デジタル

sheep

光と影

「はい、じゃあ今日の講義はここまで。」

講義が終わり、奈緒はスマートフォンを持ち上げ、インスタグラムを開く。すると、ひっきりなしに通知が表示される。奈緒は自撮りを加工したものをSNSにたくさんあげていた。

「何ニヤニヤしてんの?彼氏?」そう話しかけてきたのは小学校から付き合いのある親友、結衣だった。

「ち、違うよ。これ」そう言って奈緒は通知を見せる。

「何だこれか。そんなことよりさ、今日の講義終わったらカラオケいかない?」

「ごめん、行けない。」

「また?…わかった、でもSNSも程々にしときなね〜。じゃ、また明日〜。」

「うん」

しかし、いいねの数、フォロワーの増加、コメントの嵐。これらは奈緒にとって、生きがいそのものだった。奈緒は完璧な自分を作り出すことに情熱を燃やしていた。加工アプリで美貌を磨き、流行りの言葉で飾り立てられた自撮りを投稿する。承認欲求は満たされることなく、より多くの「いいね」を得るために、夜な夜なSNSの世界に没頭した。しかし、現実世界での奈緒は、どこか虚無感を覚えていた。ついには、奈緒は大学の講義を休むことも多くなり、結衣との連絡や会話も次第に途切れていった。『奈緒、ずっと講義休んでるけど、体調大丈夫?』そんな連絡が結衣からきたが、それに返信することはなかった。結衣から伝わったのか、家族からも心配の連絡が来た。しかし、奈緒はSNSの世界から抜け出すことはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る