付き合う人間は選んだ方がいい!

崔 梨遙(再)

1話完結:2400字

 27歳~30歳の間、今から20年も前の話。僕は仕事で岡山の独身寮で暮らしていた。長期休暇、僕は久しぶりに大阪に帰ろうと思っていた。


 休暇の少し前に、知人の馬男から電話があった。馬男は小学校と中学校が同じで、高校や大学は違っていた。


「今度の長期休暇、崔君に会いに行こうと思ってるんやけど」

「え? 僕、久しぶりに大阪に帰ろうと思ってるんやけど」

「そんなこと言わずに会おうや」

「大阪で会えるやんか」

「岡山に行きたいねん」

「来たらええやんか、僕は大阪に帰るけど」

「そんな冷たいこと言うなや、友達やんけ」

「いや、友達ではないと思うけど」

「岡山に行くから泊めてほしいねん」

「やっぱり、そういうことやと思った。要するに宿泊代を浮かせたいだけやんけ」

「そういうわけではないねんけど、崔君に会いたいのは本当やし」

「ほな、岡山に来てホテルに泊まれ。僕は大阪に帰りたい」

「そこをなんとか」

「だあああ! わかったわ、鬱陶しい、長期休暇最初の2泊3日やったらええわ、休暇の後半は絶対に大阪に帰る! 言うとくけど、予備の布団も無いからな、畳の上に雑魚寝やぞ。それに、1人部屋やから狭いぞ」

「それでええよ、ほな、行くわ」



 長期休暇初日、招かれざる客がやって来た。馬男は車で大学時代の友人を2人連れて来ていた。勿論、馬男の大学時代の友人なんて初対面だ。興味も無い。仲良くしようとも思わない。ちょうど、当時流行っていたアニメの舞台が岡山県だったので、聖地巡礼をしたいとのことだった。


「一緒に行こう」


 と誘われたが、勿論、断った。


「お前等だけで行けや。言うとくけど、晩飯は食ってこいよ、僕は寮の晩飯があるけど、お前等の分は無いから」


 僕は自分の部屋でゲームをして暇を潰した。夜になって、3人組が帰って来た。


「風呂に入りたい」

「入ってこいや、広いから3人くらいなら一緒に入れるわ」


「崔君、もう寝るん?」

「寝る。話はしてもええけど、電気は消してくれ」


 3人組は懐中電灯で地図を照らしながら、翌日の予定を立てていた。


「崔君、もう少し端に寄ってくれへん?」

「充分、寄ってる、これ以上は寄られへん」

「ちょっと、狭いんやけど」

「1人部屋の寮に3人で押しかけて来たお前等が悪い、最初に狭いと言うたはずやで。エアコンのある部屋で眠れるだけラッキーだと思え。それでも狭いと思うなら、車で寝ろや。僕の知ったことではない」

「……」



「朝になったな」

「崔君、腹が減ったんやけど」

「僕に何を期待してるねん? 僕は寮の朝飯を食べるから、お前等は外に食いに行けや。コンビニで買ってもええけど。とにかく、僕は知らん」

「食べに行くわ」

「ほな、そのままここに帰らず聖地巡礼に行ってこいや、僕は1人の方が落ち着くし。昼飯と晩飯も自分達でなんとかしろよ」


「ただいま」

「約束通り、明日には帰ってくれよ、僕は明日の朝には大阪に帰るから」

「もう1泊したいねんけど」

「なんで?」

「聖地巡礼に、もう1日かかりそうやねん」

「そんなこと、僕は知らん。約束通り2泊させたやろ? 帰るかホテルに泊まるか? 自分達でなんとかせえや」

「そんなこと言わんといてや、友達やんか」

「どこが友達やねん、お前、こっちに来てから全然僕と話してないやんけ。大学の友達とばかり喋ってたやろ? こういうのは友人とは言わへんで。知人というんや。それに、僕は長期休暇になったらスグに大阪に帰る予定やったのに、2日もお前達にとられたんやで、これ以上の譲歩は出来へんぞ」

「……」



 僕は、予定よりも2日遅れて大阪に帰った。大阪でゆっくりのんびりする時間が2日も減ってしまった。僕は機嫌が悪かった。機嫌がいいはずがなかった。ずっと、馬男と縁を切りたかった。或る絶好の機会があったので縁を切ることが出来た。縁を切ってから、もう10年は経っただろうか? 縁が切れて、実に気分がいい!




 また、30代の後半にも不愉快なことがあった。男性だが、とにかく“あつかましい(なので以降はあっ君と表現する)”のだ。遠方にいたのだが、夏期休暇で大阪に帰りたい、その間、泊まらせてほしいと言うのだ。


 嫌だったが、しつこいので鬱陶しくなってOKした。そこまでは、まあ、良かった。ところが、(夏期休暇をずらしてとれる会社だったので)一般の夏期休暇より1週間遅れで休暇をとると言い出した。僕は断った。


「ほな、断るわ」

「なんで?」

「お互いに休みやったら、まあ、しゃあないかぁと思ったけど、お前が休暇をずらしてウチに来たら、その時は僕が仕事してるやんか」

「邪魔せえへんから」

「困るわ、仕事してるときに長期で泊まりに来られたらキツイわ」

「おとなしくしてるから」

「お前、どうせ宿泊費をケチってるだけやろ? 〇〇(地名)辺りに行ったら、1泊千円とか2千円で泊まれるホテルがあるから、そこに泊まれや」

「まあ、そう言わんと」

「お前、1泊千円とか2千円でも惜しむんか? めっちゃケチやな」

「まあ、そう言わんと」

「僕、合い鍵は渡さへんで」

「それでもええから」

「僕は仕事があるから、朝一緒に出て夕方に僕が帰るまで外に出てもらわなアカンで。嫌やろ?」

「それでもええから」

「いやぁ、やっぱり嫌やわ、来ないでくれ」

「そこをなんとか」


 1時間か? 2時間か? あっ君は粘った。あっ君は自分の思い通りになるまでしつこく接触してくるのだ。結局、僕が根負けした。


 結果、あっ君の寝坊で僕が仕事に遅刻したのが1回、あっ君が家に忘れ物をしたから鍵を開けてくれと言うので早退したのが1回。本当に嫌だった。嫌過ぎた。流石の僕も、我慢の限界がある。それから、いいタイミングがあったのでスパッと縁を切ることが出来た。縁を切るタイミングを見計らっていたのだ。知人以下のあっ君、縁を切ってもう10年以上になるだろう。後悔なんかしたことが無い。実に爽快だ!







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付き合う人間は選んだ方がいい! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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