第35話 終幕

 王子様に求婚されたことが街に伝わり、さらに毎日診療所にやってくる王子にシーアはもうストレスが限界だった。

 ギルド長が職務妨害だと王に抗議したようだが、王は可愛らしいものではないかと笑って流すだけだったという。

 どうやら王はストーカーという言葉を知らないらしい。

 

「シーアちゃん、隣国の冒険者ギルドに移る気は無いか?」

 ある日ゴードンにそう言われ、シーアはそうだ他国に逃げてしまえばいいのだと考えた。

「俺達はそろそろ別の国に行かなきゃならないんだ。よければシーアちゃんも一緒にどうだい?」

 リンデルはシーアが王子を迷惑がっているのを一番よく理解してくれた。いや、リンデルだけではない、スカーレットのメンバーは一度もこの話題でシーアをからかったことがない。

 シーアはギルド長に直談判することにした。

 

「そう、言い出すと思っていたわ。向こうはあきらめそうもないものね」

 ギルド長は寂しそうにそう言った。

「あなたを受け入れない冒険者ギルドは存在しないでしょう。どこでも好きなところに行けるようにしてあげる」

 シーアはスカーレットの面々と同じギルドに向かうことにした。いつか戻って来られたらいいなと思いながら。

 

「よし、ハニュ。リマ。準備だよ」

 準備は王子にばれない様にこっそりと行った。エステラの協力もあって旅支度は万全だ。

 ハニュとリマは長旅になることを理解しているようで、体力をつけるためか庭で走り回って遊ぶことが増えた。

 相変わらず王子は毎日やって来て愛とやらを囁いてくるが、逃げられるとわかってからはそれほどストレスにならなかった。むしろ笑顔で受け流す術を身に着けられた。

 何を勘違いしたのか王子は休日も誘ってくるようになったが、勉強が忙しいのでと言って逃げた。

 

 そして出発の日。

 大きなリュックを背負ったシーアは、誰にも見とがめられない早朝に街を出た。

 スカーレットの面々は初めて旅に出るシーアを気遣ってゆっくりとした旅程を組んでくれていた。

 シーアの不在に関しては、しばらくの間ギルド長が誤魔化してくれる。シーアはやっと王子から解放されてほっとした。

「シーアちゃん折角だから観光しながら行きましょ!」

 

 それからシーアはスカーレットと共に様々なギルドを転々とすることになる。

 小さな町しか知らなかったシーアが、色々な場所をめぐって様々なものに触れるたび、そこでは騒動が巻き起こった。

 この旅が終焉を迎える時、シーアは唯一無二の伝説の聖女になっていた。その隣にはいつも、薄桃色のスライムと小さな狼が居たという。

 そのお話はまた別の機会に……

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

落ちこぼれ聖女と転生スライムさん はにかえむ @hnika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ