になってしまったが、そんなつもりはない。

 取り敢えず連絡先の交換を済ませる。

「……ちょっと、俺から、話してもいいか?」

「はい……」

「もう多分、知ってるとは思うけど……」

 まずは、どこから話すか……

 一からでいいか。


 ――まず、空島では定期的に、黒い異形の人ならざる何かが発生する。

 俺達は、影のような異型の人だから、影人かげびとって呼んでる。正式な名前はない。どっちかって言うと、通称だ。

 形はだいたい、見た通り。爪や、口があって、変わりに目がない。おおまかな特徴はこれだ。

 その影人は、基本的に、人が多く集まった所に発生する。

 影人……そいつは人を食らう。何か理由があるのか、生きるのに必要なのかは判別できていないけど、人を主食にしてるから、人が極端に集まったり行き交う所によく出る。

 影人はもう二つ、出てくるのに条件がある。

 一つは、負の感情。脳波を見てる説もあるけど、負の感情が出ていると発生しやすい。

 そしてもう一つは、儀式的なもの。

 儀式みたいなもの……って言うけど、単に暗号化された合図みたいなものだ。

 影人が発生する原理はこれ。残りは、全く分かっていないよ。


 そんな影人だけど、それと別に、特殊な力を持った人はいる。

 程度に差はあるけど、その最たる例が……

 君も持っている、能力。

 特別異能……特異って呼ばれてるね。その保持者が、特保とか言われてるけど、今はいい。

 特異は、人によって異なる。

 五億人に一人。と言うように、極端に数が少ないから、細分化されていないけど……例えば、君の特異は?

 水を操る特異もいれば、概念的なものを得意とする特異がある。

 それぞれの特異同士は、効果範囲や時間でだいたい同じくらいの強さになるようにはなってるらしいけどね。

 まあ……とにかく、特異は、概念的な何かってことは覚えてね。

 その特異を持った人がが全員所属してる組織が、レティー。

 二つある空島の政府と、日本政府、向こうの空島の連盟政府にも属さない組織で、人数は数百人。

 ……俺の今着てるこれが、制服。


 取り敢えず、まとめ。

 ますは、影人。これはほっとくと人を食べるから、レティーがひたすら討伐してる。

 レティーに所属する中でも特異を持った人がいて、その人達は漏れなく強いけど、能力はバラバラ。

 また、レティーは何かあったら政府に切り捨てられるように、どこからの命令も受けてない組織。

 ちなみに俺等下っ端は、基本的に、上層部からの依頼で動くから、自主的に動くことはあんまりないよ。

 以上。


 ……と、言う訳だ。

 単なる話、特殊組織に所属していて、命令があったら動くだけ、と思えばいい。

 後の事は全部、本部やら上層部がやってくれる。

「細かい……例えば、影人の液状化とかは、後々だ。今は、大まかに、目的に沿ってるって事を確認してくれ」

「目的……はい!」

 ブリーフィングはこれでいいだろう。

「……ご馳走様だな。じゃあ、飯食ったし、解散でいい。同居人は起こさないほうが身のためだぞ」

「え!? 起こしちゃ駄目なんですか?」

「防音設備がしっかりしてるから、同室だったら起こしたらそういうビルの設計が全部無駄になるな。後、職業柄金属類の音にはやけに敏感だから、帰らずにホテルで泊まったほうがいい」

「えぇ!? 本当ですか……」

 強い人ほど、睡眠を大切にする傾向がある。

 だから、やめといたほうが賢明だ。

「金にはそのうち困らなくなるし、贅沢してもいいと思うぞ」

「そのうち困らなくなる?」

「そうだな」

「……でも、自分の金銭感覚がおかしくなるのは怖いので、ちょっとだけ抵抗が……」

 まあ、それもそうだ。

「今日は……依頼後だし、三人共いないか」

 なら……

「俺の部屋でいいだろ?」

「……部屋? えっ……えええぇぇぇっ!?」


 ヤニやらなんやらが散乱している部屋の奥、俺の部屋に通すと、一緒に中に入る。

「メイクは勝手にしてるはずだから、自由にどうぞ。さて……」

「も……もしかして……」

「察したか」

 わざわざこの部屋まで連れてきたのは、意味があるのだ。

「……っと」

 取り敢えず、カーテンを、閉める。

 閉めた姿勢のまま、ぽつりと呟いた。

「六階までしか、チームの部屋がないんだよな」

「……待って下さい、まだ心の準備が……」

「……待たない。まだ説明してないことで、結構重要な事がある。この部屋、どのような基準で俺の部屋がここになったか分かるか?」

「え? …………???」

 カーテンをキュッと握り締めて、敢えて、演技くさく言う。一人芝居は得意じゃない。

「まず、一階の部屋って、誰が住んでると思う? 簡単な話で、すぐに出動しやすいように、ランクが高い人が住んでいるんだ」

 ……即ち。

「地下に住んでる人が一番強い、その次に一階、二階……そして、もう一つ。エレベーターに近い部屋ほど、強い人が充てがわれる。まあ、こっちは大事じゃない。上の方のランクの人は、特化型とかも多いからな。そのときは、出番によって変わる」

「……」

 言いたいこと、分かってくれたかは知らないが、この部屋に泊めたのは、心理的な意味も大きい。

「まあ、こういう基準で、俺は最弱の部屋にいる。それは置いておいて……歓迎するよ、レティーに来てくれて」

 部屋の電気を消しに、スイッチの方に歩く。

「本来の部屋で本来の人がやるべきことなんだろうが、変わりに祝う――よし、もう言うこともなくなったし、いい子は寝る時間だ」

 電気を消して、ドアを開け――

「早寝しておけよ?」

 俺は、去った。


 流れ的には何となく分かっている。この調子だと、彼女の師匠ポジとして、ある程度何かやるってことは。

 勿論、教えるのは、地駿とかその他諸々。知識も叩き込まないといけないし、面倒だ。

 結果的に俺の命は助かったので、許さざるを得ない……のだが。

 本心は隠しておこう。

 という訳で、俺は自分の借りてるホテルに向かう。

 長期的に借りられる、って言うのは、結構ありがたいものだ。不在にしても事情が通じてるので何も言われないんだし、レティーの隠れ巣みたいになっているのも、俺としては身分が上のヤツの陰に入れる安心感はある。

 のびのびと、一晩を明かして……

 朝起きたら、通知が入っていた。

 発信元は――予想通りと言うべきか、あの時の少女……

 まあ、あの時の少女という言葉に悲しいイメージじゃなく、勇ましい……なんというか、強いイメージを持つようになるとは思うが。

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2024年9月22日 00:00
2024年9月25日 00:00
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空島世界でハーレムを作る volans @volans

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