ルームライトの光源

※直接的な性行為に関する描写が含まれますのでご注意願います。



その日の地方都市から高速で1時間ほど走った郊外の空は、どんよりと雲がかかっていた。


某デリヘルサイトでは個別に嬢とメッセージをやりとりできる機能がある。

1000人くらいから絞って見つけた”なんとなく良さそう”と思える人と1ヶ月くらいやりとりしていた。


明るい子だから「あかり」という名前にしよう。

レビューを読むとあかりは小柄で人懐こく、色々な人の精神的な支えになっているようだ。

性的なテクニックは上々だが、体は幼児体型ぽくて刺さる人には刺さると言った感じだろうか。

性サービスのスキルも体の艶かしさも今回は求めてないので、

人柄重視の採用と至ったわけだ(人事部かよ)。

畑しかないエリアにポツンと立っているラブホへ到着。


ここは普段遊ぶ時は入らないような価格帯。

だいたいは3,900円/2時間くらいのショートステイを利用することが多いけど、

今回はショートの設定はなくその倍の金額。


作りも内装もラグジュアリー系で綺麗だけどタバコの匂いが気になった。

田園風景に建ってるのに場違いなほどシティライクなデザインなのもちょっと滑稽だ。

プレイの方は指名料が最大設定の料金で、割引を使っても20,000円/90分くらい。

はっきりいってお金の無駄。スッキリ目的ならその半額くらいで事足りる。

しかし経験上(デリヘルは特に)高級系と格安系では雲泥の差がある。

今回はコミュニケーションの質を求めたので1万円以下は除外して、高級系の中から選んだ。



早めに部屋に着いたので換気して、文庫本を読みながら待った(佳境を迎えているので意外にも没頭して時間が過ぎた)。

ライターはまさかの有料だったので、念の為持ち歩いていてよかった。部屋の中央で軽く何度かカチカチと火をつけるおまじない。

使うかどうかはわからないがゴムも一応持参した。


インターホンが鳴る。すぐに出る。

想像よりハスキーな声でのあいさつもそこそこにいきなり抱きついて、笑顔でキスを求めてきた。

今回の成功を確信する(早い)。


”あくまでお仕事。金銭的なやりとりを伴う、事務的な作業の一環です。”


この感じが出れば出るほど興醒めしてしまうのは、風俗あるあるだ。

利用する側がクソ客じゃないのが前提だけど。

デ○ズニーランドだって舞台の裾から着ぐるみの頭が転がっているのが見えたら冷める。

接客業でサービス業だから、それとおんなじ。


ソファへ座る。軽い雑談。

お互いの地元のお土産を持参して交換する。

ほんとはおすすめのテイクアウトがあって、それを一緒に食べたかったとのこと。


この擬似恋人感はそうそう味わえない。

高級系デリのプロ意識というよりあかりちゃんのスタンスによるところが大きい。

マッチングアプリで早々にホテルINできるような素人女性の大半よりも気遣いができて、人の血が通ったようなやりとりができるので感動した。


アプリでも看護師、介護士、保育士が圧倒的に多い。

あかりもそのどれかとデリを兼職しているようだった。


「お店に到着した報告するね」


とスマホを開いたときに有名なマッチングアプリのアイコンが

iPhoneの画面トップに鎮座しているのをみてしまった。見て見ぬふりをする。


「意外と女の子っぽい格好なんですね」

「かわいいでしょ?初対面で嫌われたくないから、可愛い系の服と下着にしちゃった」


男の扱いには習熟しているんだろうな、と思った。

しかしこの手のフレンドリーな嬢にありがちな、無駄な雑談の引き伸ばしはなくて

時間管理もしっかりとしていた。


「さ、お風呂いきましょう」


お互いに服を脱がせあって、広すぎるバスルームへ。

90分の中で適切な温度感を作り上げる流れを熟知しているようだった。


”シャワーを浴びる。体を拭く。ベッドへ”


みたいな機械的な流れではなく、あくまで自然なやりとりの一環として物事が進む。

ポップスの形式的なAメロ、Bメロ、サビ、転調ではなくてジャズ的な様相があった。

ルームライトを調節してくれている最中に、不意に押し倒してキスをした。


舌、右手、舌、左手もう一度舌での愛撫を行って立て続けに5回昇天。


「どこでそんなの覚えたの?上手すぎる」


と評価をいただいたけど「無料掲示板とかグレー系含めてプロと素人合わせて数十人で練習した」とは言えない。

完全受身プレイを少ししてくれたが、もっと責めたかったので早々に攻守交代。正常位で素股を敢行。


「今まで見た中で一番大きい」


いや、さすがにそれはないだろ。

根本を支点にして前後の運動を繰り返す。

あったまってきたのでそのまま腹上へ放精。


物理的な気持ちよさは微妙だったけど、精神的な気持ちよさを煽る擬似体験がここちよかった。

時間的にアラームが鳴るほんの直前だった。



二度目のシャワータイム。

その後は次の指名が入ってないから少しまったり。


「出身はこのあたりじゃないんだけど、おすすめの美味しいお店教えるね」

「別の仕事してて、だいたい平日の夜が多いよ」

「今度出稼ぎでそっちの方いくから夜ご飯いこうよ」


距離の詰め方が思っていた以上に近くて早い。

マッチングアプリ的なアプローチで、デリヘルだとありえないような距離感だ。

この疑似恋愛感にやられて店外デートコースで指名が次々入るのも頷ける。


「あかりちゃんってずっと一緒に話してたくなるから、人気の理由わかったよ」

「そう?たしかにお水系の接客が向いてるってよく言われるけど、あたしはデリの方が合ってる」


そんなことを話してるとお時間です、のアラーム。

手を繋いでホテルのドアまで。


「トイレ寄るから、ここでバイバイしよう」

「今日は指名してくれてありがとう」


はじまりと同じでキスとハグをせがんでくれた。

即興にみせかけてイントロとアウトロが同じだなんて、なかなか悪くないな。

あかりは少し迷ったあと


「よかったら連絡先交換する?」


誰にでも聞いてるのかはわからない。


「また次会ったらにしようよ」


「そうだね!またいつでも指名してね」


”あくまでお仕事。金銭的なやりとりを伴う、事務的な作業の一環です。”

こちらからそれを示す別れ際。


「もう一度会えたらいいかもな」


ひとりしか残されていない部屋で誰に向かってでもなく、そう呟いた。




高速道路はICを前にして渋滞でノロノロ運転に切り替わった。

目的地まであと数キロ。ハザードの明滅が連鎖する。

大した中身のないことしかしてないのに疲れる毎日。


「週末が待ち遠しい」が口癖のしがない社会人。

待ちに待った連休初日はデリバリと洒落込むしかない。


他にも数名のいい雰囲気の嬢たちと、1か月くらい大した中身のないチャットメッセージを往復した。

けっきょく再訪を決めたのはあかりという地方都市の中でもさらに郊外エリアを拠点の嬢。

まぁストッキングとってすっぽんぽんにしちゃえば誰だって同じようなもんだ。

過去と似た経験を求めることも自分にないものを持つ人を探すのも無意味。

みんながみんな似たり寄ったりの生き物だ。


店にコールして嬢を指名するくらいの勇気と行動力は何とか持ったままでいる。

前回と同じ受付の男性。

レビューで書かれているほど受付の対応良くないんだけどこれ俺だけ?

25,000円/120分とルーム代と最大設定の指名料と交通費。高いな。

ちょっといいホテルに泊まれるレベルの出費。



私鉄の駅からほど近いうらぶれた安ホテルの駐車場から、直接部屋まで上がる。

電車の通る音が聞こえてきそうだけど、本数が少ないから大して気にならないだろう。


有線のチャンネルを邦楽ロックにするかクラシックにするか悩んだ末、

けっきょくボサノヴァ調の落ち着いたムードミュージックに決める。


部屋に不釣り合いなほど大型のTVをリモコンで操作すると、マーベルの作品とかラブコメが並んでいた。

大して興味がないので切り替える。

地上波は相変わらずどうでもいいワイドショーを流していたので電源を切ってしまった。


インターホンが鳴る。すぐに出る。

電話してからすぐ来てくれたあかりは、慣れた様子でドアをロックする。

振り向きざまにキスとハグで喜びを分かち合ってくれる。


「久しぶり!指名してくれてうれしい」


思ったよりハスキーな声。久々に聞いてもそう思う。

たぶんタバコとお酒のせいなんだろうね。

写メ日記でメンソール系の加熱式タバコのパッケージとか缶チューハイをお土産でよくもらっているのを読んでいた。


「はい、お土産。お口に合うといいけど。」


地元のお菓子を帰省した時に買っておいたので、それを渡す。

自分でも食べたことない地元名産。たぶんそれなりの味だろう。

しばらく間が空いてしまった相手と会うときはギクシャクする。

久しぶりに自転車に乗るときみたいな。


「わたしも持ってきた!こないだ話してたオススメのコロッケ。いっしょに食べよ。」


120分の疑似恋人。十分にワクワクする。

はっきしいって惰性のカップルとかマッチングで出会った中途半端な出会いより、

久しぶりに会う本指名嬢との方がよっぽど心の通ったやり取りができる。

これはぜひ大学の教養課程で教えておくべき内容だ。

義務教育?定期的な放精による心身への悪影響を教えるのが先だろう。


相変わらず笑顔がすてきですぐに打ち解けた様子。

身振り手振りが大げさで日本人らしくない。


なぜかちょっとディカプリオ主演の映画を思い出した。

ジャックは悲しくも華々しい最期を迎えるけど、さしずめ私はファブリッツィオ。

主人公の友人でいい人ポジションの冴えない男。最後は不遇の死を遂げる。

誰の記憶にもほとんど残らないモブ。

けど世界中のほとんどすべての人がモブで、自分の人生の主役なんだよな。


「お風呂ためてる間にちょっといちゃいちゃしよっか」


あかりはいたずらっぽい笑顔でモブのファブリッツィオのモノをフェラッツィオしてきた。

悪くない、というかすぐに遂げそうになる。


やんわりと制止して攻守交替。服を脱がす。

今回もガーリーでほどほどにファンシーな女の子っぽい装い。

いっしょに表参道・青山あたりをデートしたくなるような。


そんな妄想を振り払いながら衣服をベッドに放ると、ブラックのアンダーウェアが迎えてくれた。

男が好きそうな恰好の奥には漆黒の無機質というギャップ。

ひやかしに入ったウィンドウショップで秘書みたいなコンシェルジュが出迎えてくれたような新鮮さがある。

ソックスはあかりが好きなサンリオのキャラだった。

そういう真似できないセンス、見倣いたい。


お風呂にお湯を張っていたはずが上手く栓がされておらず、ほとんど空っぽだった。

あかりは笑って「シャワーでいいよね」と体を流してくれる。

笑顔とその手の感触で血流が下腹部に全集中する。


うがいしたあと「先に部屋に行ってて」とのことだったので、浴室から出る。

体を拭く。下着だけ履いてタオル生地のバスローブに袖を通す。

洗面台の大きな鏡に映る自分を見る。

顔を冷たい水で洗って気合を入れる。



手を繋いでベッドへ。

照明を落としておいたからやたらとムーディな雰囲気。

有線から流れるボサノヴァ。


大きなベッドの端っこに腰掛けながら肩を抱き寄せて唇を重ねる。

肩から手をバスローブの腰まで下ろしていて、結目をほどく。

恥ずかしそうに俯くあかりの秘部に触れながら乳首を吸う。

職業として性的な行為に慣れていても、こういう初々しいリアクションをとれるのは素直にすごいなと思う。


お互いのバスローブを脱ぎ捨てて二人でベッドに横たわる。

へそ周りから太ももの内側を円を描くように撫でる。

枕を寄せて、あかりの首の裏あたりに敷いてあげる。

正常位の体勢でお互いの目を見る。備え付けではない持参したゴムを装着。


「精子回収するんだよね?いっぱいでるといいなぁ」

検査するために精液を回収したいとだけ事前に伝えてあった。

ほんとうは直接回収容器に入れるべきなんだけど、どうせならプレイを最大限楽しみたい。

再度指で秘部を責めながら首筋にキスをする。

流れで素股へと移行する。しっかりと濡れている。

亀頭をあてがうとそのまま抵抗なく奥まで沈んでいく。


あかりはわずかに声をあげたが抵抗せずに、そのまま腕を首にまわしてくれた。

一番奥に軽く押し付けるようにして、根本を支点にして円を描くように腰を動かす。

3、4分する脚をギュッと閉じてきた。


そのまま両方の脚を上に持ち上げてさらに深く入っていく。

1、2分するとあっという間に射精感が込み上げてきた。

勢いをつけて最大量を目指して放精する。


「とってもよかったね」

少し汗ばむあかりも満足そうに見える。もっと長く繋がっていられればよかったけど。


性的サービス規定文の禁則事項を超えたことは暗黙の了解のように思えた。

込み上げてくる虚しさを抑えながら精液をプラスティックの容器に移して、

さらにそれを細長い試験管みたいなケースに移してシールをする。

郵送して結果は後日メールで送られてくるらしい。


文字通り放精が目的で利用する客もけっこう珍しいと思う。

たまに遊んではいるものの、直近15年間の放精回数は平均的な成人男性のそれよりおそらくとても少ない。

どんなに多く見積もっても100回行くかどうかだろう。人によっては1年とかでその回数に届くのかもしれない。

健康診断で胃腸や視力の検査をするみたいに、自身の状態を詳しく知りたかった。


2人でベッドでゴロゴロしているとお風呂が溜まったことを知らせるアラームが鳴った。


「今度こそお湯溜まったよ。入ろう!」


体が冷えてきた頃だった。入浴剤を放り込んでいっしょにあったまる。

あかりは後ろから抱え込むとすっぽり包まれるくらい小柄。

親しい間柄の男女がふつうにそうするように体を洗い流す。

あったまったら順にあがる。

体を拭く。服を着る。

ドアまで嬢をお見送り。


神様みたいな視点で、迷路から出る道筋があっさりわかればいいのに、とか思う。

はじまりのときと同じようにハグしてバイバイ。ちょっとだけ長めに。


「また連絡するよ。」

「うん、待ってるね!」


そして二度と会うことはなかった。

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