ギルドの犯罪行為を末端冒険者に押しつけて追放してたら追放者がギルドを作って復讐してきた件

ぴのこ

ギルドの犯罪行為を末端冒険者に押しつけて追放してたら追放者がギルドを作って復讐してきた件

 大の為に小を切り捨てる判断は正しい。しかし小を切り捨てた時、大が大のままでいられるか、僕らはちゃんと考えるべきだ。

 …そう、ちゃんと考えるべきだった。


 冒険者ギルド “トーヴ”。僕らのギルドは今、壊滅の危機に瀕している。ギルド幹部は全員死亡。残るは僕だけ。ギルド本部を取り囲む敵の数は300人は下らないだろう。そのうち何人だろうか。あるいは全員か。トーヴが追放した冒険者は。

 冒険者は。



 僕がギルドマスターを務める冒険者ギルド・トーヴは、数あるギルドの中でも最高峰のギルドだった。その理由は単純明快。強かったからだ。ギルドマスターの僕、そしてギルド幹部の4人。いずれもS級冒険者であり、単独でA級ダンジョンを制覇できるほどの実力者揃いだった。

 魔力を増大させ、魔法を数段上の域に発展させる第一級古代書 “真理の書 壱”。かつて僕たちが冒険で偶然見つけ、ギルド幹部にのみ共有される古代の魔法書。これが、僕たちの強さの秘訣だった。“真理の書 弐”まで手にすれば、決して揺るがぬ最強のギルドとして君臨できると考えていた。

 そう、僕たちは強者だった。誰も逆らえない、圧倒的な強者。

 だから、この世のものは全て僕たちのためにあるのだと、そう考えるのは自然だった。



「ごめんwwwまーた殺しちゃってwww悪かったってwwwwwいーだろ。ほら、新入りの奴いたろ。アイツが殺したことにしようぜwwwww」


 あれは、もう随分と前になるか。幹部のひとり、コロシスギーは、人間大の大きさの袋を担ぎながら笑って告げた。彼が殺したのは知人の男だった。自宅で飲んでいたところ、口論の末に殺したと言っていた。だが幹部クチカルースギーの話では、コロシスギーはどうも初めから殺す気で自宅に招いたらしかった。

 その殺人の罪は、全く無関係の新入りギルドメンバーが負った。


 僕や幹部が犯した罪を、末端のギルドメンバーに押し付ける。いつしかトーヴでは、これが常態化していた。ギルド上層部が犯罪者となればギルドの運営は立ち行かなくなるし、僕たちの冒険者資格が剥奪されてギルドの戦力が落ちれば大問題だ。ならば、罪を他人に押し付けて切り捨てるのが正しい判断だ。

 適当な証拠をでっち上げて治安当局に引き渡せば、奴らは何も言わずに身代わりの犯人を逮捕した。奴らとしては、犯人を捕まえて事件解決に持っていければそれでよかったのだろう。そもそも、冒険者は荒くれ者揃いだから犯罪など日常茶飯事なのだ。一つ一つの事件に長い時間を割いていられない。


 冤罪を着せた奴は、軽く脅せばみんな頷いてくれた。ここを追放され冒険者生命が途絶えるのと、ここで死ぬのと。どちらが良いかと問えば誰もが前者を選んだ。

 冒険産業での収入が大きいこの国では、冒険者が犯罪に手を染めても大きな罪には問われない。一人くらい殺したとしても、初犯であれば冒険者資格の剥奪と、高額な罰金もしくは数か月の服役で許される。その罰金はギルドで負担していた。

 僕はギルドマスターとして、世間に向けて大々的にこう発表していた。


「我がトーヴから何人もの犯罪者を出してしまっている件…心から申し訳なく思う!!冒険は命懸け!冒険者は日常のストレスから心が荒んでしまうものだ…だが冒険者の諸君!安心してほしい!仮に君たちが道を踏み外しても、我々は必ず君たちを守る!罰金を課されたならばその金はギルドで全額負担する!加えて、私を含むギルド上層部は全員が清廉潔白!清い心を持ってギルドを運営している!悩みがあれば力になろう!必ず支えになると誓う!さあ!冒険者諸君!!ギルドを選ぶのなら、トーヴに是非とも加わってくれ!!」


 我ながら詐欺もいいところだが、この文句にコロっと騙された冒険者が次々と加入し、トーヴは一時はギルドランキング一位にまで上り詰めた。強く、高潔なギルド上層部。それに追随する千人の冒険者たち。他ギルドからの移籍者も数多くおり、トーヴは最盛期を迎えていた。

 

 実態は、体のいい身代わり人形千体の加入だ。僕は気に入らない人間を殺すくらいしかやっていなかったが、幹部たちは酷いものだった。殺人、強盗、強姦、放火…ありとあらゆる悪行に手を染めていた。罪は他人に押し付けるのだから、自分の顔を見られないよう徹底的にやれ。目撃者は殺せと指示しておいた。

 うっかり何人も殺してしまった場合は身代わりを分散させ、一人につき一人殺したことにさせた。複数人の殺人は罪が重くなるからという、僕たちなりの配慮だ。


 今まで、何も問題なく進んだ。所属冒険者の行為に責任を持つトーヴは素晴らしいギルドだと称賛されたほどだ。僕たちが罪を押し付けた者以外に犯罪行為を犯す者はゼロではなかったが、大手ギルドに籍を置けるという安定を捨ててまで犯罪に走る者は、予想よりは少なかった。

 トーヴの実情が外部に漏れることは無かった。身代わりにした冒険者に、本当のことを誰かに言えば殺すと強く釘を差したことが効いたのだろう。仮に話したとしても、本当の犯罪者はギルド上層部であり、犯人は身代わりにされたなどとは誰も信じなかっただろうが。

 そう、何も問題は無かった。

 そう思っていたのに、“終わり”は唐突にやって来た。



「報告!!謎の敵勢力がギルド本部を急襲!!駐在中のギルドメンバー総出で対応に当たっていますが手が付けられません!!奴ら……強すぎます!!」


 つい20分前のことだ。正体不明の集団の襲撃を受けたと、報告が上がってきた。敵の実力は相当のものらしく、並のギルドメンバーでは相手にならない様子だった。

 魔力探知を行うと、敵がギルド本部を取り囲み、4人がギルド入り口を突破していることがわかった。その4人の魔力量は膨大であり、おそらくS級冒険者相当の実力者。そう判断し、ギルド幹部4人が対応に当たった。

 本部に侵入した敵と幹部たちが交戦を始めてから10分。10分しか持たなかった。

 幹部4人全員の魔力反応と生体反応が消失した。


 ありえないことだ。“真理の書 壱”で魔術の真理に触れたS級冒険者が4人。それだけの戦力が一蹴されるなど。

 千里眼の魔道具で幹部たちを倒した敵の顔を覗いた。全員に見覚えがあった。僕たちが冤罪を着せて追放した、元ギルドメンバーたちだった。

 千里眼でギルド外部を映すと、ギルドを取り囲む敵の顔も見えた。見えた限り、こちらも見覚えのある顔ばかりだった。正確にはわからないが、人数は300人以上。こちらの魔力量は大したことはない。

 

 何かがおかしい。追放したのは冒険者として未熟なC級やD級の者だけだった。外部の敵はともかく、侵入してきた4人はどうだ。弱者が突然S級を倒すほどの実力を手に入れるとは。そんなことが可能なのは“真理の書”くらいだが、一般のギルドメンバーがその存在を知るはずが……いや待て、クチカルースギーはどうだ。彼が部下の男に“真理の書”の話をうっかり漏らしていたのを、咎めたことはなかったか。だからその男を追放したのではなかったか。あれは…そう、未発見の“真理の書 弐”が見つかれば俺たちは無敵だという話ではなかったか。


「真理の…書…」


「そうです。“真理の書 弐”。その存在を知った俺たちは、死ぬ気で情報を集めました」


 思考に没頭するあまり、ギルドマスター室に足を踏み入れられるまで侵入者の存在に気が付かなかった。いつだったか、殺人か強盗かの罪を着せた男がそこに立っていた。


「クチカルースギーの話では、“真理の書 弐”がどこかにあるらしい。“真理の書 壱”はA級ダンジョンの隠しエリアにあったから、入手難易度は運頼りの類のアイテムだと。血眼で探しましたよ。アンタたちに追放され、冒険者資格を失ったメンバーを集めて。どこのギルドにも所属できないから俺たちで非合法なギルドを作って。裏に潜りながら、こっそりとダンジョンを探索して」


「最近になって、ようやく見つけました。B級ダンジョンの隠しエリアの地下深くにありましたよ。“真理の書 弐”と書かれた古代魔法書。鑑定に持っていったら本物と判定されました。同時に…呪物であるとも」


 男は、言葉を紡ぎながらも僕への恨めしげな視線を崩さなかった。


「使用者の魔力と魔法精度を数十倍にも膨れ上がらせる第一級古代魔法書。その効果は“真理の書 壱”をはるかに凌ぎます。だが代償として、ひとたび使えば使用者の生命は一日で尽きる。禁術の類に分類される魔法書だ」


「俺たち4人でアンタたちを討ちに来たのは、犠牲は俺たちだけで充分という判断です。今、“真理の書 弐”は外の仲間に持たせてある。彼らはまだ、あれを使ってない。だけど、もしも俺たちがアンタを倒せずアンタが逃げたなら、その時は即座に使います。俺たちだけでアンタを討てたなら…あれは燃やす」


「人でなしだから、人並み以上に人を傷つける。アンタたちは存在してはいけない生き物だ」


 剣の切っ先に、猛烈な殺気。そして莫大な魔力を向けられながら、僕は心の底から後悔した。小を切り捨てたはずが、どうだ。今この場で小さい存在であるのは、僕じゃないか。どうしてこんなことに。

 ああ…もっと何もできないような、本当に小さい奴を追放すればよかった。

 

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