深海のブライクニル

@noranekonotenoke

〜プロローグ〜"遭遇"

9世紀頃ヴァイキングたちは北欧を主な入植地とし、各地で強奪を続けていた。さらにヴァイキングたちは新たな肥沃な大地を求め、北へ北へと北上していくのだった。

 

1021年✳︎月✳︎日 〜グリーンランド南端付近〜

 

ヴァイキングたちは3隻の船団でグリーンランドの沿岸を北上していた。

族長イーヴァル、副族長ロズブローク、船長ラグナル率いる船団。

要するにイーヴァル族一族総出での遠征であった。

 

 

「ロズブローク副族長、北に向かっていますが族長は何処に行くつもりなのですか?」

「此度は、東入植地から海岸沿いに更に北に向かうつもりだそうだ。」

「ですが此処より北方は未知の海、怪物が生息しているかも知れませんが大丈夫でしょうか?」

「ハッハッハ!何を恐れている!そんな怪物など村一番の怪力であるわしが打ち倒してくれるわ!!」

「確かにそうでしたな副族長!あの怪力ならクラーケンだって一撃ですな!」

「ハハッ!もし化け物が出てきたら頼んましたよ!副族長!!」

 

 

船団がゆっくりと北上すると共に、次第に風が強くなり、波が高くなっていく。

そして北上を始めてから数日が経ったある日。

 

「副族長!何か見えますぜ。」

「あれは...氷の島だな」

「族長はどうしておる?」

「族長の船は...上陸準備を初めておる様です。」

「うむ、皆の者!島が見つかったぞ、島は氷に覆われておる。各自海氷に気を付けつつ、上陸に備えるのだ!」

「はいよ!」

 

海は大きく荒れており船はまるで水上の木の葉のように揺れ動く。

その時だった。

 

  バキッ 

 

「うわぁ!!」

「ロズブローク副族長み、水が船内に!」

「3つもこんな大きな穴が!」

「何故だ!周辺には海氷も、浅瀬もない!」

「もともと東入植地のさらに北に行くなんて間違ってたんだ!」

「怪物だ...怪物が出たんだ!!」

 

 

 

 

 

 

「ええぃ、静まれ!まだ死ぬと分かりきった訳じゃなかろう。ヴァイキングの漢ならこのくらいでくじけるな!分かったらさっさと荷物を使って穴を塞げ!」

 

船中のパニックを一言で黙らせた副族長は自らの手で真っ先に藁や麻袋を船の穴に詰め出す。

 

「そうだ!副族長の言う通りだ!俺には大切な家族がまだ待ってる!こんなところでくたばっていられるか!」

「そうだ!」「そうだ!」

「そしてヴァイキングの漢として産まれたならこのくらいの試練は乗り越えないとなぁ!」

「海の化け物が何だ!俺たちはそんなのに負けはしない!何たってこっちには怪力のロズブロークが着いてるんだからな!」

「ここに来たのは運命と言うやつだ!この後ここに俺たちヴァイキングが立派な拠点を作るというな!」

 

 

彼の一言と行動を見て直ぐに乗組員達は正気を取り戻す。

 

「ハッハッハ!お前らその調子だ!だが今は口より手を動かせ!絶対無事に皆で帰るぞ!!」

「うし!」「シャー!!」「やるぞおらぁ!!」

 

 

船員達が口を閉じ、船に開いた穴を塞ぎ、入った冷たい海水を船から汲み出し始めると副族長は目の良い船員に疑問をこぼす。

 

 

「それにしても奇妙だな...、浸水しているのは我々の船だけか?」

「いいや、ラグナル船長の船も浸水しているようです!」

「では族長の船は?」

「イーヴァル族長が乗っていた1隻は我々の2隻の後方で航行していたからか、今のところ無事そうです!」

「では今すぐに引き返せと伝えろ!」

「はっ...!」

 

「引き返せーーーー!!!此方は危険だ!!我々も後から引き返す!」

 

1人の船員が大声で族長の船に伝えると族長の船は帆の向きを変えて南に引き返して行く。

 

「これで族長は恐らく大丈夫か。」

 

 

ドスン!!

 

 

そう副族長が呟いたその瞬間、近くで必死に藻搔いていたラグナル船長の船が急に轟音を奏でながら真っ二つに折れ、海中に引き込まれて行く。

 

 

「うわぁ!!!また穴が!!」

「くっ!!大きすぎる!塞ぎきれん!!」

 

 

それと同時に副族長の船にも大穴が開き、一気に海水が流れ込む。

 

 

「これが...怪物の力...ワシの怪力など何の役にも立たんではないか...」

「副族長........自分を貶めるなどあなたらしくもない!!」

「もはやここまでか....皆を守れず申し訳なかった.....本当に...本当に申し訳なかった.....そして...こんな場所まで着いて来てくれてありがとう....本当にありがとう....」

「...」

「ハッハッハ!!こんなんじゃヴァルハラにも行けやしねえな!」

「ヘルヘイムでまた会いましょうぜ!副族長!」

「最後までヴァイキングの漢として生きれて良かったです....ありがとうございました!」

「「「ありがとうございやした!!!」」」

 

漢らしい最後を遂げた彼らの最後の言葉は嵐で荒れる冷たい波と寒々しい風の音にゆっくりと掻き消されるのだった。

 

ザーーザーー............

 

 

1021年、怪力のロズブローク北極海に沈む。

現代まで名が残るほどの偉大な男であった。

 

この情報は唯一生き残ったイーヴァル族長たちによって、入植地に伝えられた。

 

 

 

この事件以降、遥か北の氷の海域をヴァイキング達はこう呼んだ

[ニヴルヘイム]

そしてそこに現れる正体不明の不可視の怪物をヴァイキング達は

【ニヴルヘイムの怪物】

と呼び恐れ、彼らは北に進出する事は無くなった。

 

彼らの恐れは根深く、次に北に挑む者が現れるのはこの数百年後になるほどだった。

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