異能者たちの宴 6

 何もない。

 しかし何かに照らされた白い空間で二人の男女が視線をぶつけ合う。  


 男は無表情、女は追い詰められたように苦しそうな表情を浮かべていた。


「そんな顔すんなよ鬱陶しい。別に殺しはしねぇ。逃げられたら面倒だから閉じ込めただけだ。今は時間が惜しいんでね。てことで手っ取り早くテメェの親玉の情報を吐けよ。そしたらここから出してやるよ」


 しかし、そんな女の様子をを一切気にする事なく言いたい事だけを並べていく男、天海夜空。


「……アナタは、敵。何も話す、事はない。例え、死んだと、しても」

「ハッ死んでも、ね。聞き飽きたセリフだな」


 袋の鼠、しかし未だ毅然とした態度を貫く女を鼻で笑う夜空。


「ま、お前の言い分はわかった。交渉決裂ってことだ。なら無理やり口を開いてもらうしかねぇな」

「さっきも、言った。今のアナタには、無理。私には、指一本触れらない、から」


 そう、この絶望的な状況で女が平静を保っていられるのは吸血鬼の固有異能があるためだった。


 しかしその平静は悪辣な笑みを浮かべる夜空によってすぐに破られる事になる。


「あー、まではそうだったかもな。けどここには何も。つまり今の俺にはこれが使える」

 

 そう夜空が発した直後、夜空と女の間にある空間が歪み、その中からドス黒い何が這い出し部屋を埋め尽くした。


 そして突然、


「カハッ!!!!」


 女が大量の血を吐き出しながら膝を折った。

 何が起きたかも分からず地に伏した女は自身の吐き出した血溜まりの中で夜空の顔を見上げた。


「一体何をしたって顔だな。仕方ないから教えてやるよ」

「ッ……」

「お前らはこの世で完璧に近い生物の一つだ。不老不死と桁違い肉体強度。強力な固有異能に無尽蔵のルミナス。つまりお前たち蝙蝠を正面から狩るのは効率が悪い。そこでコレの出番だ」


 淡々と語る夜空は手のひらで弄ぶを女のへと近づけた。


「ガッッッ!!!!!」


 するとたちまち血を吐きのたうち回る女。そして血が舞うたびに黒いは躍動し、まるで喰らうように女の血を飲み込んでいく。


「コイツは異界から這い出た怪物から切り取った心臓だ。かなり面白い能力を待ってる。この心臓の纏う黒い靄。この靄は対象の体内に潜り込み体の自由を奪い無理やり血を吐かせ、それをこの心臓が喰らう」

「……!!!」

「その身体はもうお前の意思では動かない。異能も使えないだろ? そこでだ、お前には二つの選択肢がある」


 そう言って夜空は二本指を立て言った。


「一つ目は素直に話して帰るか。二つ目は無理やり身体を弄られて喋るか。俺的には一つ目がオススメだ。二つ目は身体と脳への負担が凄まじいからな」


 苦しい選択を迫られる女。


「まぁどっちでもいいから十秒以内に決めろ。回答がない場合は、わかるだろ?」

 

 そして間髪入れずに無慈悲なカウントダウンが始った。


「わ、たしは……」

 

 しかし、女は未だ痛みに蝕まれたままだった。

 そんな状態では何かを考える事すら難しい。


(今はまだ再生が追いついている。でもこのままだと……、!!!!)


 内側から襲いかかる痛みと衝撃に思考が途切れる。

 女はとうに万策尽きていた。

 激しい痛みに動かない身体。異能も封じられては何もできることなどない。


 それでも、


「さてと時間だ。どうする? 蝙蝠」

「二つ目。貴方に何も話す事はない」

 

 彼女は夜空の目を見てキッパリと言い切った。


「そうか……」


 覚悟の決まった答えに夜空はただ一言呟き。

 そして、女の頭へと手を伸ばした。


 差し迫る危機を前に女の頭に巡るのは

 

 ──こんな筈じゃなかった。 

 

 そして様々な後悔を抱えたまま目を瞑り、その時を待った。


 だがしかしそんな女の上から光が降り注いだ。

 それはただの光ではない。何もない筈の空間に突如として現れた男の放つ膨大なルミナスの輝き。


 男は女を庇うように夜空の前に降り立った。


「待たせたね、ステラ」

「ロイ……!!!」


 男に名を呼ばれ顔を上げた女、ステラは瞳に雫を浮かべて叫ぶ。


 一方、夜空はそんな感動的なやりとりに一切興味示さず突如現れた金髪の男を注視していた。

 

「驚きだな。この場所にどうやって現れた?」

「ハハッ気になるかい? でも残念、今はお喋りしてる暇は無いんだ。だから続きは宴の日にでも」


 そうしてロイと呼ばれた男はしゃがみステラに肩に触れた。

 

 すると光がステラとロイを勢いよく飲み込んでいく。 

 そして、それを黙って見ている夜空。


「なんだ突っ込んでくると思ったのに、冷静だね」

「空間転移系の異能。触れたらどこに飛ばされるかわかんねぇ。宇宙そらの果てにでも飛ばされたら帰ってくるのがめんどくせぇだろ?」

 

 そんな、冗談めいた夜空の返しが可笑しかったのかロイは笑みを浮かべた。


「ハハッ、確かに。では有り難く退散させてもらうよ。またね、異能狩り」


 そう言い残し二人は夜空の前から姿を消した。


「はぁ……結局親玉の手掛かりなし。このままじゃパーティー参加確定かよ。やっぱ弱いって不便だな」


 そして二人のいなくなった空間で一人、夜空は愚痴を溢した。

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戦闘狂と欲喰らう蝶は闇夜の中で舞い踊る。〜最強の少年と簒奪の姫は異能世界で無双する〜 星の横にいる人 @konbadArK

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