異能者たちの宴 5
街灯はなく月明かりだけが先を照らす路地裏を一人歩く夜空。
そして、ふと立ち止まり顔を上げた。
「まじで丁度よかったよ。一から探すんじゃ手間がかかり過ぎるからな」
見上げた先、屋根の上にまるで何かがいるような口ぶりで話す夜空。
しかし、返答はない。
「んだよ、だんまりか? なんか用があってこんな距離まで近づいたんだろ。俺は短気でね、早いとこ出てこい。じゃなきゃ屋根ごと消し飛ばす」
無視をされ若干腹を立てた夜空はドスの効いた声で言った。すると、
「待って、天海夜空。争う気、ない」
屋根の上から黒髪、赤黒い眼、黒いゴシックドレスを見に纏う妙な口調の女が現れた。
「あ? その血の目……テメェ吸血鬼か。なんで俺の名前知ってんだよ」
「そう殺気立つ、な。今日は、ただ。渡したい、物があって、来た」
睨む夜空に向かって女は手に持つ紙を投げ渡した。
「この封筒……。ハッ、なるほどな目的は最初から俺か。これは笑えるぜ」
「それは、招待状。しっかりと、正装で、来て。それじゃ」
そう吐き捨て踵を返しその場を去ろうとする女。
「オイ待てよ、カタコト蝙蝠。逃すと思ってんのか?」
「うん。今のアナタじゃ、私に、触れられない、から」
そう煽り赤い瞳で見下ろす女の背に美しい月光が差した。
そのまるで絵画のような美しさを放つ光景を前に夜空は妙な苛立ちを覚える。
(この感覚は……)
だがそれは一瞬のこと、瞬く間に獰猛な笑みを浮かべた夜空は女に向かって一直線に加速した。
「ハッ言うじゃねぇか。だったら試してやるよ」
そして夜空は女に向かって手を伸ばした。
──しかし。
その手はまるで霞にでも触れたかのようにすり抜けた。そして自身の身体をすり抜けたよ夜空を冷めた目で眺める女。
「無駄、と言った」
「血の霧……吸血鬼の異能か。なるほどな確かに今の俺には厳しい」
「そうだから、素直に、帰って」
明らかにめんどくさそうに女は言った。
しかし、夜空はニヤリと笑みを浮かべた。
「黙って聞けよ、蝙蝠。厳しいってのは俺が無手だったらの話だ。しかーし、今の俺にはこれがある」
そう夜空はクルリと回転し自身の首に掛かったネックレスを見せびらかした。それは銀のチェーンに繋がれた黄金の指輪。
「それは?」
「気にすんなよ、すぐに分かる。縛れ《ポラリス》」
夜空の言葉に呼応するように白く光り始めた指輪。
そして辺りに白い壁が展開されていく。
「これは……!! 刻異武装ッ!」
「大正解だ、蝙蝠。ちょっと能力が特殊だがなお前みたいなちょこまか逃げるタイプにはすこぶる有効だ」
「ッ! こんな結界すぐに破れる!」
謎の空間に閉じ込められた女は即座に霧化し壁に向かっていく。
だが、
「……!!?」
「ハッ、コレはただの結界じゃねぇ。展開されたと同時に現世とは完全に断絶された異空間に転移する。つまり今この空間の外には何もない、無の世界だ」
女が壁をすり抜けた先、そこにあったのは白。完全なる虚無の世界だった。
「制限時間はねぇ。帰りたきゃ俺を殺して行くんだな」
それは夜空から女への死の宣告だった。
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