第2話「契約」
「まず俺らは俺らの事をニホンゴ?で言うところ“生命体”って言ってる。お前らの呼び方でいうニンゲンがそれ。んでお前が生きている世界で一番エラいやつっているだろう?俺らにもそういう生命体がいる。」
僕は日本のトップの人間や、世界の権威と呼ばれる人間、都市伝説などで有名な暗躍する一族、世界中にいる金持ちや権力者を想像してみた。日本の人間は無いとして、いったい地球という世界を牛耳っているのは誰なんだろうか。こいつが言う僕の世界での一番エラい人間という答えは見つからなかった。
「その生命体が遊びを始めたんだ。違う次元の世界に行けるっていう。まあなんだ、こっちの世界で言うところの、えーとなんだっけ?マホウ…とかヒジュツ?そんなやつだ。」
一般的に知られているモノと言えばなんだろうか。黒魔術とか呪術、ちょっと違うかもしれないが心霊能力者とか超能力者的なことか。マジシャンみたいなのは該当しないよな、タネあるし。
「まあその生命体しかできなかったんだなその方法が。やり方はわかったけど教えるには難しい。自分だけしか行けない。これは面白いから他の生命体にも体験して欲しい。そう思って他の生命体を別の次元に送り込む方法を考え出したんだよ、数十年かけて。」
僕は直感的にその一番エラいとされる生命体を尊敬した。自分だったら面白いことだったら独り占めしたいだろうし、それを広めることが自分にとって損になると考える。そんなことが出来るのであれば商売に発展させて莫大な収入を得て優雅に暮らすような未来を描いてしまうのは僕だけだろうか。…いやこれは僕が「ニンゲン」だからだ。面白いもので人間の思考っていうのは大人になる、つまり歳を重ねれば重ねるほどドス黒く染まっていくものだ。僕が小さな小さな子供だった時は、どんな事でも一喜一憂し、毎日走り回って体中に傷を作り、それでも笑って過ごしていた。あの頃の純粋な僕はどこへ行ってしまったんだろう…自分より大きい鉄棒や滑り台、ジャングルジム。友達と野球やサッカーをした近所の公園。冬になって雪が降っても外を走りまわ
「…聞けよ。相手にされないのってキツいんだぞ。」
…今のは僕が悪かった。しかし子供の頃の回想が出来るくらいの余裕は戻ってきたってことだ。話の続きを聞こう。
少し間を置いてこいつは喋り出す。
「その生命体は別の次元がどれだけ刺激的で楽しかったかを何時間も語ったそうだ。興味を持った他の生命体たちは体験したいと言い出した。だが自分以外で試すのはそこら辺にあった石ころ以来初めてだったらしく、厳正な選考をして3体の生命体が選ばれた。なんとなく気づいたかもしれんが、俺ら生命体には個々に…えーと、あーマホウ??とにかくお前の世界で言うところのマホウを使えるチカラってのがある。」
なんとなく読めていた展開だった。いよいよそれらしくなってきた。理解したことを伝え、先を促す。
「ようするにそのチカラってのが個々で違うんだな。えーとお前らで言うところのサイノウ?センザイ?ノウリョク?だっけか?そういうやつ。レベルをつけるわけじゃないが、別次元へ自らのカラダを送るためにはそれなりのチカラが必要ってことだ。今ではそういう能力を伸ばすための訓練が出来上がったけどな。大抵の生命体はチカラが足りなくて選考すら通らねえ。」
ということはこいつは大抵の生命体ではない、ということか。チカラってのが普通より強い?大きい?って事なんだろう。
「なんつうか俺は生まれが良かったらしい。もともとチカラが他の生命体より大きかった。それの限界値を伸ばすことは普通にしていればできた。えっとこれお前らで言うところのユウシュウ?ってヤツ?それな。」
こいつは答えが分かっているのにワザと質問するように話すクセがあるようだ。普通はちょっとイラっと来る言い方に聞こえるが僕は何も感じなかった。僕らで言うところの地球外生命体・化け物・悪魔と呼ばれるような生き物、その中でも優秀な生命体が目の前にいるのだ。それと会話できているだけでも本望なのだ。…で、こいつがどれだけ優秀なのか、どうやって図ったものか。
「つうわけで、まあその選考を通過して、お前の前にいるわけだ。」
こいつがチカラを持っている生命体だということは分かった。才能だとか優秀だとか僕とは無縁な言葉がばんばん飛び出して来るが気にならない。でもチカラがある程度…いや並大抵以上に必要な要素だとしたら体にも害があるんじゃないだろうか。最初に実験した時はそこら辺にあった石ころって言ってなかったか?石ころと生命体ではチカラってのが比べられるもんなのか?
「石ころっつったって色々あんだよ。お前らの世界でもあるだろ、キラキラした感じの。ホウセキとかスイショウとか言うんだろ?チカラのある物体と思えばいい。次元の扉を開けた第一生命体のやる実験だぞ。チカラの少ない石ころからチカラのすげえ大きい石ころまでそりゃあたくさん試したらしい。」
確かに魔除けやお守りなどの用途で宝石や鉱石などを身に付けている人間はたくさんいる。そういった類のものがこいつの世界にはかなり溢れているような言い方だった。僕自身も昔に家族と旅行に行った際、日本でも有数と言われるパワースポットで悪いことを吸収してくれるという小さい水晶を買った。今でも出かける際は持ち歩いている。直径1センチ少しの水晶に金色の飾りで龍が巻きつくようにあしらわれている。ストラップのように引っ掛ける紐が付いていて、それを自宅の鍵にくっつけて持ち歩いている。
「で、生命体のチカラを超えるくらいの石ころを使って何度も実験を繰り返してようやく納得の行く結果が得られた。んで、その3体の生命体に対して初めて試してみたってワケ。生命体に対しては最初だったからな、1体は無事に成功、1体は半壊、1体はほぼ全壊状態だったらしい。」
人間がやっている事と同じだと思った。良く言えばトライ&エラーという横文字が当てはまるが、やっていることは人体実験だ。いやこの場合生命体実験か。こいつの世界でも人間の世界と同じく新しいことに挑戦しては成功と失敗を繰り返しているのだろう。僕は生物というものは知能を得るとたとえどんな形態にしても同じところにたどり着くんじゃなかろうかと想像した。
「分かってると思うが俺が生命体として自我を感じるよりももっともっと昔の話だ。俺の世界でずっと語り継がれてきている。まあ俺もどこまでが本当なのかなんて知らねえけどな。だが実際にこうやって別次元に飛んできてるワケだ。どうやって編み出したのかは知らねえが、次元間を転送するっつうワザがあるって事だけは本当だ。俺が今ここにいる事が一番の証拠だろ。」
なるほど飲み込めた。ここまでは良い。脳みそも追いついてきてる。ただ大きな問題があるだろう。そう、「契約」についてだ。契約というのだから約束事であるのは間違いない。約束ってのは守る事と破る事ができる。前者と後者で約束を交わした者同士の結束が深まったり何かが壊れたりする。今までの会話も信じられないようなことだらけだ。「契約」の内容も信じられないようなことなのではないか。例えば契約を破ったら「死」が待っているとか。そんな僕の妄想を他所に目の前の生命体はさらっと言った。
「で、契約だけどな。簡単だ。死ぬまで付き合え。そうすれば死ぬまでに良い事がいくつか起きる。」
…頭の中が真っ白になるところだった。こいつと死ぬまで付き合えと?どういうことだ、僕が死ぬまでか?こいつが死ぬまでか?
「ジョーシキ?…いやヒジョーシキ?的に考えて分かるだろ?先に死ぬのはお前。俺は滅多な事じゃ死なねえ。こっちではジュミョウって言うらしいけどな、俺らの場合はチカラが完全に無くなった時。まあチカラが無くなったら存在その物が消えちまうんだけどな。」
聞いた言葉を頭の中で十分に噛み砕いてから当然というべきか、ひとつの疑問にたどり着いた。僕の前の人間はどうなったんだ?
「聞くかね普通。死んだよ。ジサツってやつ?」
鼓動が早くなるのを感じた。自殺…。今まで話した内容と契約について理解をしていれば死ぬという発想には至らないと思うのだが…。僕の前の人間は自殺した。そこまで前の人間を追い込んだものは何だったのだろう。
「さあね。なんも挨拶ナシにでっけえ建物から飛び降りたらしい。俺らなら羽根付いてるから飛べるんだけどなあ。」
人間が死ぬことに関して全く興味が無いと言った風な態度だった。でも一緒に過ごしていれば良い事が起きるんじゃなかったのか?契約と違うんじゃないのかこれは。するとまたも興味なさそうに耳をほじくりながら言う。
「まあ日ごとに愚痴が増えていってたからなあ。相当すとれす?ってヤツがあったんだろうな。こっちの世界の全てを憎んでるような感じだったぞ。そういう見方をすれば、イヤだと思っていた世界から消える事ができたんだからヤツにとっては良い事なんじゃないのか?」
今度こそ頭の中が真っ白になった。ここまできてもまだ夢なんじゃないか?と頭の片隅で考えている僕がいる。自殺がそいつにとって良かった事と割り切れるほどの考え方は僕にはできそうにない。
「いやまあ要するにだ。俺はお前が死ぬまで一緒に行動する。あとはお前が俺を受け入れるか否かだ。契約はその後な。」
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