第2話:谷本里桜との出会い
改札を抜けると市街地が広がる。
田舎に住んでいるからだろうか、
少しビルがあるだけで胸が高まる。
あと、でっかい交差点とかも…
渡っているとき、俺が世界の中心にいるような錯覚に陥る。
「1年通ったところで、田舎っ子は抜けないかー」
単なる徒歩通学しているだけなのに、ここまで思いを巡らせているとは…
なかなか中二病が進行している。
「あと、二本先の交差点を右か…」
目の前の交差点が赤に変わった。
横を一台の自転車が通り過ぎて行った。
乗っているのは、女子か…
「あーっと!ブレーキブレーキ!」
あわただしい奴もいるもんだなあ。
率直な感想は、こんな感じだ。
「あーもう、急いでいるのに!」
(お前は自転車だから間に合うだろ…)
心の中でツッコミを入れたくなるような奴だ。
っと、よく見たらカイロを落としてるじゃんか。
多分、急ブレーキの反動でポケットから落ちたのだろう。
4月にカイロを持ってくるとかどんな寒がりだよ…
「あの、カイロ落としましたよ…」
なんで言葉が出たのかは分からない。
普段の俺なら、見て見ぬふりをしてやり過ごしていたに違いない。
でもなんか、杉山と会って、今日の俺はいつもと違う気がしていた。
っというよりはまあ、隣の奴に話しかけるよりは、
カイロを拾ったという事実を述べる方が楽だと、本能が訴えたのだろう。
「ありがとうー!」
「どういたしまし
顔を上げた瞬間、俗にいう時が止まるって奴。
あれをこの身で実感した。
(なんだこの美少女は?
洗練された足、ふくよかなバスト、透明な黒髪、なんといっても美人!)
絶対、紙吹雪が舞う演出が必要だ。
俺の性癖を公開する場面ではないのだが…
0コンマ何秒とかで、目に入る光景全てが美しかった。
俺は、思考を停止してしまった。
想像の世界に入りすぎていた…
「おーい、大丈夫?」
「すみません、では失礼します…」
この美少女を直視はできない。早く退散しよう。
俺は走ってその場から逃げてしまった。
ホントは話したかったんだよ、でも無理でした…
「ホントありがとねーまた学校でお礼させてもらうよー」
遠くから彼女の綺麗な声が響き渡る。
なんだって?学校?
あの美少女、俺と高校が一緒なのか?
逃げてしまったが…
まあいい、どうせ同じクラスの、それに隣の席にでもならない限り、
俺と話す機会がある女子はいないだろう。
「今日はいいことあったなー」
美少女のカイロを登校中に拾う…
かなりいいシチュエーションだと、我ながら興奮している。
そこから進展がないと分かっていても…
俺は、多少の後悔と嬉しさで走っていた。
さあ、二年生も始まるのか。
俺は、何の根拠もないかすかな希望だけを胸に正門をくぐった。
ここで、俺の通っている高校を紹介しておこう。
県立高末高等学校、通称高高(たかこう)
一応、小さい県ではあるが、県トップの進学校だ。一学年は300人ぐらい。
校舎は正方形の形をしていて、中心にはプラザという広場が存在する。
不思議なことに、屋上も使えるというおまけつきだ。
「はあ、3階かー」
俺たち2年理系は、どうやら3階のすべてを占拠しているらしい。
教室に張り出されている名簿を一教室ずつ見て回る。
俺は、2年4組か。
まあ、何組だったところで同じなんだが…
まあ、一応クラスメイトも確認しておこう。
杉山は、おっ出席番号2番前か。
これは一応ありがたい話である。いざという時に助けを呼べる。
北内ともこうも同じクラスか!これもうれしい誤算。
この二人は、校内で有名な男子トップ2。
こいつらがいるだけで1年間ぼっちでいても退屈することはないだろう。
あとは……
「見て!谷本さん4組だって」
「うそ、うちらのクラスじゃん!」
ったくうるせえなあ。
同じクラスであろう女子が騒いでるんだが、
誰なんだそいつ?
えーと…そんなことはどうでもいい。
とりあえず、席を確認して着席、
就寝までが、新学期のお約束である。
「俺の席は…おっ一番後ろか」
これは嬉しい、なんたって、寝ていてもバレにくいのである。
「隣の奴は?できれば男子がいいが…」
「谷本里桜(たにもとりお)……は?」
おいおいマジかよ。
さっき女子が話してた奴かー
結構重大事になってる気もしたが、
関わらなかったらすむ話だ。このまま一年間無言でやり過ご…
いやまて、英語の授業とか、最近はペア学習を推進しているはず。
ってことは、嫌でも関わる可能性が高いってことか。
ここは、素直に杉山との約束に徹して話しかけだけはするか…
とりあえず、杉山が来るまでは寝ておこう。
sleeping…
「…ーい、おーい!竹本起きて!」
ったく、もうっちょっと小さい声は無理なのか?
「‥杉山か。改めて今年もよろし …!!
目を開いた瞬間だった。
視界全体に女子の顔。しかも見覚えが…
半径30センチ以内に杉山以外の女子が入ったことなんてない。
「うわーー…って、え?」
また固まってしまった。
これは本当に現実なのだろうか?
「カイロの人?」
「あー覚えててくれてたんだ!
改めてさっきはありがとうね、拾ってくれて」
顔を近づけてくるとは…
俺の耐性では、耐えることはまず不可能だ。
「いえいえ。そ、それより隣の席だったんですね」
「私もびっくり!今年一年、仲良くしようね、竹本君!」
「はい…」
俺、もっと会話を続けろよ。
まあ、あんな美少女相手だ。
平常心を保っていられる男児なんていないだろう。
まあ、とっくに好きになりかけているんだが…
その後、特に谷本とは何もなかった。
他の女子とも仲がいいみたいだし、
さっきのはガチでお礼だけだったのかよ。
そんなこんなで朝のチャイムが鳴った。
なんか今年は、面白いことになりそうだと胸が躍るのを感じた。
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