エピローグ:新たな絆
春の柔らかな日差しが、月光女学院の校庭を優しく包み込んでいた。桜の花びらが、そよ風に乗って舞い、まるで祝福の雨のように降り注いでいる。
蒼羽は、優莉奈の肩に寄り添いながら、中庭のベンチに腰掛けていた。優莉奈の金色の髪が、春の陽光を受けて煌めいている。その髪は、まるで液体の黄金のようだった。蒼羽は思わず、その美しさに見とれてしまう。
「ねえ、優莉奈」
蒼羽が、優莉奈の手を優しく握った。
「なに、蒼羽?」
優莉奈が、柔らかな笑顔を向ける。彼女の唇は、春の桜の花びらのようなピンク色をしていた。それは、優莉奈お気に入りのリップグロス「ブロッサムキス」の色だった。そのグロスは、ほのかな桜の香りがするのだ。
「こうして一緒にいられるのが、まだ夢みたい」
蒼羽の瞳が、月光のように淡く輝き始める。
「でも、夢じゃないわ」
優莉奈が、蒼羽の頬に優しく触れた。
その時、風が二人を包み込んだ。
「あら、二人とも相変わらず仲良しね」
ことはの声が聞こえ、二人は振り返った。ことはのラベンダー色の髪が、風に揺られて優雅に舞っている。彼女の周りには、いつものように微かな風が渦巻いていた。
「ことは!」
蒼羽が嬉しそうに声を上げた。
「ごめんなさい、お邪魔?」
ことはが、からかうような口調で言った。
「もちろんそんなことないわ」
優莉奈が微笑んで答えた。
そこへ、優雅な足取りで麗華が近づいてきた。彼女の長い黒髪は、春の日差しを受けて紫色の光沢を放っていた。麗華の制服は、他の生徒たちとは違い、特別に仕立てられたものだった。スカートの裾には、繊細な刺繍で紫鳶の羽根が描かれており、それは彼女の威厳を象徴しているようだった。
「みなさん、こんにちは」
麗華の声には、以前のような厳しさはなく、温かみが感じられた。
「麗華先輩!」
蒼羽たちが口を揃えて挨拶した。
「ねえ、みんなで座りましょう」
ことはが提案し、四人はベンチに腰を下ろした。
春の陽気に包まれながら、四人は穏やかな時間を過ごしていた。蒼羽は優莉奈の肩に寄り添い、ことはは麗華の腕に手を回していた。彼女たちの間には、言葉では表現できない深い絆が流れていた。
「本当に、学院が変わったわね」
麗華が静かに言った。
「ええ、でも良い方向にね」
優莉奈が頷いた。
「月華律」が撤廃されてから、月光女学院は大きく変わった。多様性を認め合う新しい文化が根付き始め、生徒たちの表情は以前よりも明るくなっていた。
「私たち四人の力で、この変化を起こせたなんて……」
蒼羽の声が少し震えた。
「違うわ、蒼羽」
ことはが優しく言った。
「私たちだけじゃない。みんなの心の中にあった想いが、一つになったのよ」
風が四人を包み込み、桜の花びらが舞い上がった。
「そうね」
麗華が深く頷いた。
「数値では測れない、大切なものがあることを、みんなが気づいたのよ」
優莉奈が、蒼羽の手を優しく握った。
「私たちの絆のように」
蒼羽は、優莉奈の手の温もりに心が温かくなるのを感じた。
四人は互いを見つめ、静かに微笑み合った。春の陽光が、彼女たちの姿を優しく包み込んでいる。
「ねえ、みんな」
ことはが立ち上がった。
「これからの未来について、語り合わない?」
他の三人も立ち上がり、頷いた。
四人は手を繋ぎ、桜並木の道を歩き始めた。蒼羽と優莉奈が手を繋ぎ、その隣をことはと麗華が肩を寄せ合って歩く。彼女たちの周りを、ことはの風が優しく包み込んでいた。
「私ね、将来は音楽の道に進もうと思うの」
優莉奈が、少し照れくさそうに言った。
「素敵ね! きっと素晴らしい歌手になれるわ」
蒼羽が、優莉奈の手を強く握った。
「私は……」
麗華が言いかけて言葉を詰まらせた。
「何かしら、麗華先輩?」
ことはが、優しく促した。
「私は、この学院を変えていきたいの。生徒会長として、もっと生徒たちの声に耳を傾ける学院にしたいわ」
麗華の瞳に、強い決意の色が浮かんでいた。
「素晴らしいわ、麗華先輩!」
蒼羽が感動して声を上げた。
「私も、何か自分にしかできないことを見つけたいわ」
ことはが言った。彼女の周りの風が、期待に満ちて渦巻いているようだった。
「きっと見つかるわ、ことは」
優莉奈が優しく微笑んだ。
蒼羽は、三人の顔を見回した。優莉奈の金色の髪は、春の陽光を浴びてより一層輝いていた。ことはの碧眼は、希望に満ちて輝いている。麗華の表情には、以前には見られなかった柔らかさがあった。
「みんな……」
蒼羽の声が震えた。
「私も、数学を使って何か新しいことをしたいの。数値だけじゃない、人の心や感情を理解できるような……そんな新しい理論を作りたいわ」
三人は、蒼羽の言葉に驚いた表情を浮かべた。
「素晴らしいわ、蒼羽!」
優莉奈が、蒼羽を抱きしめた。
「きっとできるわ」
ことはが、蒼羽の肩に手を置いた。
「私たちも、全力でサポートするわ」
麗華が、珍しく柔らかな笑顔を向けた。
四人は再び手を繋ぎ、桜並木の下を歩き続けた。春の風が、彼女たちの髪を優しく撫でていく。
「ねえ、みんな」
蒼羽が立ち止まり、三人を見つめた。彼女の瞳が、月光のように輝いている。
「私たちの絆は、どんな数値よりも、どんな言葉よりも強いわ。これからも一緒に、新しい未来を作っていきましょう」
蒼羽の言葉に、全員が強く頷いた。彼女たちの目には、未来への希望と、互いへの深い愛情が輝いていた。
月光女学院の桜並木に、四人の少女たちの笑い声が響き渡る。それは、新たな時代の幕開けを告げる、希望の音色のようだった。
蒼羽の瞳から放たれる月光のような輝きが、四人を包み込んだ。それは、彼女たちの強い絆と、輝かしい未来への希望を表すかのようだった。
「さあ、私たちの新しい物語、始まりましょう」
蒼羽の声が、春の風に乗って静かに、しかし力強く響いた。それは、彼女たちの新たな冒険の始まりを告げる、力強い宣言だった。
(了)
【学園百合小説】月華の檻 ―四重奏が奏でる革命への夜想曲― 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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