第40話 各々の考えと生活環境

 学園の修復作業を眺めながら、僕はぶっきらぼうに呟く。


 「まじかよ」


 魔王軍による突然の襲撃。だけど死亡者はゼロ。

 その背景には悪の組織と謳っていたヤベーゾの活躍があったと報道された。

 ヤベーゾに対する関心が広まる中、魔王軍相手にも戦った魔法少女の株も大きく上げた。


 だが、そんな粗末な問題は僕には関係ない。

 あるのは学祭の中止だ。


 「建物の半壊⋯⋯か」


 「はい。何でも学内がボロボロになっていたそうです」


 「それで危険のため中止、か。魔王軍め」


 「全くですね」


 サシャの紅茶を飲みながら、文化祭を中止に追い込んだ魔王軍に恨み言を呟く。

 新聞ではヤベーゾが建物の過半数を破壊したと書いてあるが間違いだろう。

 無駄な争いは避けるように言っているし、ファウスト達なら綺麗に立ち回っているはずだ。


 魔法少女に関しては新たな合体技まで生み出したらしい。

 見たかった。


 「それでサシャ。学園に潜り込んでるスパイは誰だ?」


 ここから少し真面目な話。

 突然現れた魔王軍は転送装置が原因だ。

 我が家の技術がベースとなっている道具を悪用されたのだ。

 個人的に気分が悪い。


 ただでさえ、敵を倒し花火が上がり歓声に包まれる最高のシチュエーションの計画を潰されてイライラしていると言うのに。


 「はい。マナの痕跡から追跡中です。ルーペも学内に侵入して転送装置を回収及び調査しておりますので時期に分かります」


 「そうか了解した。しばらく学園も休みだし、どうしようかな」


 「その事ですが、全生徒にこんなのが配布されています」


 それは他国の大きな学園で生徒を迎え入れる話だった。

 学園の復旧が終わるまでの間、そこで学ぶらしい。


 「一時的な新しい舞台か。悪くない」


 「はい」


 サシャも嬉しそうなので良かった良かった。

 今回の計画は魔王軍に潰されたが次はそうはいかない。

 魔王軍を見かけたら2秒以内に倒すと心の中で決めた。


 魔法少女を輝かせる舞台に水を差したのだ。

 重罪を犯した事を後悔させてやろう。


 「それとルーシャ様」


 「ん? 何かある?」


 「実は第2王女であるファヴィリアがヤベーゾの創設者アーク様をお探しであると言う情報を掴みました」


 「ほう」


 またなんで?

 って言うかどちら様?


 「消しますか?」


 「消さないけど」


 サシャが殺意を剥き出しにしている。不思議だ。

 第2王女って事は一個下だったと思う。

 接点は社交パーティで遠巻きで見た事がある程度⋯⋯それは貴族の仮面を被った今の僕だしな。


 「どうしてだ?」


 「文化祭でピンチの所に颯爽と現れた命を救われたからお礼をしたい⋯⋯と言っているようです。消しますか?」


 「消さないけど。⋯⋯って事はあの子か。別にお礼は要らないんだけどな」


 そう言ったのに通じてないのか。

 ま、無視で良いか。


 ⋯⋯いや。違うな。

 悪の組織ならそうじゃないよな。


 「なぁ


 僕は敢えて怪人ネームでサシャを呼ぶ。


 「はい。。消しますね」


 「消すな消すな」


 「それでは如何なさいますか?」


 心底不思議そうな顔をするサシャ。まじかよこの女。

 どうしてそこまでして王女様を消したいのか聞くのは怖いのでやめておこう。


 「裏から操る事はできないか?」


 「⋯⋯なるほど。国を裏から支配する⋯⋯と言う事ですね」


 まぁそこまで大きな事は考えていない。

 ただ、裏から王族の一人と関係を持つって何か悪の組織っぽいなって。

 何かかっこよくない? 良いよね!

 つまりはそう言う事だ。


 「まあ、そんなところだ」


 「かしこまりました」


 「期待しているぞ、サイン」


 「おまかせあれ。アーク様」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「文化祭⋯⋯楽しみたかったな」


 「そうね」


 「わん!」


 ルーちゃんと一緒に学園が修復される光景を眺めている。

 防衛用の魔法具も使われていたらしく、その辺の修復やらなんやらでお金や時間がかなりかかるらしい。

 一瞬でバッと解決はしない。魔法とて万能では無い。


 「結局、スパイと思われる人には逃げられちゃった。魔法少女として、情けない」


 「同感ね。何でもヤベーゾも魔王軍退治に尽力したらしいわ。何を考えているのかしら」


 「分かんない。でも良くない事だよね」


 あの組織が何を考えているか分からない。

 きっと悪い事を考えている。

 でも、助けられた命があるのは事実だ。そこは感謝する。


 私はおもむろに空に手を伸ばす。


 「学園は助けられる範囲だった。でも、力不足で護りきれなかった」


 「アナ」


 「私、悔しいよ。誰かを護れる力を持ったのに。全然護れなかった。凄く、悔しい」


 涙を流す私をルーちゃんが優しく抱擁してくれる。

 安心させるように、背中をポンポンと一定の感覚で叩く。


 「ワタクシも同じよ。悔しいわ。だから、この悔しさをバネにより一層、強くなりましょう。セーギ様があっと驚くように」


 「うん。絶対にっ!」


 強くなって。こんな大きな被害は出さないようにしてみせる。

 私は魔法少女ジャベリン。


 強きを挫き、弱きを護る魔法少女だ。


 「強くなって。全ての害悪から護ってみせる」


 私の奥底で燃え上がる何かを、密かに感じていた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「クソっ!」


 俺は、なんて無力なんだ!


 努力しているつもりでしか無かったのか? 俺の今までの日々は無駄だったのか?

 いくら考えても答えは出ない。

 だと言うのに、剣を振ろうとすれば圧倒的に敗北したサイン戦を思い出す。


 「クソクソ!」


 怖い。

 もしもサインがその気だったら俺に命は無かった。

 どれだけ踏ん張っても勝てる気がしなかった。

 あんな化け物がこの国には潜んでいる。


 国はまだ、この重大さを理解していない。

 大量の強力な魔王軍が不意打ちで攻めて来たのに死者がゼロ⋯⋯それがまずおかしいんだ。

 国の騎士達が総動員してもこうはならない。


 それを可能にしたヤベーゾ。

 もはや魔王軍よりも脅威と見るべきか。


 「だからこそ⋯⋯余計に恐ろしい」


 俺はまた、剣が握れるのか?

 この、震える手で。


 「行けますよ。ルベリオン様」


 「⋯⋯へ?」


 いつの間にか俺の目の前に黒い翼を生やした、車椅子に乗った両腕が無い女性がいた。


 「我が名はカナエル。魔王軍の四天の一柱にして武天の名を授かりし者。武の高みを目指すと申すのなら、力を与えましょう」


 彼女の周りにぷかぷか浮かぶ複数の剣。その数は軽く十は超える。異常な数。

 念動力の高さを物語っていた。


 俺は魔族が目の前にいるにもかかわらず、その言葉に、天使のような美しい微笑みに⋯⋯魅力されていた。

 渡された黒く禍々しい剣を⋯⋯手に取った。

 何かを、考える余地すら無く。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「まさか風邪で休んだ文化祭で事件が起こるとは思ってもみなかったわ」


 このアメリア一生の不覚⋯⋯なんて、言わないわよ。

 学園中に仕掛けていた監視カメラ魔法具。

 隠密性に特化させたから画質は荒いし音も拾えない。

 魔王軍の襲撃で半分近くデータは失った。


 「でも⋯⋯分かった。魔法少女の正体を掴んだわ!」


 不自然に姿を消した二人の少女。

 間違いないでしょう。


 「くふふ。それにしても愚かな。まさか連れている精霊に認識阻害を怠るとわ。おかげで確信が持てましたわ」


 魔法少女の正体が分かったら密かに近づき、関係を構築する。

 徹底的に炙り出して利用してやる。


 全てはこの国のトップになるために。


 「文化祭で尻尾を掴めるとは思っていたけど、ここまで早く成果が出ると笑いが止まりませんわね! ありがとう魔王軍!」


 一人で部屋で踊っていると、妹のファヴィリアが入って来た。

 興醒めだ。


 「どうしたの?」


 「あの、お姉様」


 「うん。何かなファビー?」


 「えと、や、ヤベーゾのアーク様についてどれくらいご存知ですか!」


 「創設者ってくらいしか知らないわよ。ニュースを見たら分かるでしょ?」


 めんどくさい。作戦を練りたい。早く出てけ。


 「いいえ。お姉様は内密に両組織を追っているので何か知っているはずです!」


 「うっ」


 この妹相変わらず勘が鋭い。

 有力な貴族は時期国王候補にファヴィリアを推す訳だわ。

 さすがは一番の強敵。


 ま、本人にそのつもりがないからあまり敵視してないけど。

 お兄様とかの方が危険だわ。


 さて、この妹を追い出す方法を考えなくては。


 「申し訳ないけど本当に知らないわ。あまり外には出ないもの」


 「お姉様なら文化祭に向けて学園中に独自の監視用魔法具を準備しているはずです。学内の監視カメラは魔王軍のスパイの手によって全滅ですので。何か掴んでますよね!」


 「えっと⋯⋯そんな証拠は⋯⋯」


 「お姉様は詰めが甘いのでこちらで処理しましたが、他国から怪しげな輸入記録が残っていましたよ」


 「そんな馬鹿な!」


 「ええ嘘です。カマをかけました」


 この妹、笑顔でハメてきやがる。

 諦めよう。

 それに彼女は敵でも味方でもない。王族として生きる事に悦びを感じるただの変態だ。

 だからこそ、こっちが独自で画策しても何もしてこないのだ。


 「残念ながら、潰されていたわ。だからそっちに関しては一切の情報は無いわね。ニュースに出てたスキンヘッドのムキムキボディのセカンドさ⋯⋯セカンドの見た目くらいね」


 「そうですか。分かりました」


 本気でガッカリしている妹。


 「もしかして、そのアークってのに惚れたの?」


 「そ、そんな訳無いじゃないですか〜ヤダな。それでは失礼します!」


 顔を真っ赤に染めて慌てて逃げてった。

 図星ね。


 「ファビー。女としての魅力ではサインに勝てないと思うのよお姉ちゃん。アークが幼女好きの変態である事を期待していなさい」


 あ、その場合ファウストってのがいたような。

 妹の恋は叶わないわね。


 「さて、計画を練るとしましょうか」


 魔法少女を取り込む計画と、セカンド様を婿に迎える計画を!


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「全軍に告ぐ」


 魔王は魔王軍の魔族全員に向けてある一言を向ける。


 「最重要排除対象にヤベーゾを定めた。奴らは我らの最大の難敵だ」


 魔王軍はヤベーゾを滅ぼすべく、舵を切った。

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異世界転生したオタク、本気で鬱展開無しの魔法少女を育てる〜悪の組織と魔法少女達を束ねたら、魔王軍の戦力を超えてました〜 ネリムZ @NerimuZ

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