ねこ

次の日、少しドキドキしながら学校へ向かった。いつも通り授業を受けた。何も起きないまま、帰り道もいつも通りだった。

家に着く直前、公園のベンチに黒い猫がいた。可愛いな。猫って気楽そうで羨ましいな。そう思って頭を撫でたその瞬間、目の前には、優しい穏やかな顔で頭を撫でてくる私の姿があった。どうやら今度は猫になったらしい。

え、、猫?ねこ、ねこか。

何故だか自然に受け入れた自分に、自分で少し驚いたが、その夜は猫として過ごしてみることにした。

フェンスをすり抜けたり、高いところから飛び降りたしして、猫を楽しんでみた。楽しかった。ずいぶん長いこと動き回っていた。疲れ果てた私は、公園のベンチで寝ることにした。

鳥の鳴く声がして目が覚めると、私はまだ猫のままだった。

一週間、私が猫から私に戻ることは無かった。

いっそずっとこのまま猫でもいいや。私に戻ったところで、虚しい、納得のいかない毎日が過ぎていくだけなのだから。そう思っていた。

夕方、私は散歩をした。

買い物から帰って来る母に会った。ビニール袋から透けて見える食材は、私が好きな母の手料理、肉じゃがの材料だった。胸がきゅーっとなるのを感じた。

部活帰り、友達と話しながら帰っている高校生をみた。何気ない会話、きっといつも通りの帰り道であろうはずなのに、凄く楽しそうだった。キラキラ輝いていた。

自分の心のざわめきに気付かないふりをして、私は街を歩き続けた。

その日は月が綺麗だった。控えめで優しい光に見守られながら、今日も公園のベンチで寝ることにした。

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