そらけまゆ

「」の長文は読み飛ばして良いです。そこは大して重要じゃないんで

胡桃が耳に当たった。せっかくだからと胡桃を拾った。痛む耳に手を添えながら、家に帰る。


「ああ、すみませんそこの人。その胡桃渡して貰えませんか?実は私、神なんですよ。で、その胡桃の中には私が生み出した出来損ないの神がいるんですね。創造する力と破壊するの力のいずれかしか持てなかった出来損ない。で、そんな半端な神は胡桃に閉じ込めてゴミ箱に捨てるんですよ。ですけど、隣にあったゴミ箱と間違えて貴方達の世界に捨ててしまったんですよ。いやー、捨てたところを間違えたとなると他の神に怒られてしまうんですよねー。それに、胡桃がもし割れたら貴方達を危険にさせちゃうかもしれなかったから本当に危なかった。いやー、何せ出来損ないですから八つ当たりで自分より下のものに手を出してしまうんですよ。そうすることで自分の価値を証明しようとするんですよ、出来損ないはそういう生き物ですから。しかし、なんで出来損ないはそういうことをしてしまうんでしょう。下を倒しても自分の価値は上がるわけがないでしょうに。貴方もそう思いませんか?」


耳をすりながら横に抜けた。少し時間がたって耳に腫れが出てきた。


「おお、それはまさしく神の胡桃!!ああ、申し遅れました。私たちは、胡桃の神を信仰するものです。私たちは胡桃から神を復活させて新世界を作ろうとしています。あなたは今の世界どう思いますか?差別だったり、誰かが誰かを貶したり、それらの結果人が死んでしまうこの世界は間違っている、そうは思いませんか?そこで私たちは胡桃の神のお力を借りてこの世界を滅ぼすという目的があります。あなたも、そうなんでしょう?ええ、分かりますとも!辛かったでしょう?そんな全てを恨んでいる目をしてしまう程に。いやしかし、いやだからこそあなたは神の胡桃に選ばれたのです!私たちは胡桃を割る技術を持っています。さぁ私たち、その神の胡桃を!!」


横道に避けて近道する。アパートの階段はコンコンと響いた。耳が赤くなっている気がした。


「ただいまー」


埃が少し舞った空気が出迎える。

垂らされた紐を引っ張り、コップの中に胡桃を入れる。

からん。部屋に音がよく響かせた。

机の上に置いて、それと向き合って座った。そして、ちょっとした間をあけて、言った。


「君の名前を呼ぶ人はいなかったね」


見下す意図も同情する意図もなかった。それが出来る程、私は偉くも強くもなかった。


「みんな殻しか見ていないんだ。硬いから、割れないから、面倒だから。誰も中身を見ようとしてくれないんだ」


俯いて、私は言った。耳が痛かった。

席を立ち、紐を引っ張る。空は殻に覆われたように見えた。そのまま私は床についた。

何かが割れた音がした。静かに、ゆっくりと。

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そらけまゆ @fugang08

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