第19話 新米教祖、女王を治療する

「そんなの……生きたいに決まってるじゃないですか。女王としての役割を最後まで全うしたい!娘の成長を見ずに死にたくないです!」


「お母様……」


それを聞いたリリシアが泣きながら唇噛んだ。


「それが聞きかったのじゃ。良かったな、リーエル」


「え?」


「救世主様が村に来たのじゃ!お前も治して下さるそうじゃ」


セルシア様が笑顔で俺の背中を押す。


「ど、どうも……」


「人間?それに魔物……」


女王様は俺の目をじっと見つめてくる。

まあ、いきなり部屋に入ってきた人間が救世主様だと言われても信じられないよな。

ていうかやっぱり俺って救世主なの?


「私を……」


女王様は震える声を出す。


「私を治せるのですか?」


「……。それはやってみないと分かりません。ですがセルシア様の呪いを解き、歩けるようにしたのは僕の魔法です」


俺は淡々と事実を伝える。

もちろん全力は尽くすけど、治らなかった後に文句を言われても困るからな。


「お母様の足をあなたが?」


それを聞いた女王様の目の色が少し鮮やかになった気がした。


「リーエル、この方は救世主様で間違いはない。しかもリリシアがこの村に連れて来たのじゃ。この方が治せないのなら諦めるのじゃ」


「……希望はまだあるのでしょうか?」


「ああ」


女王様の言葉にセルシア様が深く頷く。


「うっ!」


すると女王様が顔を歪めながら、ゆっくり上体を上げた。

体を動かすだけでも相当激痛なのだろう。


「っ!お母様!!」


「リーエル!!安静にしておれ!」


二人が女王様に駆け寄り、心配そうな顔でそれを見る。


「ゴホッ……正直、私は人間であるあなたが救世主様と言われても信じられません。こんな私がお願いをするのは違うかもしれませんが――」


女王様は激痛で顔を歪めながら正座し、膝の前に手を付いてゆっくり頭を深く下げた。


「どうか私の病気を治して下さい。もし治して頂けたら、私はあなたの事を救世主様だと認め、どんなことでも協力致します。なのでどうか……」


女王様の涙がベッドに落ち、斑点模様が出来上がる。

その場にいた全員の視線が俺に向けられる。


「女王様、頭を上げてください。女王様がよそ者の人間に対して簡単に頭を下げてはいけません」


すると女王様がゆっくりと頭を上げ、目と口を大きく開けたまま俺を見上げる。


「それに頭を下げる必要なんてありません。僕が皆さんの言う救世主かどうかなんてどうでもいいです。リリシアにはこの世界の事を教えてもらいました。そのリリシアのお母さんが苦しんでいて、もし僕がそれを治せるなら治す。それだけのことです」


俺は女王様に近づき、手をかざす。


「【分析アナライズ】」


『状態異常:精霊病(全ステータス上限低下、時間経過で体力減少)』


セルシア様の言う通り、精霊病で間違いないな。

俺の魔法が聞くかどうか……。

一応強めの魔法使っておくか。


「【エクストラキュア】」


魔法を使うと、女王様の体が白く光り始める。

徐々に顔色が戻っていく。


「っ!!こ、これは……」


「嘘っ……」


「じょ、女王様……」


それを見たセルシア様、リリシア、リエルの三人が驚嘆の声を上げる。

やがて白い光が消え、俺は手を下す。


『状態異常:なし』


分析アナライズの効果で出ていた半透明のパネルにそう表示され、消えた。


「……」


女王様は目を大きく開けたまま、固まっていた。

かつての疲れた表情は消え去り、代わりに健康的な輝きが宿っていた。頬はほんのりとピンク色に染まり、目は生き生きとした光を放っている。


女王様はゆっくりベッドから立ち上がり、手足を軽く動かす。


「く、苦しくない……。治りました!!」


「お母様!」


女王様がそう言うとリリシアが勢いよく女王様に抱き着く。


「奇跡じゃ!!やっぱりこの方は神に遣わされた救世主様なのじゃ!」


「セルシア様だけでなく、女王様の病気も治すなんて……」


すると女王様はリリシアから離れ、俺の前に立つ。


「救世主様、私を治療してくださりありがとうございます」


女王様はそう言ってゆっくり頭を下げた。


「リーエル!お前もリカバリア様に感謝を伝えるのじゃ」


セルシア様は手を合わせ、祈り始める。


「リカバリア様?」


「僕をこの世界に召喚した神様です」


「そうですか……。では救世主様と巡り合わせて頂いた神様とリリシアに感謝しないといけませんね」


女王様は笑いながらそう言うと、両手を合わせて目を閉じる。


『リカバリア教の信者を一人獲得しました』


無機質な音声が頭の中に流れる。

よし!さらに信者ゲットだ!


リリシアが泣きながら俺に近づき、抱き着いてくる。


「シンヤ……ありがとう」


「そ、そんな大したことはしてないよ……」


俺は困惑しながらそう答える。


「あなたに出会えて良かったわ……」


リリシアは頬をほんのり赤く染め、俺の目をじっと見つめてくる。


「あらあら……リリシアったら」


「人間とエルフか……大変そうじゃのう」


「恋に種族は関係ありませんよ、お母様」


女王様とセルシア様が何やらこそこそ話していた。

なんか変な勘違いされている気がする。


『あれ?おかしいね』


「「っ!!」」


すると突然子供の声が聞こえてきた。


『何で治ってるの?』


『わかんない。でも治ったら僕達と同じになるんだよね?』


『でもエルフのままだ~』


「シンヤ?どうしたの?」


リリシアはそう言って首を傾げる。


「き、聞こえないのですか?」


女王様が目を大きく開けながら、全員の顔を見る。

驚いてるのは女王様と俺だけ、つまり声が聞こえるのは俺と女王様だけのようだ。


『ずるいずるい!せっかく家族が増えると思ったのに!』


『寂しいね~』


『もう怒ったぞ~!』


『罰だ!罰だ!』


「「……」」


子供の声が聞こえなくなった。


「い、今のは何だったのでしょう?」


「分かりません……ですが――っ!!」


すると地面が揺れ始めた。


「地震じゃ!!」


俺達は急いで壁や家具に手を付いた。

だがすぐに地震はおさまった。


「な、なんなの……」


ドンドンドン!

勢いよくドアがノックされ、ドアを叩く音が部屋に響いた。


「誰じゃ!」


「大変です!森の深層の方から大きな魔物がこちらに向かって歩いて来ています!」

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寂しがりヒーラーのスローライフ~友達作るために片っ端から回復してたらいつの間にか異世界最大の宗教国家が出来ていた~ 壱文字まこと @kmd769

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