肆_私は辰の年辰の日辰の刻に生まれた龍神の生まれ変わりだっ!
「そういえば私の刀……」
「あ、返してなかったっけ。耕雨ー、傘立てにぶっ刺してあるから取ってきて」
「ああ……ん?刺してある?」
「うん。鞘が見当たらなかったから、抜身で適当に刺してあ……」
「あアァァァァァッ!俺の、俺の傘がぁぁああぁ……」
見ると、そこには二振りの太刀に刺し貫かれ、無残な姿となった傘が。セーブ鉄と言えど、柿渋の塗られた和紙を破く程度の攻撃力はある。
「ごめんごめん。あとで直してあげるから」
「まだ一回も使ってねえのに!」
……よくよく考えたら、何故に傘買ったの? 名は体を表すっていう通り、耕雨は晴れの日は畑を耕し、雨の日は私とイチャイチャする生活を送ってる。片手が塞がる傘を使う場面なくない?
「……はっ!」
晴れた日は虚弱な私が動けないから、雨の日に相合傘でお出掛けしたいと、そういうこと!? 嬉しい……!
「ごめんなさい……」
「低木ちゃんが謝ることないよ。適当にぶっ刺した私と、傘立てに傘なんか入れてた耕雨のせいなんだから」
「自分の非を認めるのは良いが、「傘立てに傘なんか入れてた」俺のせい、ってのは暴論だ! 傘立てなんだから傘入れるだろ!」
耕雨が激おこだ……
「そして同じ傘立てに入っているお前の日傘に傷一つないのはどういう訳だ!」
「HAHAHAHAHA……! 私の準特化傾向、桑織特殊型のせいだとでも思ってくれ……!」
耕雨の傘は紙製だから桑織特殊型の能力の適用対象外、私の日傘は布製だから適用対象だと思う。たぶん。
「ごめんなさい……邪魔だからって、鞘を棄てて……そのせいで、耕雨さんの傘……」
「……ん?? 「邪魔だから」鞘を棄てた?」
剣士がそれやっちゃダメでしょ……「小次郎、敗れたリィィイ!」って。いや、治に居ても乱が忘れられない、本能的に乱を好む暴力特化型は、鞘に納めていない状態こそが常だからいいのか?
「あ、そうだ。あの木を斬ってみて」
そう言って、外の桑の木を指す。樹齢は不明だけど、耕雨が完全に隠れるくらい太い。
そういえば、この木を使って、耕雨と「伊邪那美と伊邪那岐ごっこ」をやったこともあったっけ。
それぞれが逆回りに半周して、出会ったところで愛をささやき合って、そのままイチャイチャ……という(〃ノωノ)
「え……いいの? なんか紙垂の付いた注連縄、巻いてあるけど」
「いやダメだろ。御神木だぞ」
「いーんだよ! その神木を含めたこの神社の管理権は、巫女である私にあるんだから!」
「じゃあ、えいっ!」
低木は二刀のうち、片方の太刀を両手で構え、注連縄の少し下あたりに打ち込む。
ほんの少し刃が食い込んだ。
「じゃあ、今度は刀を置いて、斧でやってみて」
二刀を地面に置いた低木に、長柄の斧を手渡す。耕雨の私物。
「斧……? まあいいや。せぃ、やぁあっ!」
斧が数十センチほど食い込んだ。
衝撃はその先にも伝わって、幹が砕け散った。同時に、斧の柄も衝撃に耐えられず折れ、低木の手には折れたことで先が尖った木の棒が残った。
「あ、ヤバ……」
「おい、こっちに……」
「……倒れる?」
桑の木が、社務所の方に向かって倒れてきた……。このままだと潰れる!
!
何かが爆ぜるような音がしたような気がした。
回りくどい言い方だけど、そうとしか表現できない。そんなことを引き起こすものと言えば……。
〈覇気〉。
感情に対して殆ど加工を加えず、ただ放つだけの、最も単純な呪術。
威圧なら少し怯ませる程度から精神破壊、場合によっては呪殺すらもできる。自己活性化なら仙術に匹敵するレベルを大した代償無しで叩き出せる。
こいつの
ただ、呪術特化型にとってはメリット少ないし、出力が不安定だからあんまり使わない。
そうそう、私は呪術を使うときに過剰効果が出ないようにしてます。なんか、目立つし厨二っぽくて恥ずかしい。
過剰効果を消す為のエネルギーと、過剰効果を消すことで削減できるエネルギーで相殺されてプラマイゼロ。いや、派手な過剰効果は気分がアガるから、それがない分マイナスか?
そんなことしなくても呪術が大好きな呪術特化型にとっては関係ないねっ!
……でも、たまーに私の足元に、黒い魔法陣みたいなのが出てるらしいんだよね……。
低木ちゃんは暴力特化型だし、相手は植物なので、覇気の効果は自己活性化の方が強く出てるかな。
さあ、過剰効果は……っ!! めっちゃカッコいい!
イメージは龍。
両腕に蒼っぽい黒鱗をびっしり纏って、籠手のようになってる。
頬にも少し鱗があって、龍神が少女の姿で現れたんじゃないかって思うくらい神々しい。
両手に握る太刀は緋色に輝いて、あの民明書房ばりの信憑性しかない書物に登場する伝説の金属が実在したと思わせるほど。
……って、ん? あの刀どっから出てきた?
いや、地面に置いてあったセーブ鉄の刀がなくなってるから、それであることは確かなんだけど、どう見てもセーブ鉄っぽさが感じられない。
セーブ鉄の力を、覇気で調伏した?
「私はっ! 辰の年辰の日辰の刻に生まれた、……龍神の生まれ変わりだぁああああああぁァアッ!」
あ、このままだと……。
「建材に使いたいから、あんまりバラバラにしないで!」
「え!?」
「坐禅、いい加減にしろよ……」
「低木ちゃんならきっとできる! 適当に枝払って、あとは峰打ちであっちの方にふんわり投げ飛ばして!」
石段の脇、急な傾斜になっている辺りを指さして叫ぶ。
「ッ……! やってやらぁぁあ!」
ベキベキと、石段脇の斜面に生えていたミツマタを圧し折り、太い桑の幹とその枝が、綺麗にばらされて倒れ散らばった。
と、同時に、低木ちゃんが地面に倒れ伏す。
使い慣れていない覇気を、あれだけ高出力で使えばそうなるのも当然。
「耕雨ー! さっきみたいに低木ちゃん運んで、布団敷いて寝かせといて」
「ハイハイ……」
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【呪術特化型】
『ただの呪術好き』呪術師。
呪術に長けているわけではなく、「呪術が好き」という思いによって、呪術の代償を少し軽減、「好きこそものの上手なれ」ということで、間接的に呪術の練度が上がる。
あくまで代償は少し「軽減」されるだけにも拘らず、「呪術が好き」という思いによって他の特化型の数十から数百倍呪術を行使するため、廃人になるものも少なくない。
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黒衣の巫女 ziolin(詩織) @Kuwa-dokudami
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