てがみ

朝起きると、目に入って来たのは白い天井と水色のカーテンだった。「かなー、学校遅れるよ、起きな」という母の声が聞こえて来た。

スマホを見ると、

9月20日 金曜日 6 : 45。

慌てて支度をして、家を出て、最寄りの駅に自転車で向かった。

いつも通りの学校だった。

いつも通り、だったのになんだか今日は楽しかった。

家に帰ると、母が肉じゃがを作っていた。「おかえり、もうすぐご飯だからちょっと待っててね。今日はあんたの好きな肉じゃがだから。」母の声は優しかった。


その日の夜、今日一日あったことを思い返していた。授業中、分からなくて困っていたら助けてくれたあかり。放課後、「部活頑張れ」って声をかけてくれたクラスの友達。部活帰り、たわいもない話で大笑いして、一緒にアイスを食べて帰ってきた部活の仲間。可愛いなって思って見ていたら、目が合って微笑んでくれた、電車で会った赤ちゃん。今度会おうよって連絡して来てくれた高校の違う親友。ご飯を作って待っててくれた母のこと。買ってきたお菓子を文句言いながらも分けてくれた妹。



目が覚めると、私は泣いていた。

本棚に見覚えのない封筒が挟まっているのが見えた。なんだろう。開けて見ると、そこには見慣れた私の字でこう書かれていた。


✳︎✳︎✳︎

拝啓 十七歳の私へ


元気?高校生活楽しんでる?

きっと、君は今こんなことを思ってるよね。誰かになりたい。私じゃない誰かに。何かに。別に死にたいとかそういう訳ではない。消えたいとも少し違う。変わりたい。変われない。頑張りたいのに頑張れない。そんな自分に嫌気がさす。

そんな君に十年後の私から、手紙を書いています。

大丈夫。あなたは頑張ってるよ。

それに、思い出してみな、助けてくれる友達がいる。一緒に笑える友達がいる。一緒に頑張れる仲間がいる。離れててもずっと変わらない友達がいる。ご飯を作って待っててくれるお母さんがいる。なんだかんだ仲の良い妹がいる。十分だよ。幸せなことだよ。君は君らしくいればいいんだよ。朝起きて、毎日学校行って、帰って来る。それだけで十分だよ。

頑張れ。負けるな。高校生の私。

なんとかなるよ。

今の君があるから、私は今きっと君が思い描いてる理想の大人になってるよ。安心して、今を楽しみなよ。

未来で待ってるね。


十年後のかなより

✳︎✳︎✳︎


週明けの学校は、前よりちょっと気楽で、穏やかで、楽しかった。


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