人を変える神社

@0-kaz

第1話

僕は夏休みを謳歌していた。しかし、同じような日々が続く夏休みにどこか物足りなさを感じていた。外に出て遊びに行ったりしていても結局、見知った街の景色は変わらず、退屈な日々を過ごしていた。そんなある日、ある神社の言い伝えについて聞いた。言い伝えと言ってもよくある噂程度でしかなく、神社にお参りするとどんな願い事でも願いが叶うと言ったものだった。

「よし、行ってみるか」

冒険心に駆られて早速その神社に行ってみることにした。少し迷いながらも街のハズレにある神社にたどり着いた。鬱蒼とした森に囲まれ、現代と隔離されたような神社はどこか神秘的とも思えるほど美しく、奇妙だった。僕は鳥居をくぐり賽銭箱の前までいった。目的の場所に着いたはいいが、どんな願いをするか考えていなかったことに気づいた。鳥のさえずりが聞こえた時ふと僕は呟いた

「もし、鳥になれたら。」

その瞬間、自分の体に変化があったことに気づいた。自分の体が縮む感覚、周りのものがより大きく見え始めた。僕の手は翼に変わり、全身は黒い羽で覆われた。口からは大きくとがった嘴が生えてきた。驚く間もなく僕は完全に真っ黒なカラスへと変わってしまっていた。

「な、なんだこれ?」

噂半分で試して見た僕にとって、これは信じられないという気持ちだった。

「でもせっかくなら飛んでみるか。」

僕は戸惑いながらも少しはカラスとして過ごしてみようと思い、自分のカラスの体について試していった。もちろん僕は空を飛ぶことをまず最初に試してみた。すると、自分では初めてのことなのに、翼は勝手に動き始めふわりと自分の体が浮かび上がる感覚があった。僕は自分が空を思うがままに飛べて、しかもカラスの姿のおかげで誰の視線も気にすることなく街に出れたことに、今までにないほどの自由を感じていた。

僕はカラスになってもうひとついいことがあった。カラスになって飛んでいたら自分の街の見え方が大きく変わって見えていた。今まで何気なくみていた自分の家も、屋根から見れば全く違うものに見えていた。今までは通らなかった路地裏も、カラスになって見てみたら様々な生き物が隠れ住んでいる生き物たちの秘密基地にも見えた。上の方では仲間のカラス達が、物陰には野良猫が隠れ住んでいたり、はたまたネズミや虫の巣窟になっているところもあった。僕では気づかなかった街の部分、新しく見え方の変わる世界に、大きな刺激を、影響を受けた。

日も沈み夕暮れ時、僕はカラスのままでいいとさえ思っていたが、家族のことを思い出し帰らなきゃいけないことを思い出した。僕は戻り方を何も確認していなかったから戻れるのか少し不安だったけれど、自分の姿を変えた神社に戻り、もう一度人に戻れるようにお願いをすることにした。

神社に戻ると相変わらず神秘的で奇妙な神社があった。僕はカラスになったことに感謝をしながら、目をつぶり心の中で深く念じてみた。

(カラスから元の自分に戻してください)

目を開けてみると来た時と変わらず、人の姿に戻った僕は境内で目を覚ました。時間は夕暮れ時、僕には夢かとも思える出来事だったが深くは考えずに、その日は家に帰った。

その日以降僕は毎日新しく刺激的な残りの夏休みをすごしていた。友達と共にその神社に改めて行ってみようと思った日もあったが、前とは違って神社は見つからなかった。友達からはカラスになったなんて嘘だろうと思われていた。だけど自分の心の中では名も覚えていないあの神社が、僕の心を変えて、光照らし続けていた。

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