第14話「安息の闇」


「狐はもういない。お前の血が狐に勝ったんだ」



その理由は?


狐は少女の身体に入ろうとしたが、少女の中で封印された。


少女は巫女の家系だったが、両親がなくなり養父に育てられた。


引き取られた時点で少女が巫女の血を引くことが村人に知れ渡り、はじめから生け贄にしようとしていた。


少女は贄として棺を通じてあやかしの世界にやってくる。


狐が少女を食らおうと中に入った瞬間、血がほとばしって狐の魂を滅してしまった。


妖力だけが月冴に残る。


椿はすでに少女が道を開いたあとだったから棺を通じてあやかしの世にやってこれた。


巫女の血筋のものを送れば凶作から解放される、そう期待していたが日に日に村は枯れていく。


人として、巫女として欠陥があったのだと村人たちは恐怖に支配されて再び贄を送ることにした。


それが椿だった。


何の意味もない生け贄であり、椿が送られたからといって凶作が解決するわけでおなかった。





「明日まで待て」


「明日?」



その不安に月冴はハッキリと頷いた。


少女は涙ぐみながらも微笑み、月冴の手を頬に寄せる。


「不安はあります。ですがもう怖くはありません。私は月冴さまを信じたいのです」


「不安も全て明日には消えよう」


「もし消えたならばその時は……」


いや、その先はまだ告げない。


月冴にとってもそれは同じことであり、言葉は口付けによってふさがれた。


口付けは深くなっていき、それに応えるように少女は舌を絡ませる。


温かくねっとりとした舌に舌を舐められると身体が震えて下腹部が熱を持つ。


頬が熱いのか、月冴の手が熱いのか。


湿った感覚は唇だけではとどまらなかった。


唇が離れるとここまで乱れたことはないと頬を染めて口元を覆い隠す。


身体に力が入らないと膝を折ると月冴が受け止め、その腕に包まれた。




嘆きと憎しみを吸って邪気に満ちていた月冴。


それが今では晴れやかな微笑みとなり、少女の額に唇を落とすほどだ。


胸の高鳴りとわずかな緊張に挟まれ、奇妙な感覚を味わった。



「お前は私の傍にいればよい」


「……っはい」


その日、はじめて月冴の腕の中で眠った。


膝枕をしたこともあったが、その晩は月冴が甘やかす番となり少女はふわふわした心地良さに月冴の膝を独占した。


暗闇は好いた人とならば安息になると少女は実感するのだった。

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名前のない贄娘〜養父に売られた私に愛を教えてくれたのは孤独なあやかしでした〜 星名 泉花 @senka_hoshina

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