尻軽サイコパスに好かれたのだが、普通に可愛くてシスコン卒業しそう。助けて

ネリムZ

君で色付く世界がある、君でしか色付かない世界がある

 私は性行為が大好きだ。男が好きな訳では無い。

 いつからかだろうか。コレが好きになったのは。


 それは暑い夏だったような、寒い冬だったような⋯⋯酷く曖昧だ。

 ただ、小学生の頃に実の父親に無理やり犯された時から私は好きになった。


 気持ちいいとか、私の身体で喜んでいる姿が好きとか、興奮するとかでは無い。

 密着し、繋がっている時⋯⋯視えるのだ。

 相手の肉が、内蔵が、骨が。


 素晴らしい。美しい。神々しい。見惚れてしまう。うっとりしてしまう。

 私はその中身を見るのが好きだ。だから繋がるのだ。


 そんな事を続けていれば無駄な技術は増えて行く。

 それで私は繋がれて中身が視えるなら構わないがね。


 「あーあ。いずれは同性ともセッ〇スしたいな」


 女の中身はどんな風に視えるんだろうか。

 視えるなら実の母でも実の妹でも姉でも構わない。


 そんな私も大学生。医大に入って絶賛告白されている。

 ああ、愛の告白では無いのは理解して欲しい。

 中で10万、口だけなら3万、ゴムありなら5万って事で私はやっている。大学中にも広まっているはずだ。


 「あ、あの⋯⋯ぼ、僕と⋯⋯してくれませんか?」


 後ろの木陰に男らしき姿が見える。罰ゲームか何かだろう。

 だけど目の前の男とはした事が無い。


 「良いよ」


 だから私は受け入れた。

 彼の中身も視たいから。


 「⋯⋯えええええ? う、嘘?」


 「嘘じゃない嘘じゃない。あ、知っていると思うけどきちんとお金は貰うからね。バイトよりも効率良くて助かるよ⋯⋯ホテル代は出してね。家でやると姉妹にブチギレられるから」


 「えっと⋯⋯は、はい」


 どこか残念そうな、悲しそうな声だった気がする。

 でも私には気にする事では無いだろう。


 今晩が楽しみの私の心を冷ますように雨が降り出した。

 今は秋で心地良い気温。朝から曇りだったようだ。


 「⋯⋯今日の空は何色かな」


 私の世界は中身を視る時以外全て灰色だ。

 退屈な灰色。何も変わらない世界。

 そこに一人、嘲り笑うように微笑む私がいる。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 僕、神楽琳寧かぐらりんねは友達との格ゲーで負けて罰ゲームを受けている。

 内容はうちの大学で金さえ払えば誰とでも寝てくれる女にヤラせて欲しいと頼むと言う事。


 やっておいてなんだが、最低だと思う。

 僕は断って欲しいと思っていたのに⋯⋯童〇の僕でもOKされた。


 その相手の名前は荒神凪沙こうじんなぎさである。

 大学1の美少女である。

 成績優秀、才色兼備、文武両道、眉目秀麗⋯⋯彼女を表す言葉はいくつでも見つかるだろう。

 時には可愛く、時にはクールな彼女。


 但し、彼氏の噂はゼロで一度した相手とは二度としないと言う噂もある。

 シングルマザーの家庭、小学生の時からこんな事をしている、⋯⋯沢山の噂がある。


 「貴様らどうしてくれるんだ! 山崎、山本! 僕はお前達を憎む!」


 「い、良いじゃんか。ミスコン1位の荒神さんとヤレるんだぜ?」


 「卒業おめでとう!」


 「ふざけるな! 金取られるんだぞ! しかもホテル代まで! 寄越せ! 寄付しろ!」


 「「断る!」」


 「僕のバイト代があああ!」


 断る勇気と時間も無く、ホテルまで来てしまった。

 最悪だ。どうしてこうなった。


 僕が悪いのか。

 うん。ここは土下座して帰ろう。


 「身体って洗った方が良い? そのままベッド? 君初めてだよね。好みがあるなら言ってくれると助かるんだけど」


 「えっと⋯⋯その、ですね」


 「あ、緊張してる? 大丈夫だよ。優しくするしリラックスして」


 正面からぎゅと抱きしめ、柔らかい手で優しく息子を撫でる。


 「⋯⋯ガチガチに緊張してるね。一切反応しないや」


 「あの、ごめんなさい。お金は払います。なので⋯⋯外で友達が見張ってると思うので⋯⋯時間を置いてから、で、出ましょう」


 「なんで?」


 不思議そうに顔を傾ける。

 大きく柔らかいメロンを押し付けながら。


 「ぼ、僕は⋯⋯したくないからです。ただの罰ゲームなんです。ごめんなさい。最低なのは分かっています。だけど⋯⋯」


 彼女を押し離してから土下座した。

 コレで収まるはずだ。

 きっと彼女はお金が欲しいだけだ。だから目的さえ果たせば⋯⋯。


 「⋯⋯大丈夫だよ。私、好きなんだよ。するの。何も分からないなら横になってくれているだけで良い。私、上手だよ。1人で寂しく動画見ながらするよりも気持ちいいよ」


 「僕動画見ません」


 「あ、漫画派?」


 「読みません」


 「そっか。まあ良いや。ほら、横になって」


 かなり強い力で強引にベッドに押し倒される。

 長い銀色の前髪が僕の頬を撫で、なぞるように視線を動かすと目が合う。

 僕と目が合っているようで合っていない。


 「大丈夫だよ。すぐに、元気にしてあげる」


 彼女の吐息が近くなる。唇が重なる距離まで近づく。


 僕のファーストキスが旅立って行く。


 認識した瞬間、僕の頭の中で何かが切れた。


 「チィ。止めろつったろ」


 「え⋯⋯うぐっ」


 僕は彼女の首を鷲掴みにして、強く握っていた。

 グギギっと鈍い音がして、ヨダレが垂れて来る。


 「僕止めろって言ったよね。したくないって、言ったよね?」


 「⋯⋯ふぇ?」


 ギロッと睨むと⋯⋯恍惚とした彼女と

 サファイアの様な輝く蒼い瞳に反射する僕の顔は殺意増し増しだ。


 地面に投げ飛ばすように振り払った。

 地面に転がる彼女は空気が戻ったのか、ゴホゴホっと咳き込んだ後に揺らりと立ち上がった。


 「君はSじゃないね」


 「あぁ?」


 「私の相手をした男の中にSの人がいてね。暴力を受けた事があるんだ。その時はMを演じるよ。その逆もある」


 「何が言いたい?」


 荒神はダダダとかなりの速度で近づき、僕の両肩を掴んだ。

 そして⋯⋯ドス黒い歪んだ瞳を向けて、はぁはぁと白い息を出しながら捲し立てる。


 「初めてだよ。こんなの初めて。私を本気で拒絶したの初めて! 私で反応しなかった人初めて!」


 「同性愛者とか⋯⋯そんな人はどこらでもいるだろ」


 「そうかもね。でも私は初めて会ったよ。自分から誘っておいて」


 それは悪いと思ってます。


 「ねぇ! 殺して!」


 「は?」


 荒神は僕の手を持って、自分の首に押し当てた。


 「さっきの気持ちを込めてもっと強く絞めて! 一瞬ね。一瞬だけね! 世界が色鮮やかに見れたの。凄く凄く綺麗な色だった! お願い殺して。きっとその瞬間が一番綺麗な色が見れる! ねぇお願い、殺して」


 嘘や冗談ならどれ程良かっただろうか。

 彼女の目からは一挙手一投足からは『本気』しか感じ取れなかった。


 僕は慌てて手を払って、距離を取った。

 心の奥底から感じる恐怖心にチビりそうだった。


 「嫌だ。僕は殺人者になりたくない!」


 「一生のお願い!」


 「嫌だ!」


 「私の身体を好きにして良いから! 何なら子供を孕んであげても良い!」


 「キモさが極まってるなお前! 絶対に嫌だ!」


 「⋯⋯そう。じゃあ冷静に話そうか」


 いきなり冷静になられると逆に混乱するのだが?


 僕達はベッドで隣り合わせで座る。

 当然距離は取った。


 「それで⋯⋯君はどうしてこんな事を?」


 「後で話すから⋯⋯まずは聞かせて。どうして私をそこまで拒絶する⋯⋯もしかしてゲイ?」


 「違う」


 「じゃあなんで?」


 「ふっ。聞いて驚くなよ?」


 僕は立ち上がり、スマホのホーム画面を見せつける。

 この画面に映る天使に彼女の狂った思考も治るだろう。


 「僕はこのマイエンジェルに全てを捧げると決めているからだよ! 財力も努力も全てね!」


 「誰、この女? リアルガール?」


 「もちろんリアル。何なら同じ家に住んでいる」


 「若そうだね」


 「絶賛JKの1年生を謳歌している」


 「妹さん?」


 「血の繋がりのある正真正銘の実妹だ。可愛いかろう?」


 「そうだね。一体どんな中身なんだろう。私もヤリたいなぁ」


 眼差しが危ないソレだったのでスマホをスっとポッケにしまう。

 名残惜しそうにスマホの方を見るので、話を変える事にした。


 「それでなぜ、君はこんな事を?」


 「⋯⋯死んでみたくなったから?」


 「きっも。死ぬなら自殺でもなんでもしろ。僕の関与しないところでね」


 「分かった。身の上話聞いてみる?」


 「聞いてみる」


 彼女が狂った理由を知りたいと思った。

 彼女は包み隠さず教えてくれた。

 反吐の出る、思い出話を。


 小学生の頃から発育の良かった荒神は実の父にレ〇プされたらしい。

 その時に実父の内蔵やら骨やらの幻覚が視え、それが幻想的に見えたらしい。

 荒神は繋がっている時に見える『中身』に心が囚われてしまった。


 生まれた時から灰色だった世界。人の区別も難しい世界。

 唯一色鮮やかに見えたのが繋がっている時に見えた『中身』だけ。

 色の視える感覚が堪らなく気持ち良く快感だったから、色んな男と寝る事にした。


 お金稼ぎはついでらしい。バイトの時間を勉強に当てるため。

 荒神が目指しているのは医者。理由はリアルの内蔵が見たいから。

 触れたい弄りたい、と言う欲求が突き動かすらしい。


 「性行為は特に何も感じないんだ。痛いも気持ちいいも。ただ相手を喜ばす事はできる。猫なで声で艶めかしく囁けば良いし、それらしい行動をすれば終わる⋯⋯早い人は困るけどね。すぐに終わっちゃって中身が視えないもん」


 「ふーん」


 「私って普通じゃないんだろうね。殺されかけた時、世界が鮮やかに染まった時⋯⋯もう一度見たいと思ったんだから。そのためなら死んでも良いって!」


 「そっか。まぁ、お前の思う普通がどうかは知らんが、普通じゃないと決めつけるのは他人だぞ」


 「君から見て私は普通?」


 「個人的感想を言えば僕から見たら変態で狂人のサイコパスだな」


 「でしょ?」


 世間一般から見て普通じゃないなら僕にも当てはまる。

 性的恋愛対象として妹を見ているんだから。


 「殺して欲しいとほざいた理由とかは分かった。同じ男としない理由は?」


 「私って記憶力が無駄に良いの。だから一度覚えた中身に興味が持てない。それだけ。両穴の初めてを実父に奪われた時の感触も思い出せるよ。聞きたい?」


 「聞きたくない。帰ろうか。もう良い時間だし」


 「そだね。明日には私、死んでるかもね」


 「どうでも良いな」


 「あははは。そっか」


 今のところで笑う要素が分かった人いたら教えて。まじで。


 大学1の尻軽美少女の狂人的姿を見た僕は、二度と彼女と会う事は無かった。


 ⋯⋯と言う事は無かった。

 翌日の大学でしっかりと出会った。


 腕には真っ赤に染まった包帯を巻き、首には縄で締め付けられた痕が痛々しく残っている。

 死ねなかったのかな?


 「ねぇねぇ」


 「な、なんですか?」


 友達2人は僕達から距離を取った。

 あいつら本当に友達か?


 「私⋯⋯死ねなかった」


 「そ、そうですか。ど、ドンマイ?」


 「死ぬのが嫌だった。躊躇ったんだよ?」


 「それは意外だ」


 そ、それが普通ですよ。


 ⋯⋯建前と本音が逆になった。


 急いで口を塞いだが時既に遅し、ニヤニヤといたずらっ子の様な笑みを浮かべている。


 「だよね。私もそう思う。色んな死な方を試してもね灰色のままだったんだ。結局家族に止められちゃったの」


 「そうですか」


 「それで気づいたんだ。君じゃないときっとダメなんだって。君が殺してくれる時が一番色鮮やかに視える⋯⋯だからお願い。私を殺して」


 「嫌ですよ」


 「どうしても?」


 「どうしても。もしかしたら自殺では無く、殺意を向けられた時に殺されかけるのが条件かもしれませんね」


 「そっかぁ」


 隣に座って弁当を広げ食べ始めやがった。コイツヤバすぎだろ。

 しかも何やら真剣に考えている。


 「殺意を持たれて殺される⋯⋯相手の家族を無惨に殺して煽れば⋯⋯殺してくれるかな?」


 「どうだろうな。もしかしたら保険金が入った上に邪魔者が居なくなってバンザーイ⋯⋯かもしれない」


 「なるほど。選定は難しいね。やっぱり君が殺るのが手っ取り早いよな?」


 この子はどこまで僕を殺人者にしたいんだろうか?


 この日から僕の生活は変わって行く。

 大学1の美少女である荒神に付き纏われる日々が始まったからだ。

 付き合っている噂すら流れ始める程には長い付き合いになる。


 殺して欲しいとお願いされては断る日々が1ヶ月続いた。

 変態狂人に取り憑かれている事実さえ除けば、妹の次には可愛いと思える相手に付き纏われているのは悪い気分では無い。


 結局前者の部分で圧倒的マイナスなんだけどさ。


 「ねぇね。琳寧琳寧。コレ見てよ」


 「うわキモ何これ?」


 「カラスが捨て猫を貪り食っている動画。今日たまたま家の近くであってね。家の中から撮影したの。綺麗じゃない?」


 目を輝かせて恐ろしい事を言う。


 「グロいしキモいし。僕猫の方が好きだから正直辛い」


 「⋯⋯そう?」


 不思議そうな顔をした後に動画を削除した。

 あんな動画を楽しそうに見た後に、肉巻きを食べる。


 「⋯⋯消さなくても良かったのに」


 「琳寧辛いんでしょ? じゃあ要らない」


 「なんでだよ。荒神さんの考えている事、1ヶ月の付き合いでも分からん」


 「えー私琳寧言ってるのに荒神さんってまだ言うのー。凪沙で良いよ。な、ぎ、さ!」


 「僕はあまり君と関わり合いたくと考えているので」


 「えぇ〜。もっと構えよ〜ついでに首を全力で殺意を込めて握って〜」


 あーヤダヤダ。

 この自殺願望をどうしたら引き剥せるのか気になるところだ。


 2人で昼食を食べていると、女性が一人やって来た。

 もしかして荒神とヤリに来た奇特な女かもしれない。僕は離れようかと考えた。

 しかし、考えているうちに2人の会話は始まって離れるタイミングを失った。


 「ねぇねぇ荒神さん。神崎くんの情報知ってるってほんと?」


 「ほんとだよ。好きなタイプから生年月日。どんな体位が好みなのかもね」


 「お願い。教えて!」


 「良いよ〜ついでにメアドもいる? ⋯⋯あ、メアドは消してたから分からないや。ごめんね」


 「いやいや。全然、情報くれるだけで嬉しいから!」


 色々と大学でも有名なイケメンくんの情報を聞き出して離れて行った。


 「何あれ」


 「知りたい?」


 教えたそうにニヤニヤとしている。

 なので僕は。


 「別に」


 と、本当は興味津々なのに素直には言わなかった。

 荒神は拗ねたようにそっぽを向いた。

 そして語り出す。


 「女達との関係を良好に築きたい私はヤリながら相手の情報を聞き出しそれを流しているのですよ。コレが私の処世術って奴」


 「つまりは学内有名イケメンくんも君の身体目当てに来た訳か。素直に感心するわ」


 「えー嫉妬ー? 独占したい? 殺してでも一緒にいたい?」


 「今のどこに嫉妬心を感じたのか教えて欲しいね」


 「全部⋯⋯えっと神崎だっけ? 確かソイツは普通に告って来たよ。だから、ヤッて気に入ったら付き合ってあげるって言ったの」


 「結果が今か。可哀想」


 鬱になっても仕方ないと思うよ僕は。

 ん?

 でも先な女と一発ヤレた事を考えればむしろ幸せなのか?


 「金⋯⋯どうしたの?」


 「そりゃあ優遇できないし前例作ったら次からもそうなりそうじゃん? だから10万貰ったよ」


 「やべぇ。同情できる余地が無くなった」


 僕はイケメンくんの知りたくない情報を手に入れてしまった。


 時は冬。

 寒い日が続いている。


 「寒いね〜」


 「厚着してない癖に良く言うよ」


 年中私服が代わり映えしない荒神。

 理由を聞いてみると、「色が分からないからオシャレしてもつまらない」との事でした。


 「⋯⋯普段とは違う荒神も見たいな」


 「えっ! 何か言った?」


 「え? 何も言ってないぞ。寒いなら僕のコート貸すよ。1時間200円で」


 「⋯⋯じゃあ4800円払うね」


 「ごめん24時間はやめて。せめて校舎までにしてください。温情を、温情をください」


 「仕方ないな〜。このわがままさんめ」


 冷たい手で鼻先をツンっとされた。

 体温がかなり低い⋯⋯大丈夫なのだろうか?

 って、なんで僕がこんな奴の心配をしているのだろうか?


 翌日、普段とは違う格好をしている荒神が姿を現した。

 しかも手袋やマフラー⋯⋯防寒着を使っている。


 「どんな心の変化があった?」


 「たまたま天啓が降りた。それだけ⋯⋯でさ。琳寧は今の私どう見える? 私じゃいまいち分かんなくてさ。母親に協力して貰ったんだ」


 「ほう。どう見えるか⋯⋯マイエンジェルの次には目の保養になりそうな可愛さがある」


 「⋯⋯それ、褒めてる?」


 「最大限の褒め言葉だ」


 付け加えるなら今までの変わらない評価だ。


 最近、大学では僕達の関係が本当に恋人なのでは無いかと囁かれている。

 眉唾物の噂だと言うのに、何故か信じている人が多い。

 元友人の山崎と山本もその中のメンバーだった。


 「で、どこまでやったんだよ!」


 「って、出会った時にやってるからな。それ以上の進展は無いって!」


 「それもそっか!」


 「おーい。お前らだけで自己完結するなー。僕らは付き合ってない。何なら手を繋いだ事すらない」


 「嘘つけ! 毎回毎回昼一緒じゃねぇか!」


 「登下校も一緒! ラブラブイチャイチャしやがって!」


 「お前らが誘ってくれずに僕を見捨ててるからだろ⋯⋯」


 「「⋯⋯」」


 私怨を込めて吐き捨てると、反論できなくなる。

 僕は好きでアタオかの荒神と一緒にいる訳では無い。

 変な勘違いはしないで欲しいね。


 「琳寧〜」


 「なんだよ」


 後ろからむぎゅーっと胸を押し当てながら抱き着いて来る元凶女。


 「今日カラオケ行こー。昨日教えて貰ったアニメの挿入歌覚えたから。高得点出せるよ〜。良い歌よね〜」


 「はん。教えた曲は超難関だ。簡単に高得点出せると思うなよ! そのために教えたんだからな!」


 「あははは。相変わらず性格悪いな〜」


 「だってお前。初めて歌ったアニソンで僕よりも高得点出すもん」


 「それは、君が、下手なだけ。手取り足取り教えてあげようか?」


 頬をツンツンしながら、耳元で囁いて来る。


 「歌なのに声が無い?」


 今日の予定が決まりつつ、僕達は昼食を再開した。

 その後は何も言葉を発さないまま、友人達とは別れた。

 

 この関係を見ても付き合っていると勘違いできるのだろうか?

 気になるところだ。


 数日後、僕はとあるイケメンくんに呼び出されていた。

 神崎くん⋯⋯だと思う。


 「まさか男に壁ドンされる日が来るとは夢にも思わなかった」


 「俺も男に壁ドンする日が来るとは考えもしなかった」


 「すみません僕妹一筋なんで⋯⋯ちょっと」


 「勘違いするな!」


 壁ドンしといて勘違いするなは酷い!

 言っちゃ悪いが、荒神と神崎くんどっちと添い寝したいですかって言われたら神崎くんを選ぶぞ!


 閑話休題。


 神崎くんが僕を呼び出した理由を説明してくれる。


 「お前、最近凪沙と仲良いだろ。最近ってか数ヶ月前から」


 「は? 目腐ってんじゃないの? 眼科行けよ」


 「口悪いな」


 「すまん」


 つい本音が出た。許してくれ神崎くん。

 しっかしアレだな。

 僕達ってそんなに仲良く見えるかね?


 取り憑かれた男と取り憑いた女の構図な気がするが。


 「どんな手口を使ったらそこまで進展できる! 頼む。彼女に好意を持ってないなら教えてくれ」


 「お前まだ好きなの?」


 「⋯⋯あ、ああ」


 はにかむ神崎くん。


 彼はまだ未練があるようだ。


 「一発やった相手に未練があるのか」


 「一発じゃない。三発だ!」


 「おまっ! あの女に30万も払ったのか! 金持ちめ!」


 「あの女とはなんだ! 可愛くて美して素晴らしい女性じゃないか!」


 その行為中にお前の中身を妄想して歓喜しているって言う本性を言いたい。言い晒したい。

 しかし、グッと堪えて我慢する。


 これはチャンスだ。

 コイツにアイツを押し付ける!

 戻すぜ。僕のキャンパスライフを!


 「仲介してあげるよ」


 「ほ、本当か!」


 無邪気に喜ぶ彼を見て、僕は心の中がズキっと痛んだ。

 きっと彼への罪悪感だろう。

 そうじゃなきゃ⋯⋯説明がつかん。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 私は南雲と言う男に呼び出されていた。


 「なぁ。最近ずっと神楽って男いるらしいじゃん。なに、お前ら付き合ってんの?」


 「ないね〜」


 付き合っていない。そもそも彼には心に誓った人がいる。

 それでも構わないから私は彼に⋯⋯彼に⋯⋯。


 「最近男遊びしてないって本当か?」


 「ん? そだっけ?」


 「そうそう。数ヶ月前⋯⋯俺を最後に止めたらしいじゃん」


 私が最後に相手をしたのは琳寧⋯⋯って相手してないか。

 って、そうか。そんなに誰とも寝てないんだ。


 南雲は何を勘違いしてか、肉薄して私の顎をクイッと上げた。


 「そんなに俺の良かったか?」


 「は?」


 相手のゴツゴツとした男らしい手が太ももを撫で、スカートの中へと侵入して行く。


 「何だよ。濡れてんじゃん。期待してたのか?」


 「いや。トイレ終わりに誘って来て何言ってんの? 私拭き甘いんだよ。めんどーだから」


 「そうかい」


 うわこれ絶対に嘘って思ってる奴じゃん。

 めんどくさいな。


 コイツの手ってザラザラとして嫌い何だよね。服脱いだら⋯⋯ダメだ中身しか思い出せない。

 琳寧とは大違いだな。


 「俺も溜まってるし⋯⋯お前も溜まってんだろ?」


 口が臭い。それだけ近くに来ていた。

 琳寧の口は気を使っているのかあまり臭くない。

 体臭だって⋯⋯。


 私なんでアイツのことばっかり考えるんだろ。

 ただ、最高の景色を見せて欲しいだけなのに。


 「何なら今ここでしようで。どうせ誰も⋯⋯」


 「止めろ」


 「うぐっ」


 「あ⋯⋯」


 勢い余ってクリーヒットの膝蹴りをしてしまった。

 急所に当たると防御アップの倍率無視攻撃になるから⋯⋯ってそれはゲームの話だな。


 「⋯⋯な、何しやがんだこのアマ!」


 「悪気は無いのよ? ただ気持ち悪くて」


 「何だと!?」


 って、気持ち悪いのは私か? 琳寧に良く言われてるし。


 「それにここ監視カメラに入ってるからね。最悪私まで退学になるの。医者の夢を諦めた訳じゃないんだ。じゃあね」


 「ま、待てや!」


 未だに回復できてない様子だ。ありゃあ当たり所が相当良かったな。

 また元気になれる機能が残る事を祈っておこう。


 「言ったでしょ。私は1度寝た男とは寝ないの。退屈だから」


 「く、クソ!」


 「安心してよ。今でも君の事は思い出せるよ。中学時代にサッカーで骨折して少し歪んだ骨まで⋯⋯」


 「中学の時は帰宅部だっ!」


 「あ、そうなの? 多分君相当記憶に残らないタイプだったんだよ。じゃあね」


 重なって見えた中身は別人のか。

 昔ならそんな間違い無かったのに⋯⋯なんでだろ?

 おかしいな?


 今、実父の中身を思い出そうとしても思い出せない。

 あの時に感じた快感も興奮も思い出せない。

 思い出せるのは⋯⋯身が震える程の恐怖と心を壊す程の絶望。


 「⋯⋯何だそれ」


 ラ〇ンで琳寧に呼び出されたので向かう。初めてあっちから呼び出しを受けた。


 「愛の告白かな? それともプロボーズ? 意味一緒だっけ? ま、どうでもいっか」


 指定された場所に行くと、知らない男も一緒だった。

 私はソイツに指先を向けながら琳寧に問う。


 「お前の彼氏?」


 「違うわ! 僕は妹一筋なの! 知ってるでしょ!」


 「忘れてた。私、都合悪い事忘れやすいの」


 すっかり忘れていた。

 そう言えば琳寧はシスコンだった。

 ⋯⋯なんで忘れてたんだろ? どうして⋯⋯今凄く、胸騒ぎがするんだろう。


 もしも目の前に琳寧の妹がいたら私は⋯⋯どうするんだろう?


 「⋯⋯荒神さん!」


 「あ、はい」


 すっかり目の前の男の存在を忘れていた。

 誰だろうか?


 「お、俺、神崎何だけど。覚えてる?」


 「神崎? あーめっちゃ金くれたボンボン」


 「へ?」


 「あーごめん。こっちの認識だから忘れて」


 「ごほん。えっとね。俺、実はまだ荒神さんの事好きでさ。最近男遊びしないって聞いたし⋯⋯男友達も増えたって」


 「誰が男友達じゃ。誰が。訂正しろよまじで」


 神崎は私に何が言いたいんだろう?

 早く琳寧と帰りたいから要件を伝えて欲しい。


 「その。俺、絶対に好きになって貰う自信があるから。俺と、結婚を前提に付き合って欲しい」


 「大学2年生でそれはクソ重いな。と、僕は口は挟んでません」


 告白か⋯⋯。


 私は無意識に琳寧の方を見ていた。

 哀れな気持ちを表現する視線を頭を下げ手を伸ばす神崎に向けている。


 告白⋯⋯もしも彼の口から出ていたら。

 ⋯⋯って、私は何を考えていんだ。

 違う⋯⋯もう分かっているんだ。


 最近の私は彼に対して『殺して欲しい』とは願ってないし伝えてすらない。

 だってその必要は無いから。


 そうだ。私は気づいていた。分かっていた。忘れていただけだ。

 どうして中身を妄想して喜んでいたのか⋯⋯それはただ、心を守る盾だったんだ。


 「神崎くん。ごめんね。君の気持ちには答えられない。絶対に」


 「⋯⋯ッ! どうして」


 「どうして? 簡単だよ。君といても私は楽しいも嬉しいも感じない。興奮しない。喜べない。退屈な灰色の世界のままなんだ」


 「どう言う、意味」


 「意味か。意味なんて無いよ。ただ。そうただ、私の心の整理ができた。それだけだ。帰ろうぜ琳寧」


 「あ、ちょ良いのかよ?」


 「良いんだよ」


 呆然と立ち尽くしている神崎を放置して私は琳寧を引っ張って人気のない場所に移動した。

 まぁ、その場所はホテルなんだけどね。


 私と琳寧が本音で話し合った場所⋯⋯始まりの場所。


 「なぜここに。なんの嫌がらせだ」


 「嫌がらせじゃないもん。⋯⋯琳寧はさ、さっきの告白でどう思った? 嫉妬した?」


 「⋯⋯は?」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 常日頃コイツの頭はおかしいと思っていたが、今日も一段とおかしかった。

 顔を赤らめながら、さっきの告白に嫉妬したかを聞いて来る。


 アホだろう。

 答えは決まっている。


 「嫉妬なんか⋯⋯なんか⋯⋯」


 なんで、言葉が詰まるんだ。

 嫉妬なんかしていない。する訳無い。そう言えば良いだけなのに。

 どうしてその言葉がでないんだ。


 僕は妹一筋、なのに。

 どうして。


 「嫉妬⋯⋯してくれたんだ」


 「⋯⋯え?」


 朗らかに微笑む荒神は暖かく柔らかい手を僕の頬に伸ばした。

 襲われる⋯⋯押し倒される⋯⋯そんな考えが過ぎったが抵抗しようと身体が動かない。

 そもそも⋯⋯ただ、触れられてるだけだ。


 「私さ気づいたんだ。ようやく、気づいたんだ」


 「何、に?」


 「蓋をしていた感情に。君が気づかしてくれた」


 この先にこの子が何を言おうとしているのか、鈍感じゃない僕はすぐに分かる。

 でも応える事はできない。

 だって僕は⋯⋯僕には⋯⋯。


 「琳寧⋯⋯なんで泣いてるの?」


 「え? あれ? なんで、だろうな。気にせんでくれ。辛い訳じゃない」


 辛くないのになんで泣いてるんだ?

 僕はどうして、泣いているんだ?


 ⋯⋯素直に考えてみよう。

 自分の感情を受け入れてみよう。


 狂ってる、取り憑かれていると言いながらも離れなかった訳。

 僕はもう、答えを持っていた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 初めてだ。こんなの初めて。

 ただ中身が見れていたらそれで良かったはずなのに⋯⋯いつしかそうじゃ無くなった。

 綺麗な景色が見たい。最高の景色を。


 それが死ぬ瞬間に視えると思った。彼に殺される瞬間だと思った。

 でも違う。違うんだ。


 さっき分かった。気づいた。思い出した。

 最高の景色は簡単に視える。見れるんだ。


 「私さ、分かったんだよ。君が⋯⋯君が色付いているって。君の色が鮮明に分かる。それだけじゃない。琳寧と行く場所、遊んだ所、琳寧の好きな物も。教えてくれる度、一緒に遊び歩んむ度。私の世界は色付く」


 それが何を意味しているのか、単純な事だ。


 「琳寧が入れば、私は最高の景色が見れる。琳寧がいないと、最高の景色が見れない。琳寧は特別。全てにおいて特別」


 「荒神⋯⋯」


 「琳寧。私は君が好きだ。この感情は好き以外に表しようが無い。他の男とは絶対に寝ない。ファッションにも気を使うよ。もっと君に、好きになって欲しいから!」


 「凪沙」


 「なーに?」


 「僕も好き⋯⋯かもしれん。はっきり言えんくてごめん」


 「ううん。大丈夫。私は好きで、好きになって貰うから。大好き。私に色のある世界をくれる君が⋯⋯世界で一番大好き!」


 私は人生で初めて、心を込めた、愛を込めた、キスをした。

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