第3話:ようこそ2-4組へ

みんなが集まったぐらいで朝のチャイムが鳴った。

新学期だからだろうか?やけにクラスも静かだ。


新しい担任が入ってくる。


「みなさん、担任となった安部です。一年間よろしくお願いします

 教科は数学、部活動顧問はテニスやっているのでそっちも…」


へえ~数学か…

自慢ではないが、俺は数学と物理の天才である。

物理に至っては、全国模試で全国1桁を取ったこともある。


数学ってだけで、担任とはうまくやっていけそうで安心だ…


「あべっちー!今年もよろしくね~」

「おう…」


どうやら谷本は、1年生の時と同じ担任らしい。

先生をニックネームで呼ぶとか、どこの陽キャだよ…


「ああ、そうだ。

役員とかその他もろもろについては週明けの月曜日に決めるから、

各自考えておくように、特に学級委員長…」


係決めについては、決まっている。

美化委員…一番楽かつ大人数を必要としない、

俺のためにあるような役職だ。


「それじゃあ、離任式と始業式があるから、体育館に集合なー」


担任の言葉が終わると、すぐにみんなは体育館に向かった。


その時、杉山が近くにやってきた。


「まあ、頑張りなよ。離任式…」

「花束渡すだけだし、頑張るもクソもない」


そう、俺は転勤する先生へ花束を渡す役割だったのだ。

お世話になった物理の先生である。


転勤するのは5人くらいだろうか。

何はともあれ、渡すだけである。


静かな体育館での式典というものは、なぜか落ち着く。

こんなにも人がいるのに、誰もしゃべれない雰囲気を出している。


とりあえず、素数を数えて出番に備えておいた。


2,3,5,7...


「続いて、花束贈呈です。代表者の人は前に出てください」


きたきた…

単純計算で5人の生徒が出てくるはずだ。

他の奴は…?


近くの谷本がすくっと腰を上げる。

谷本も代表者だったのかよ。渡す先生は誰だ?


5人が担当の先生の前に並ぶのだが、


谷本は……外国人教師?いわゆるALTってやつか。

もしかしたら、英語が得意なのかもしれないな、


とか腑抜けたことを思っていたら衝撃発言!


Thank you for all your hard work.


マジでネイティブだった。

またまた頭が混乱し、終始落ち着いていられなかった。

俺は、一応お礼の言葉を述べ花束を渡してから、そそくさと戻った。


なんなんだコイツは?いったい何者なんだ?


たくさんの疑問を抱えたまま、そのまま式は終わった。

校長の言葉とかそんなものは、聞くわけがないだろう。

その間、谷本をガン見していたことは、言うまでもない。



教室に帰ると、課題の提出とか事務作業があって、すぐ放課後になった。

俺は、気になりすぎることがありすぎたので、

意を決して直接谷本に聞いてみることにした。


「ええ~と、ごめんなさい谷本さん」


いや、なんで誤ってるんだよ…


「その…英語って得意だったりする?」

「私、帰国子女だから!普通にしゃべれるよ」


なんて属性持ちだ…このままいろんなことをとりあえず聞いてみよう。


「どこにいたの?アメリカ?」

「そうそう、フィラデルフィアってとこ。知ってる?」


いや、みんなが知っている大都市じゃんか。


「なんで、アメリカにいたの?」

「父の仕事場がアメリカにあって、だから家族でアメリカにいたんだ~」

「へえー、お父さんは外資系企業で働いてんだ…」

「違うよ、アメリカで外科医やってた!」


ん?どういうことだ?


「待って、まさかお母さんも…」

「そう、両親とも海外で医者をやってたよ」


え~と、とんでもない奴に出会ってしまった…

田舎でこんなやつ絶対見ないからな。


おっと、こんな場面に遭遇したんだから、

最近見たラブコメのボソッと言ってくれるやつもしてほしい。

このときの俺は、ブレーキが利かなくなっていた。


「なんか、英語でボソッと言える?」

「じゃあ…」


「…………っと分かった?」


いや分かるわけない。早すぎてネイティブでも引くレベルだったぞ。


「なんて言ったんだ?」

「え~な・い・しょ!」


とんでもないゲス野郎だ。


「今から一年間、英語は教えてあげる。

 そしてまた一年後、終業式の日に同じセリフを言ってあげるから

 その時までに聞き取れるように!」

「おおう、分かった…

 お、俺は理系科目が得意だから、良かったら教えるよ」

「ええ~ありがとう!じゃあまたねー」


谷本が教室を出ていこうとする。

俺にはまだやり残したことがある。


「たにもとさん!」

「なあに?」

「ハウ イズ ユアー ラブ ライフ」


意味は、あなたの恋愛事情はどうですか?だ。

とんでもない発音であるし、

ちょっと自分でもよくわからない発言をしていた。


谷本は一瞬固まったが、ちょっと笑ってこう言った。


There is nothing now. Maybe it's up to you lol.

「今、色恋沙汰はないよ。多分君次第かもね笑」


今度ははっきりゆっくり言ってくれた。

からかっているようにしか見えなかったが、

その時の俺は、そんなことなど微塵も思っていない。


その瞬間、ここまで何かか違っていた俺のすべてがついに崩壊した。

体がゾクゾクしてくのを感じた。

初めて恋愛というものに本気で向き合おうと思った。


今なら、何でもできそうだ。

あの谷本里桜、絶対付き合ってみせる!


挑戦心というか怒りというか憧れというか…


今まで集めてきた俺の知識、すべて解放してやる!

見とけ、たにもと~~!


この時の俺はとんでもないやる気に満ち溢れていた。


「まずは付き合うために…」


「そうか、杉山の力を借りよう!

あいつなら強力な味方になってくれるはず」


なんかRPGみたいになってきたな~

正直めちゃくちゃおもしろい。

灰色の人生が一気に虹色になった感じだ。


まずは身だしなみ?

それとも交友関係を増やす?

ありったっけの恋愛工学の知識をついに吐き出すときがきた。


まずは、帰りの電車の中で杉山に相談してみるか…

あと、英語だけは頑張ります(笑)

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履修済み恋愛工学はヒロイン攻略の鍵でした 人生100週目の浪人生 @takemotokousuke

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