限りなく黒に近いブルー

※直接的な性行為に関する描写が含まれますのでご注意願います。



自動販売機でペットボトルの水とメロンソーダを買った。

本来なら茹だるような盆の暮れに甘ったるいソーダなんてごめんだ。

小さい頃に食べた屋台の焼きそば。それと一緒に飲んだ人工的な香料とキレイに着色されたグリーンが無性に懐かしくなった。



デリヘルはほとんど全国各地に偏在している。主要な都市なら確実に存在する。

だがそれは探さなければ見つからない。ふつうに街を歩いているだけなら目には見えない。

街天国や健康配達ジャパンなどといった、天使と健全さとは無縁そうなサイトがあり、何千、何万といった店舗情報を日々更新してくれている。


出張が多い変態紳士の皆様は脳内ブックマークに入っているのは間違いないです。

センチメンタルな書き出しに相応しく(?)今回のフィールドはデリです。



アオイ(22)は複数店を掛け持ちする嬢だ。知り合ったのはデリヘルではない。それについては後述する。


盆休みの終盤、ホテルは混み合っていた。

日中だってのに、エントランスでカップルの座ったシートの真横で20分待たされた。

2階に位置する至ってノーマルな一室を案内される。


事前にTELしておいたので、部屋番号を受付に伝える。

ほどなくしてインターホンが鳴り、アオイが配達されてくる。


「久しぶり。暑いね」

「びっくりした!よくお店わかったね」


メンズエステに行ったときにフリーでついたのがアオイだった。

空気感が合ったのでリピしたとき「実はデリもやってる」と聞いていたので、ヒントだけ教えてもらった。

謎解きを楽しむ間もなく、あっけなく在籍表にアオイの別の源氏名が見つかった。

性格も見た目もまったく俺の好みではない。

顔も喋り方も、派手なピアスもiQOSを吸う仕草が異なる人種に感じてその新鮮さがむしろ好きだった。


雑談もそこそこにシャワーへ。

撫子系のメンズエステはセルフシャワーでアシストは基本的にはない。

もし軽く手伝ってくれたとしてもお互い裸で浴室に入ることは(例外を除いて)ないので新鮮だ。

今日の興奮のピークがここだったな、今思えば。


体を拭く。ベッドへ入る。

ものすっごく形式的な愛撫をする。

ソフトタッチをしたけど、全身性感帯らしく、何が効いているのかはわからない。

あったまってきたので中指を中へ挿入。

割と激しめに責めたら、2回、3回、4回と嬌声をあげていた。

攻守交代。

さすが玄人と言わざるを得ないプロフェッショナルな技です。

基本的に口でされるのは苦手。だけどアオイはけっこう絶妙かつ激しくて好み。


「ねぇ今なに考えてるかわかる?」


ゴムつけて挿れよってことでしょ?ご名答。

持参したスキンを装着。ホテル常備のものってサイズが合わない。

薬局で三個入りで千円くらいするヤツがフィットするとわかって、ストックしてある。


このあたりでいやな予感。けっこう萎んでいる。

間をもたせるかのように、立て続けに指で何度が昇天させる。

硬さがないまま挿入。

挿入感ゼロでなんどか腰を振ったら、なんとか中勃起、小勃起くらいにはなった。ビールかよ。


アオイはそれなりに喘いでくれる。目が合う。

お互いなんだかその目の向こうの空間を見ているようだった。

射精感が込み上げる。それに抗わないことにする。



「出稼ぎに行った先の地方はみんな丁寧」

「こっちの客は最悪で、この間は常連がしつこいから出禁にした」

「掛け持ちしてるから家には帰らないで待機室と店の往復」

「ごはんは夜に一回食べるくらいかな」


やっぱり風俗っていいよな。

普段聞けない話が色々聞ける。それが自分の人生と一切関係がないこと。

リアクションだけすれば肯定も否定も求められていないことが心地いい。

つーか、なんなら言葉でのやり取りの方がよっぽど性交できてるじゃん。


「俺はこういうやりとりができるのが好きで、なんか最初から雰囲気が合うなって思ってた」

「あたしもお話するのが好きでこういう仕事してる。稼ぎたければすぐに帰る嬢も多いと思う」


きっと君がその仕事をするのには色々他にも理由があるんだろうけど。

それは他の全ての人にとっても同じだよな。ある程度選んで、そこそこ好きになれることを続けてる。


逆さまに映る鏡を見ている気分だ。

体型も考え方も、嗜好も年齢ももちろん性別も。何もかもが反対だ。

お互いにそれなりに、関心をもっているけど惹かれることがない点は同じだ。

普段道ですれ違ってたら間違いなくスルーするから、だからここでもう一度出会えてよかった。



いろいろと頑張ってくれたけど再戦するほどの硬さは取り戻せなかった。

お返しに2、3回指で昇天してもらってタイムアップ。

タオルを巻いてシャワーへ。

なかなかお湯にならないシャワーでお互い流す。


先に浴室を出る。体を拭く。

アオイが出る頃には羽織ってきたジャケットの袖に腕を通すところだった。


「エステじゃなくてデリの方に来るようになったお客さんて、次回もデリになっちゃうんだよね」

「俺もそうなりそう。また呼んじゃいそう」


おそらく限りなく100%に近い確率で二度と会うことはない。

どうして平気でどうでもいい嘘をつくようになるんだろう。

本当のことを言っても誰も傷つかないことがわかるときでさえ。


靴を履く。清算する。部屋を出る。

地方の駅裏の寂れたラブホテルはレビューが恐ろしく低かった。

恐る恐る来てみたのだが、内装が綺麗で清掃も行き届いており、受付も簡潔で感じが良かった。

機会があったらまた来たいなとか、ホテルに対してそう思う。



出会いよりも別れの瞬間の方が大切だ。

その人のことが大切なほど、見えなくなるまで振り返って手を振る。


「今日はありがとね」

「こちらこそ。じゃあここで」


感慨のない中途半端な挨拶をしてその場を後にする。

なんだか今日の行為を再現しているかのようなバイバイに苦笑する。


さて、帰ろう。

喉が渇いたので、自動販売機へ向かった。

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