第21話 トロ
俺は警察官だ。最初こそ、この国を守ってやるという強い正義感があった。
今はただ、楽に、安全に、稼げればそれでいい。
今晩も、制服を着たまま、酒場に入った。
「警察ってのも大変なもんよ」
酒場で、声をかけてきたツラのいい胡散臭い野郎と一緒に飲み始めて3時間ほどか。
自分のことは何にも話さねぇ、じっと俺の話を目を線みたいに笑って聞いてる。時折入る合いの手が気持ちよくて、こっちもついつい喋りすぎる。
あのガキどものことは、喋らないようにしなければ。
俺たちが次々に難事件を解き、昇進しているカラクリがバレたら困る。
「そうだろうね。
少し質問をしてもいいかい?これはまぁ都市伝説みたいな話なんだけどね、大きな事件が起きた現場に必ずいる、犯人をボコボコにしている青年のことについて、何か知っていたりするかな」
すぐにあのガキのことだと分かった。俺はちゃんと取り繕えているだろうか。一応訓練を受けた身だ。このくらいのポーカーフェイス、いくら酔っているとはいえ…
「知っているんだね」
ソイツは目をさらに細めて笑った。
酒場の路地裏、誰もいない、冷たい水たまりに血が混じる。
俺の血だ。
「もう痛いのは嫌だろ?全部教えろよ」
やけに切れ味のいいナイフが、小指から順番に、入っていく。
全て、喋った。
「もうこれで、全部だ。
理論についての詳しいことは何も知らないんだ」
もう2本しか指が残っていない。
「開放し…」
ああ、そうだよな。
怖い、怖い、怖い、死は、怖い。
「逆行する救世主、か」
ソイツはナイフをクルクルと回しながら、路地裏に消えていった。
逆行サルヴァトーレ第一章完。
Violation 家猫のノラ @ienekononora0116
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