第11話 陰謀
今目の前に僕の父さんを殺したテロリストがいる。国防総省の一角にある収容施設にて僕はシャンタルを連れて、テロリストへの尋問に参加することにした。父さんを殺した犯人の顔がどうしてもみたかった。
「なんで先帝陛下を殺した?」
ヤーノシュが僕の代わりに尋問を行っている。
「帝国による資本主義的侵略への報復措置だ!」
随分とまあくだらない理由が出てきた。
「なんて愚かな…先帝陛下はメガラ王国に寛大な条件での投資を行っていただけだ。結果的にメガラ王国における内需と雇用を創出した。先帝陛下に侵略の意図などない」
「そういう建前で平等主義者の労働者たちを弾圧しただろう!」
各国における平等主義者への弾圧は話に聞いている。多くは実際にテロを行っているテロリストだ。もちろん無辜の主義者も巻き込まれているからその点ではなんともいえないところがあるが。
「それはメガラ王国の内政問題だ。帝国は関係ない。それよりもだ。お前を手引きしたのは誰だ?お前のような小物にあの厳重な警備を突破することなどできるはずがない。内通者がメガラ政府にいたはずだ」
「……へ!仲間を売るつもりはない!」
「あ、そう」
僕は肩を竦める。信奉するイデオロギーのために尽くす姿には健気ささえ感じる。だがこいつは。父さんを殺したんだ。
「俺たち平等主義者は必ずやいつかこの世界に真の理想郷を…ぐふぅ!」
僕はテロリストの腹を蹴る。これ以上の話は聞いても無駄。あとは暴力で解決するべきだ。
「シャンタル。スプーン持ってきて」
最近の僕はシャンタルを専属メイドとして各省庁へ行くときに連れまわしていた。だって可愛いんだもん。
「スプーンですか?わかりました」
シャンタルは部屋の隅においてあるテロリストの食器トレーからスプーンを取って僕に渡した。
「シャンタル。目を瞑ってな。ここから先は女の子にはちょっときついからね」
僕はテロリストの顎を掴んで、持ち上げる。そしてスプーンを瞼の中に差し込む。
「ぎゃああ!や、やめて!やめてくれぇ!うががっがが!!」
「黙ってろ。手元が狂う。うまくくりぬけなくなるだろうが」
僕はスプーンを奥に差し込んで右の眼球をくりぬく。そしてぶらーんと神経だけで繋がれたまま目玉がテロリストの顔の傍で揺れる。
「うああああ!俺の!おれのめがああああああ!!」
「しかももう一個残ってるんだよね。続きをしようか」
「やめてくれぇ!いう!いうから!内通者がいる!いるんだ!それだけじゃない!ヴァルホル王国だ!あの国のスパイが協力してるんだ!!」
「なに?ヴァルホル?列強の?」
僕とヤーノシュは互いに顔を見合わせた。これはとんでもない情報が出てきた。
「ふーん。列強の陰謀ねぇ。きな臭いな…」
「先帝陛下は国際秩序の安定を気にしておいででした。もしかすると…この先大きな動乱の時代が来るのかもしれません…」
ヤーノシュは青い顔をしている。そりゃ列強が帝国の元首を狙ってきたのだからシャレにならない事態だ。むしろ単独の思想犯なら良かったと僕でさえ思う。
「ヤーノシュ。残って詳細な情報を聞き出しておいて」
「承知いたしました陛下」
僕はシャンタルの方を向いた。
「シャンタル。僕たちは後宮に戻ろう」
「かしこまりました陛下」
シャンタルは涼しい顔をしていた。僕が目の前であんなにも凄惨な暴力をしたというのに。
「ぐろいの苦手じゃないんだ?」
「ええ。まあ。…っあ。その、えーっと。私は平民ですから」
平民だから大丈夫って理屈がよくわからないけど、シャンタルはとくに今の拷問を気にしていないようだ。度胸あるな。感心する。こうでもなきゃ後宮でメイドはできないのだろう。ルドゥーテの人を見る目もたまには当たるようだ。僕とシャンタルは部屋を出手後宮に戻った。
公務の間の休憩時間は後宮で過ごす。シャンタルがお茶を淹れたり、ケーキを切ったりしながら僕の世話をしている。他のメイドさんは僕の両脇に侍って肩を撫でたり太ももを撫でたりしている。
「ねぇねぇルドゥーテ。こういうのは風紀が乱れてると思うんだ」
メイドさんはケーキをあーんと僕の口元に運んでくる。それを僕はぱくっと平らげる。その時さりげなくシャンタルに視線を向けた。軽蔑されていないだろうか?それが心配になった。だけど彼女はにこりと笑っていた。
「むしろこうやって女に慣れていただけないと困りますわ。まだ皇妃候補たちに手を出すどころか顔さえ合わせない始末でしょう。それはお兄様が童貞を拗らせているからです。わたくしはお兄様のためを思って女たちに奉仕させているのですわ」
そういうわりには僕が女の子たちの奉仕に慣れなくて顔を赤くしたり恥ずかしがったりするさまを見てニチャニチャしている。本当にこの妹はいい性格している。
「皇妃候補たちは僕のことを嫌ってるみたいだけどね」
「女のいやいやなんて無視すればよろしいのです。どうせそんなの口先ばかりです。むしろ後宮に来て彼女たちは下のお口が乾く暇もないくらいに発情してますわ」
「えぐい。下ネタがえぐい。発情って…」
「女も男と同じです。性欲をいつも持て余しております。ただ男とはその形が違うだけですわ。彼女たちは理性ではここに来ることを否定しても、体はこことお兄様を求めてやまないのです。今彼女たちはその熱に混乱しているのでしょう。ツンデレですよツンデレ」
「ツンデレってそういう概念だっけ?でもあんな気の強い女の子たちを扱える気がしないんだけど」
僕がそういうとルドゥーテは立ち上がって僕の傍に寄ってくる。メイドたちはそれを見て僕の傍から離れる。そしてルドゥーテは僕の隣に座って耳元に唇を近づけて囁く。
「どんな女も攻略できる方法を教えて差し上げますわ」
「胡散臭いなぁ。そんなのあったら非モテ童貞はこの世にいないんだけど」
「このかわいい妹の言葉ですよ。信じてくださいな。女はね待っているんです」
「待っている?」
「ええ。支配されることを」
「…それってモラハラ束縛系になれってこと?いやなんだけど」
「違いますわ。女たちは支配されることを望んでいるのです。自分という持て余す衝動を飼い慣らしてくれる男をいつも夢見ています。お兄様。女は自分の
「なにそれ?自分が望むものなら自分の意思でやればいいじゃん」
「そうではないのです。お兄様。女は自分が望むことを強い男に強制されてやりたい矛盾した生き物なのですわ。女は女を持て余しているのです。だから男が必要なのです。お兄様ならばそういう男にいくらでもなれますわ」
そう言ってルドゥーテは立ち上がり元の席に戻る。僕はシャンタルの方を見る。ルドゥーテが言うことが事実ならこの子もそうなのだろうか?僕に何かを命じられるのを待っているのか?だけどその考えを僕は否定したかった。人は自由な意思でいきるべきだろう。僕はそう信じたい。
帝都の闇は何処までも深い。歓楽街の一角にあるクラブのvipルームに華美なドレスを纏った一人の金髪赤目の美しい女がいた。女はガラス越しに見えるダンスルームで踊り狂う若者たちを睥睨していた。
「愚か者たちが今日も刹那を生きている。間抜けな平民たち、卑しい亜人たち。みな刹那の。この一時のことしか考えられない愚か者たちばかり」
女は手に持ったシャンパンのグラスを優雅に飲み干す。そしてグラスから手を放す。落ちて割れたガラスを近くにいる奴隷の女たちが手で拾って片づけていく。
「わかるかしら?こうして天に立つ者が下々の者たちへ仕事を落してあげ、下々の者たちは天に住まう者たちへ奉仕する。これがこの世の摂理」
女は背中の方へ振り向く。赤い瞳の先にはメイド服を着た女が一人いた。
「私はあなたに仕事を下した。あなたはその仕事を果たした?」
「計画は順調です。ターゲットの関心を得ました。ですが警戒が強く手…」
「だから床入りはまだ」
「…はい」
赤い瞳の女はセンスで口元を隠して目を細める。
「あなたの仕事はわかっているな?」
「皇帝陛下の暗殺です」
「陛下?あの偽物を陛下と言ったか?!」
赤い瞳の女はヒールの音を高鳴らせてメイドの女に近づきその頬を張った。
「あの男は私の弟を殺した罪人!それを陛下などと!恥を知れ!」
メイドの女は頬を抑えて蹲る。そして恐ろし気な目で赤い瞳の女を見上げる。
「亜人のお前にも弟はいるのだろう。なら私の気持ちは察せられるだろう?この身を焼くほどの憎しみが!ああ、私たちきょうだいは仲良く穏やかに偉大なる父上の下で平和に暮らしていたのに!あんな混ざり物のできそこないが!私の弟を殺した!!殺した!殺されたぁ!!」
赤い瞳の女は金髪を搔きむしって悶える。そこには深い憎しみがあった。
「早くあの男を殺せ。でなければお前の弟を私が殺す。あの男の様に殺す」
「それだけは!それだけはご勘弁を!!必ず!必ず!任務は果たします!だから弟は!弟だけは!」
「そう。だったら励みなさい。あの男の寵愛を勝ち取り、必ず殺すのです」
「はい。承知いたしました。ユディト殿下」
夜はまだ明けない。
迫害されてた皇子が皇帝になって後宮ハーレムで世界征服するお話 園業公起 @muteki_succubus
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