望みは何だ?

みこと。

全一話

 "世界の終り"が始まる時は、こんな空だろうか。


 分厚い黒雲がとぐろを巻きつつ、天を覆い隠す。

 いかづち幾筋いくすじも走り、激しい風の中、轟音が響き渡る。

 すさまじい迫力。


 嵐そのものの暗幕を背に、視界最大にそびえ立つ魔神。


 そいつが俺に言った。


――オレを解放してくれた礼に、オマエの望みをひとつだけ、どんなことでも叶えてやろう――


 そんなこと、突然言われましてもねぇ?


 俺はただ、いつも通り、釣りをしてただけなんだ。

 糸に引っかかった瓶があまりに見ない模様だったから「なんだろう、これ」と、うっかり蓋を開けてしまった。


 まさか魔神が閉じ込められてた瓶だったなんて――。


 魔神は、以前も漁師に解放してもらったが、相手の命を取ろうとして、逆にまた封じ込められたらしい。

 海底に投げ捨てられ、数千年。

 前回の教訓を生かし、次の開封相手にはマイルドに接しよう、そう学習したんだそうな。

 しかし腹いせに世界は滅ぼすつもりらしい。


 なんかそんな物語、聞いたことがある。

 アラビアン・ナイトか?


 くっ、前のやつが蓋した後、海に戻したりするから。

 ポイ捨て禁止だ!


 世界が終ろうとしている。俺のせいで。

 平凡な日常が、こんなあっけなく奪い去られていいものなのか?


――さあ、早く望みを言え。ひとりだけ助かるのも良し、富と世界を手に入れて、高みを見てから世界の終わりを眺めるも良し。――


――ただし、世界を壊すのをやめろ、という願いだけは聞けん。元はといえば、オマエたち人間が蒔いた種だ。――


――それ以外なら何でも、望みを聞いてやろう――


 「その言葉、絶対だな?」


――疑うのか? ならば我が身をかけて誓ってやる――

 

 「なんでもできるのか?」


――もちろんだ。さあ、オマエの望みはなんだ?――






 俺は海釣りに来て、古い瓶を拾った。

 けれど今度は決して、蓋を開けなかった。


「俺の記憶はそのままに、時を1時間戻してくれ」


 あの時、俺はそう願った。


 いま、手の中には魔神入りの瓶。


 だから海にモノを捨てちゃダメなんだ。

 危うく世界が終わるとこだった。


 とりあえず回収はしたものの、どうしたもんかなぁ、これ。

 リサイクルは、無理だろうから。




                     《おわり》

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望みは何だ? みこと。 @miraca

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