最終話 最終回のあと

 次の日の月曜日から、図書館の建物の解体がはじまった。一日で、建物のまわりに、布の壁みたいなもので囲まれた。

 それから、朝、学校へ行くときと見かける図書館の姿と、放課後、帰り道で見かける図書館の姿が毎日変わっていた。土曜日と日曜日、それから祝日だけは、工事もなく時間が止ったように見えた。

 しばらくすると、建物はすべてなくなった。それから敷地内の生えていた木だけが残った。

 そのあと、何度か、大雨もふって、晴れた日を繰り返した。

 シマさんとはずっと会っていなかった。

 そのうち、夏が来た。

 そして、シマさんが来た。

「森へもどった」

 日傘をさしながら、夏の制服を着たシマさんがいった。あしたから夏休みになる日、いきなり、うちへやってきた。

 ぼくは横に立っていた。

 図書館のあった場所には、よく伸びた草が、ぼうぼうと生えているだけだった。木はふえてはいない。

 ちょっとしたジャングルにはみえた。ジャングルは森だし、つまり、森に戻ろうとしているといえなくもない。

 すると、シマさんは日傘の下から「もとの森のすがたへ戻ろうとしている」と、いった。ぼくと似たようなことをかんがえたらしい。なんだか、安心した。

 ぼくの身体は、シマさんの日傘の影に半分入っている。知らなかった、日傘はこんなに涼しいのか。

 そんなことをおもっていると、シマさんがいった。

「おじいさんは森の精霊との約束を守った」

 彼女は森の精霊のことを忘れていなかった。

 それが、妙にうれしい。

「三日村くん、さいきん、本は読んでる」

「うん、家の本棚の本を読んでる。森ノ木図書館で読んで、いいなと思った本を、家の本棚にもそろえてた」

「そっか」

 シマさんはくるりと日傘を回し、影でぼくを覆っていった。

「なにか、おもしろい本貸して」


                了

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図書館の最終回 サカモト @gen-kaku

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