最新技術が導く真実、そして隠された過去。命の尊厳を守るため、NDSラボが挑む。あなたは、この真実に耐えられるか？

第61話 血縁の幕開け

片桐家の広々としたリビングルームに、重苦しい空気が漂っていた。部屋の中央には光一の遺影が静かに飾られており、その前にはまだ新鮮な花が供えられていた。家族全員が集まっているが、各々の表情には深い緊張感が走っている。

前田奈緒美はNDSラボの主任調査員として、冷静な眼差しで家族を見渡した。彼女は光一の死について調査を依頼されたことには、個人的な感情が絡んでいることを内心では自覚していた。かつて自らの家族も似たような状況で苦しんだ経験があり、科学的手法で解明することで、彼女自身の過去と向き合っているのだ。

「ご遺族の皆様、まずはお悔やみ申し上げます。」奈緒美の声は穏やかでありながらも、どこか力強さを感じさせた。「私たちは光一さんの死に関して調査を行うためにここに参りました。遺産に関する争いがあると伺っていますが、まずは光一さんの死因について調べさせていただきます。」

片桐信夫が深い溜息をつきながら答えた。「奈緒美さん、どうかお願いします。光一の死には不審な点が多いのです。」彼は視線を少し落とし、しばし黙り込むと、妻の恵子へと目を向けた。彼の肩には、妻である恵子が肩を寄せ合って立っている。

恵子は涙をこらえながら話す。「息子がこんな形で亡くなるなんて…どうしてこんなことに…」彼女の手は震えており、信夫の腕にしがみつくようにしていた。その表情には、信夫への深い依存が垣間見えた。

片桐陽子がその横で、焦りと不安が入り混じった表情を浮かべていた。「私たちには何が起こったのか全く分かりません。遺産問題が家族を引き裂くなんて…」彼女の言葉には、兄の死による悲しみと、遺産争いへの不安が絡み合っていた。

片桐啓介は部屋の隅に無言で立っており、彼の表情からは感情の動きが読み取れなかった。兄の死を受け入れられない様子と、遺産問題に対する複雑な心情が混じっているようだった。

井上達也は冷静に資料を確認しながら口を開いた。「家族の関係が複雑なことは理解しています。ですが、遺産に関しては明確なルールがあります。」彼の言葉には、プロフェッショナルとしての責任感と冷静な態度が表れていた。井上は片桐家の遺産管理に関わっており、その関係性が緊張を生んでいることを奈緒美は感じ取っていた。

「ありがとうございます。」奈緒美は微笑みながら応じた。「まずは現場の調査を始め、光一さんの死因を正確に突き止めることから始めます。ご協力のほど、よろしくお願いします。」

家族全員が頷き、奈緒美とそのチームは調査のためにリビングルームを後にした。奈緒美は、自分の過去の経験と同じような問題に直面している家族に対し、真実を明らかにすることで心の整理をつけさせる手助けをしたいと願っていた。その決意が、彼女の冷静さと強い使命感に裏打ちされていることを、奈緒美自身が深く理解していた。