支配
@engawa01417
1
「ここは......」
目を覚ますと俺は取調室にいた。
「やっと目が覚めたか、羽鳥真。殺人だってなあ。でもそれだけじゃないだろう?」
殺人?まだ意識が朦朧としている。聞き間違いだろうか。
「なあ、話してみろよ。いつからお前はこんなことをやっているんだ。さあ、吐け!」
「…あれは確か…」
あれは半年前のことだった。
「いや〜しかし毎日暑いな〜。そうだ、今週末さ、海行かね?」
潤は俺を誘った。
「でもさ、人多くない?人混みはちょっと…。」
「大丈夫だ。俺、誰もいねえとっておきのところ知ってんだ。まあ、ちと汚いけどな。」
「ふ~ん。」
仕方なく俺は誘いに乗った。
当日、俺らは”そのとっておきのところ”に来た。近くには生物研究所があるらしい。しかし見たところ、泳ぐには十分の場所だった。潤はずかずかと海へと進んでいった。
「真~お前も来いよ~。」
「いま行く〜。…いてっ。」
足がチクッと痛かった。たぶんとげが刺さっただけだ。そう思った。しかし、体温が上がるのがわかる。立つので精いっぱいだ。
「真?お前大丈夫か。」
「ちょっとね。…風邪でもひいたかな。」
「ごめんな。俺が誘ったばっかりに。もう帰ろう。」
「こっちこそごめん。」
俺は家へ帰った。すぐ寝ようと思ったが、なかなか寝付けない。窓に映る獣のような姿が一瞬見えた。目を疑ったが、それは明らかに自分であった。気が付くとすぐに元の顔に戻った。その後すぐ俺は眠りについてしまった。
翌朝、俺は目を疑った。部屋のものが切り裂かれている。
「もしかして…」
昨日の獣の姿を思い出した。俺は変身できるようになったらしい。ヒーロー映画が好きな俺には、その事実を受け入れるのが簡単だった。
「俺はヒーローか?自在に変身できるのだろうか。」
何度も挑戦した。しかし、結果は何も得られず。俺は気晴らしのために出かけた。
「助けて!!誰か~!!」
遠くで声がする。行かなきゃ。俺は走って声のもとへ向かった。どうやら女性が男に襲われているようだ。男はこちらに気が付いてナイフを振りかざしてきた。俺はとっさに男を跳び超えた。
「できた…」
自分の姿を見ると、変身できていた。どうやら戦う意思があれば変身できるようだ。
「な、何者なんだお前は…」
男はおびえて逃げてしまった。女性のほうに振り返ることもなく俺はそこから立ち去った。
これがあれば、街を救えるかもしれない。そう思った俺は、早速行動した。まずは裏路地だ。そこで実力を検証しよう。裏路地なら犯罪者も多いだろう。
「ヒーローとなると名前が必要だな。そうだウェアウルフだな。まあそのままだけど。」
そして、俺は裏路地に潜む犯罪者を片っ端から追い払った。俺が救った人たちがSNSで俺のことを発信し、すぐに広まった。現代のSNSの拡散力に感心しながら、俺は知名度が上がることの快感を覚えた。
「このままたくさんの犯罪者を懲らしめよう。」
俺はどんどん犯罪者たちの前へ現れるようになった。銀行強盗や誘拐犯、暴力犯など様々な奴らがいた。最近では、追い払うだけでなく相手に一つ二つの傷をつけるようになっていた。
「犯罪者なんだから当然の報いだ。」
ただ、世間の評判が少し悪くなっていた。
「傷害罪なんじゃないの?だったり、血を流さないでいたから好きだったのに、だったり。
「好き勝手言いやがって。…じゃあ……」
俺はある大仕事に出ることにした。というのも、近頃、政府が不評でみんな苦しめられていた。だから、俺がこの力で国を変えてやろう。そう思った。
「ここが首相官邸か。よし。」
首相を思うと、最近の税金だの政策だの、そしてこの俺、ウェアウルフに対する対応などが思い返された。
「お前をここで!……」
ここからは記憶がない。いつの間にか俺は逮捕されていた。
「へえ。ヒーローね。」
警察は言った。しかし、俺はそれ以上話さなかった。なぜなら俺には人を殺した記憶がないからだ。
「もういい。黙秘されちゃあどうにもできん。終わりだ。」
俺は勾留された。
数日後、どうやら面会したい人がいるらしい。なんとあの潤だった。そういえばあれからろくに連絡を取っていなかったな。
「真。お前がそんな…じゃなくて、これを言いに来たんだ。半年前、海に行っただろ?その近くの研究所で、どうやら実験中の生物兵器が放流されてしまっていたらしい。それでさ、お前あの時、体調崩したろ?なにか異変はなかったかってさ。」
「…」
俺には明らかな異変があった。
「潤、お前、ウェアウルフってしってるか。」
「あれだろ?SNSで話題になってる。それがどうかしたか?」
「…」
俺は口を開く勇気がなかった。すると、潤は
「知ってるよ。お前がウェアウルフだっての。」
「えっ」
なぜだ。どこかで見られていたのだろうか。
「いや~まあまあいいデータがとれたよ、真。まあ、捕まっちまったみたいだし一応”それ”返してくんね?ほら、手だして。」
俺は怖くなっておとなしくてを差し出した。潤はとある装置を使い俺の体から”それ”を抜き出した。
「なんなんだよそれ。」
「これか?うちの研究所で作った生物兵器だ。なんたって人に寄生してあらゆる動物の姿に宿主を変えられるってやつだ。まだ試作段階だったからお前がいい実験体になると思ってさ。でも驚いたよお前がこいつの寄生能力を抑制するなんてね。まあ最終的には操られてしまったがね。」
「じゃあ首相の件は…」
「いや無理だ。お前がやったってことになる。だってさ、こんな生物兵器見つかってるわけないだろ?うちは秘密を守るのが得意でね。だから、君は晴れて有罪ってわけ。まあ責任能力が問われるかもだけど君の体にもう証拠は残ってないよ?じゃあもう時間だから。」
「潤、お前は友達じゃなかったのか…」
「どうだろうな。最初はその気があったかもしれないけど、俺は研究が大事だからさ。じゃあね。」
「…」
俺は言葉を失った。
翌日
「おい!起きろ羽鳥!」
俺はその声で目を覚ました。
「お前に重要な報告がある。一緒に来てくれ。」
俺は言われるがまま警察についていった。
「見ろ。」
警察はモニターを指さして言った。そこには、あの事件現場の映像が映っていた。
「これは…」
そこには悍ましい獣の姿があった。そして、人を次々に切り裂く凄惨な光景だった。
「羽鳥、見てほしいのはこの獣じゃない。画面の左端を見てくれ。」
「…!」
そこには倒れた俺の姿があった。
「そうだ。お前はこの獣が警備を襲うよりも前から意識を失って倒れていたんだ。そしてこの映像から、お前の獣に変わる力が別の生物によるものだったのだ。」
じゃああの寄生生物は俺の体に残っていたのだろう。しかし、質問する間もなく警察は続けた。
「建物に入る前にその生物はお前を抜けた。お前はそのまま倒れ地面に頭を打って気絶してしまった。一方その生物は実は別の人間のもとへ宿主を変えたようだ。この獣の正体が寄生生物だと判明するまで時間がかかったがな。」
「宿主を乗り換えた?なぜそんなことを?」
「それはわからないな。」
俺は、その瞬間潤の言葉を思い出した。彼は
「驚いたよお前がこいつの寄生能力を抑制するなんてね。」
なんて言っていた。そうか、俺はあの寄生生物の力を抑えていたんだ。それで、最終的に宿主を乗り換えたんだ。俺が宿主では実行できなかったのだろう。再度俺の体に戻ったのは襲撃に使った人間は消耗し、唯一そこに生き残っていた俺のもとへ戻ったんだ。
「潤…九条潤…」
「昨日面会に来たやつか、そいつがどうかしたか。」
「そいつ、ここへ呼んでもらえませんか。あいつが、この寄生生物を俺に寄生させたんです。」
「なんだと!すぐに呼び出す。」
数時間後、あいつが来た。
「お呼びのようでしたけどなんでしょう。」
相変わらずの適当な口調で彼は姿を現した。
「九条潤、もうわかってるだろ。ここに呼び出した理由。」
「あの事件のことだろ?」
余裕そうに話す。
「そうだ。俺はあの時倒れて意識を失っていたらしい。責任能力…とかいってたな。」
「ふ〜ん。残念だね。でもさ、俺はお前なんて憎んでもないしどうでもいいの、ただ実験体だからさ。だからお前が無罪だろうと死刑だろうとどうでもよかった。」
「じゃあ何が目的で!」
「だからさ〜実験だって言ってるじゃん。あ、あとさ、あの生物には首相の情報を学習させて襲撃するように指示してあったんだ。やっぱり、実験は大規模なほうが面白いじゃん?ついでに世の動きとか見てて面白かったし。」
「お前……」
潤は目線を移した。
「刑事さん。捜査お疲れ様です。今回の事件私がやりました。」
「じゃあ取り調べだ。」
警察は怒りと呆れの混じった表情で言った。
「俺一人を捕まえようと、九条グループはものすごく大きい。砂山から一粒砂をとっても誰も気が付かない。」
そんな言葉を言って、彼は警察とともに去っていった。
俺は解放された。ただ、九条潤の口調のせいですっきりはしていない。俺はもうヒーロー業なんて懲り懲りだ。もう海には行かないし川にも行きたくない。ただ、生物兵器のあの脅威をみると、世の技術の進歩には驚きを隠せない。今後の科学技術の進歩は期待もあるが、不安もある。人は時々、自分の生み出したものに支配されてしまうときがある。それはやはり、人間の自分たちの力の過信だろう。自分を正しく知って、人間をしっかり理解している科学者が、今後の未来を背負っているのだろう。
支配 @engawa01417
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