プロローグ その②
才能マンな隼人を新入生として同じ学園に入学したアリシアが欠落した隼人の心を救う話。
下記から本編になります。
――完璧な人間なんて存在しない。
――なぜなら、何かを得るためには何かを失うからだ。
その言葉の意味はよく知っている。
裕福な家に産まれ、英才教育を受けた。
そのお陰で自分がどういう人間か知ることが出来た。
大人たち曰く、俺にはあらゆる才能があったらしい。
学問、スポーツ、芸能。
中学に入るまではその才能を発揮して圧倒的な評価も勝ち取った。
望めば何でも手に入る。
理想を描けば必ず体現した。
それでも唯一手に入らなかったモノがある。
何をしても満たすことができない心の飢え。
それがあらゆる才能に恵まれた俺の……風見隼人の代償だった。
そんな俺を見て一人の少女が言った言葉を今でも覚えている。
「たぶん、君は心の器が壊れているんだね。壊れた器にいくら注いでも満たされることはないよ」
こちらを見透かした言動に初めて興味がわいた。
「皮肉だね。あらゆる才能を持っていても自分の心の器を直す術を知らないなんて」
あぁ……その通りだ。
「けど、そんな可哀想な君をこの私が救ってあげよう」
ヒーローみたいなことを言うおかしな子だ。
だが、何故だろうな。
俺より何一つ優れたところが見当たらない彼女を……水城若菜を信じてみようと思えるのは。
彼女は「人は結局のところ自分のことしか考えていない」という俺の考えを覆す。
困っている人がいれば必ず手を差し伸べる姿に……俺とは違う考えと行動で自由に生きる姿に憧れた。
それと同時に考えてしまう。
そんな彼女が支払った代償は何なのか。
その答えは中学三年の冬にわかった。
「たまには私を助けてよ」
一年前のクリスマス前日。
数多の男たちからの誘いを断るために出掛ける約束をした。
祖父の推薦で高校も決まっていたし、選ばれたことを光栄に思い二つ返事で了承した。
柄にもなく髪をセットして、プレゼントを持って待ち合わせ場所へ向かう。
途中で雪が降り始めてが気にせず歩いた。
待ち合わせ場所に早めに着いたが彼女の姿はない。
珍しく俺のほうが先に着いたのか?
しかし、待ち合わせ時間を過ぎても彼女は現れない。
メッセージを送っても既読がつかない。
おかしいな。
――おい! 向こうで交通事故だってよ!
気付かなかったが少し先でサイレンの音が聞こえる。
あぁ……何でこんな時に最悪な想像をするんだろう。
無意識に音の方へ向かってしまう。
スマホで動画や写真撮影をする野次馬の隙間を通り一番前へ出る。
見えた光景に声を失った。
母親にしがみついて泣きじゃくる幼女。
警察の事情聴取を受ける若い運転手。
そして、よく知った少女が……若菜が真っ赤な雪の上で倒れていた。
こういう時、自分の冷静さが嫌になる。
警察の静止を押しのけて彼女に駆け寄るぐらい動揺できれば。
もしくは捕まることなど考えずに運転手を〇せればよかった。
俺は何かを得るために何かを失うことは当たり前だと思っている。
誰かに利益が出れば誰かが不利益になる。
努力をすればそれに見合った時間を支払う。
誰かが勝てば必ずその下には敗者がいる。
けど、これは……若菜の代償はいくらなんでも不公平だろう。
彼女は「やっぱり、女としては好きな人と付き合って結婚したいかな」と年相応な夢を語った。
彼女は「どんなに辛いことがあってもあなたがいれば幸せよ」とそんな妄言を吐いた。
自分が〇ぬとわかっていても幼女を守る正義感の塊。
誰もが羨む憧れの存在。
壊れた俺を直そうとした恩人。
そんな彼女が支払った代償は……この先の未来全てだった。
次回作品案 天宮終夜 @haruto0712
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。次回作品案の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます