短編︰扉を開けた後で…

木村木一

短編:酔って書いた反省はしない

「私、自分の世界に帰ってもう一度がんばってみる!」


 私がゲートの前でふりかえるとそこには冒険を共にしたミケーネ王女や騎士たちが見送りに来てくれていた。


 王女ミケーネ、騎士パーシー、傭兵ニキ、ショタ担当ポポンタ、そして


「ゲートの使用は1度きり、向こうに渡ればこちらには2度と戻れない。それでも行くのか?」


 ヘテロクロミアの美丈夫、ゲートキーパーのボルデガルフが私を見つめながら問う。私は答えた。


「うん、私は自分の可能性を信じたいの! だから、またねボル」


 そしてボルデガルフは私の額に優しくキスを──













 ってな事が14歳の時にあったんだが、いまじゃーすっかりアラフィフの疲れたOL。


 いや、理想はあったんだよ? 女も仕事、女も自立、女も社会進出ってやっすいコピーに踊らされてさ、4大でて誰もが聞いた事のある大企業に就職。バリバリ働いたさ。やらなくてもいい仕事ややらなくてもいいケンカをこなしつつガツガツ働いた。


 今ならわかる、女も〜ってあのクソコピー、アレな、団塊の社畜の代替を女にやらそーとしただけだと。


 気づけばアラフィフお一人様。夫や子供どころか彼氏いない歴=年齢。同居人は愛猫のミケのみ。そのミケも先月動物霊園に…ひとり鍋が身に沁みるわ…


 聞いてんのかオッサン!


 ここはひなびたクラシックな食道兼居酒屋。この手の店舗はコロナ禍とインボイス増税、強制デジタルマネーにより淘汰されいまでは絶滅危惧種だ。


 泥酔した私は見知らぬオッサンに今まで1度も話したことのない、異世界転移の話をしていた。客観的に見ると私はかなりやべーババアだ。オッサンの包容力すげー!


「まー落ち着きなさいな。わかるぜ、若いってのは万能感と無謀が理性かなぐり捨てて突っ走ることだ、わかるぜ〜」


 お、おう。そーだよなー、あんときゲートキーパーのダンダデルフとゴールしときゃよかったぜー。


「名前、最初とちがうぞ?」


 もう40年前の話じゃけー記憶もにじむわー。ん? なんだ? 若さゆえのしくじりぐらいある?


「おー、おっさんもわけーころ異能力伝奇ロマンな事件に巻き込まれてな、イキリたおしてやっちまった事があるんだぜ〜」


 え? いや、おっさん、無理に私に合わしてくれなくていいぞ? いや、マジ?


「ある日裏山の大殺生石の上で昼寝してたらな──」


 おっさん、出だしからおかしいぞ!


「しょーがないよ、事実は小説よりアタマおかしいからねえ」


 お、おう。


 おっさんの話はそのへんの準1流伝奇ロマンな小説並みに面白かった。


「準1流かよ〜」


 レベル的には半◯良あたりだなー


「お、女でアレがわかるか、通だねぇ〜」


 で、オチは?


「あ、ああ、あーラスボスのおっさんをしばき倒した時にな、たかだか10代のガキだった俺はラスボスおっさんにこう言ったんだよ」


 ほうほう?


「行き詰まってるのは社会じゃねえ! お前自身だろ! 社会のせいにしてんじゃねえよ! ってな」


 あちゃ〜……


「おっさんになった今だからわかる……社会……どん詰まりだったわ〜わはは」


 あやまって! ラスボスのおっさんにあやまって!


「ラスボスのおっさん、正直すまんかった。ラスボスのおっさん、あんまり悪くなかったわ〜ごめんなぁ〜わはは、カンパーイ」


 わはは、カンパーイ♪


 ん? そういえば、おっさん超能力があるっつったけど、話は古風なカンフーアクションで超能力なんか使ってなかったよな?


「お、そこに気づくとはさすが異世界転移ヒロイン」


 よせやい、あたしゃただのババアさ。


「で、最初に戻るんだが大殺生石の上で昼寝してたらな、なんかこう、あらゆる極彩色の明滅する灰色の──」


 おいぃ〜、コズミックホラーになってんぞぉ!


「あーそうだ、異世界からゲート通ってこっちに帰る前にもどれたら、どーする」


 ん〜、そーだなー…ゲートキーパーのデンデドルフと結婚でもするかな〜


「言質はとったぜぇ?」


 ニタリと笑うおっさんの顔がぐにゃりと歪みあらゆる極彩色の明滅する灰色の渦がって、ここに繋がるのかようぎゃあああああああああっ!












 気づけば目の前に混沌の渦は無く、金と銀のヘテロクロミアが私を見つめていました。


「ゲートの使用は1度きり、向こうに渡ればこちらには2度と戻れない。それでも行くのか?」


 ヘテロクロミアの美丈夫、ゲートキーパーのボルデガルフが私を見つめながら問う。私は答えた。


「うん、私は自分の可能性を信じたいの! だから、またねボル…………あれ?」


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短編︰扉を開けた後で… 木村木一 @Kiichi_Kimura

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