肉と酒と隣の男女

白川津 中々

◾️

焼肉でも食べるかーと街をぶらついているとおあつらえ向けのホルモン屋があったので入店し、おしぼりを置かれた瞬間にビールを頼んだ。




「ハイ、ナマイッチョー」




バイトとおぼしきホールはカタコトだった。どうでもいい。35度のクソ暑い夏の正午過ぎ。肉と酒を運んできてくれればそれが何者であっても関係のない事だ。




「オマチドーサマ。ナマデース」


「注文いいですか?」


「ハイ」


「上ミノ、ハラミ、白コロ、豚トロ、セセリ。あ、あと壺カルビください」


「ハイ。カシコマリマシター。ヒヲオツケシマス。オキヲツケクダサイー」


「はい」




ビールを飲む。まずい。発泡酒だ。380円。どうりで安いわけだと嫌な腹落ち。次からハイボールにしようと思いつつ肉を待っていると男女二人組が入店。隣の卓に座り、例のカタコトにホルモン定食をオーダーして会話を始めた。俺はカップルかなと思いつつ聞き耳を立てる。なんと悪趣味な行為だろうか。




「◯◯があったやん」


「あぁ、あの◯◯」


「あれ牛丸さん担当なんやって」


「あぁやっぱり」


「あいつ、やったなぁ」


「ちょっとねぇ」




なんとなく男ががっつき、女があしらっているように感じる。これは進展前だなと勘繰りながら、いつの間にか届いていた肉を焼き始め、また会話を盗み聞く。





「担当性辞めてほしいなぁ。よくないよ、あんなん」


「ねぇ、分かる」


「俺何度か言っとるんやけど」


「あ、そうなんだぁ」




……




同じ職場か、あるいは同じ大学なのか、男は共通の話題しかふらない。それはよくないなぁと思いながらも、男は別にこの女とどうこうしようという気持ちはないのかなとチラと顔を見ると獣の目をしていたのでやっぱりどうにかしたいのかぁと悟りビールを飲み干してハイボールを頼んだ。もっと踏み込んだ話とかすりゃいいのになんて考えていたのだが昼食の席だしこんなもんだろうか、俺が酒飲んでるから感覚ずれてんだろうかなどとボヤボヤ脳を動かし届けられたハイボールを飲んだ。それから肉を食べ、肉を焼き、ハイボールを飲んで肉を食べ、肉を焼き、ハイボールを飲んで、ハイボールを頼んで肉を焼き、肉を食べた。男女の会話は終始変わらず、俺より先に店を出た。最後の方、関西訛りの男は反応の薄い女への攻略法が分からないようだったし、女はスマートフォンをつついていた。あれは脈なしかなと憐れみながらハイボールを飲み干し会計。5000円を支払い店を出た。外は目眩がしそうなくらいに明るく、暑かった。肉と酒の熱が冷めず、すぐに汗が吹き出す。あぁ、あの男と女はこれからどうなるのだろう。二度と会う事はないだろうが、一夏の思い出くらいら作れるだろうか。俺はラーメン屋に入りながら、そんな想像をしていた。

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