おまけ:結愛の日記
結局、俺は死ねなかった。自殺防止ネットもないのに。なんでだろう、飛距離が足りなかったのかもしれない。
今は退院して、背骨の痛みも取れた。
夢愛姉とはたくさん話をした。夢愛姉がなにを考えて心中旅行を計画したのか、俺がなにを考えてそれに同意したのか。夢愛姉は「バカ」と何度も言って、俺の頭をぽかぽかと弱く叩いた。
それが可愛くておかしくて、ああやっぱり俺はこの人が好きなんだなって。
そう気付いた瞬間、死ぬなんて考えは頭から飛んでいった。
いや、あの日、飛んだときに既にどこかに飛んでいっていたのかもしれないけど。
夢愛姉は俺が欲しいのだと言った。俺も夢愛姉が欲しいと言った。
そのやり取りを見ていたおじさんとおばさんは呆れたように笑ってから、「二人の結婚を認めます」と親指を立てた。いや結婚もなにも、俺まだ高校生なんだけど。
不登校だけどさ。
もう中退してやろうか。今すぐ働きに出たい気分だ。自分の力で生活できるようになりたいし、今の夢愛姉の年齢になる頃には夢愛姉よりもたくさん稼ぎたいしね。
中退してやると言ったら、夢愛姉とおじさんおばさんは爆笑した。面白いことなにも言ってないのに、おかしな人たちだ。
就職活動には苦労したけど、なんとかそれなりの会社に就けた。営業職だって、笑っちゃうよ。根暗陰キャに務まるわけないと思う自分もいるけど、そんな自分に心のなかで唾を吐いてとりあえずやってみる。
成績上位になってボーナスたくさん貰って、二年目とか三年目とかになったら夢愛姉とまた旅行に出てやる。今度は心中旅行じゃなくて、新婚旅行でもなくて、単なる普通の旅行だ。
たくさん食ってやるし、たくさん食わせてやろう。おじさんとおばさんも連れて行って、全員でたくさん食おう。なにがいいか……。
考えて、今からワクワクする。
あ、夢愛姉が俺のベッドでポテチ食ってる。
おい、ふざけんな、この食いしん坊め。
一枚寄越せ。
関西弁の食いしん坊系お姉さんと旅行するだけ 鴻上ヒロ @asamesikaijumedamayaki
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