違、異、変。
あしゃる
違、異、変。
一度目は愛した。
二度目は奪った。
三度目は殺した。
もう二度と、実ることはなかった。
そよそよと風に揺れる瑠璃唐草の中で、二つの話し声。
「お前さんはそれで良かったのかい」
「ええ、望んだことですから」
「お前さんには、未来があったろう」
「そんなもの、私には必要ありませんから」
「捨ててしまうのか」
「ええ、もういりません。あなたと一緒にいられるなら、そんなもの」
「…………」
「私はあなたにすべてを捧げます。あなたになら、この肉も血も、魂もすべて捧げたいと思っておりますから。それこそ、未来なんてもの、くれてやりますよ」
「お前さんには生きていてほしい、と思うのは傲慢なのだろうか。わたしは、お前さんの生きる未来を奪いたくない」
「もう私はあなたを知ってしまった。あなたを知らぬあの頃に戻れるとは到底思えません。私の心に巣食うこの気持ちは、もう消せないものですから」
「お前さんは」
「……」
「お前さんは、人間でいたいと思わないのか」
「…………」
「わたしは化け物だ。ずっと人間に蔑まれてきた。人間でいるまま、嫁いで、子をなして、幸せに生きることでは満足できないのか」
「…………」
「そもそも、出会ったことが間違いなのだ。わたしと出会わなければ、お前さんはこんなこと」
「そのようなことを言わないでください。あなたと逢えて、私は本当に心から満たされているのです。あなたについていきたいと、生まれて初めて心が踊った」
「わたしは」
「あなたは私の運命なのです。人間じゃなくたって良い、あなたと共にいれれば」
「許されないぞ」
「赦されなくても構いません。罰も罪も、何ら恐れることはない」
「…………わたしはお前さんが怖い」
「まあ、非道いことをおっしゃる。私はこんなにも、あなたを愛しているのに」
「その“愛”が怖いのだ。受け入れ難く、理解し難い」
「受け入れられなくても構いません。私はあなたに愛を注ぐだけですから」
「…………本当に、良いのだな」
「ええ」
「後悔はないな」
「するはずもありません」
「ああ、すまない」
瑠璃唐草は静かに揺れる。何も知らない顔をして、瑠璃色の花びらを散らしている。
一度目に愛された。
二度目に奪われた。
三度目に殺された。
もう二度と、出逢うことはないだろう。
お前さんは違っている。
お前さんは異なっている。
お前さんは変わっている。
お前さんがわたしを愛すのは、これで最期だ。
違、異、変。 あしゃる @ashal6
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます