夢の中で死ぬ言葉を聞いた

はに丸

 今考えると、私は小学生の頃から睡眠障害を患っていた。自律神経が失調するとまで言わないが、バランスはよくないのだろう。


 子供の頃から常に、模索した。気絶するほど熱い風呂に入ったこともある。運動を定期的にもする。寝台特急の車窓動画を流し続けたこともある。

 短期的に効果はあるが、すぐに体が慣れて眠れなくなる


 しかし、目が冴えることは止まらず、時には2日間起き続けるほどである。こうなれば、躁状態となりさらに眠れなくなるのである。通院し、眠剤をもらうに至りマシになったが、解決はしていない。


 さて、1年前のことだ。投稿小説サイト用の朗読アプリを使って睡眠導入にしていた。他の方の作品は気になって眠れなかったりするので、自作を流していたのである。


 この日、朗読開始後10分もせず眠りに入り、快い時間を過ごしていた。かなりリラックスしていたはずだが、夢を見た。夢というのは眠りが浅い時に見ると聞く。が、夢の中の私は気づかず、現実としてその建物を歩いていた。


 初めて見る半地下のレストランバーだった。全体的にシックな作りのそこは、壁肌が鍾乳洞のようで、天井が広く見える。

 ボックス席は埋まっていたため、私はカウンターバーのスチールに座る。隣のスチールを一つ空けギャルのような女性が座っていた。


 髪をいくつかの簡易コームで一部まとめ上げたそれは、暗い光の中で分かりにくかったがアッシュグリーンにピンクのメッシュが入っていた、と思う。目を強調したメイクは強さと美しさがあり、唇はオレンジのリップであった。肌はツヤツヤしており、チークが良い意味で派手である。


 服も、黒いソリッドゴールドショルダーで服の隙間から肩が見えており、ショートパンツから出ている足は細くて少し筋肉質で、モデルのようであった。


 夢の中をこんなに覚えているものか。

 起きた後、あやふやな記憶を整頓してさらに覚えようとするため、起き抜けに脳が勝手に作った可能性は高い。


 まあ、レストランバーはそういった読モぽいギャルもいれば、私のように煙草と酒と飯をかっ食らうことが好きなだけの人間もいたし、ほかにもたくさんいた、はずだ。少なくともボックス席はうまっていたのだから。


 酒を飲んだかどうかは覚えていない。せめてジントニックか、もしできたらブッシュミルズを飲みたかったが、味さえ記憶にない。夢は無情である。


 となりのギャルがいきなり立ち上がり、レストランバーを見渡し、口を開いた。


「ず、ず、と入っていく怒張が●●の中を分け入っていく。✕✕✕が✕✕をゆっくりと進み、●●の口から、あ、ぁ、あ、と感じ入ったような声が溢れた」

 ぎゃ……

「ぎゃああああ!! やめ、やめて! やめろお!」


 私は慌てて女に近づき、懇願した。女は私の声が聞こえないようで、


「ゆっくりと進む✕✕は、✕✕に当たるきわで止まり、退いていく。入り口ギリギリまで抜かれ、✕✕に似た快感にため息が出る。そこからまた、✕✕がゆっくりと入ってくる。何度も繰り返されるゆったりな✕✕に、熱が積み重なるように溜まっていく」


「ぁ゙ーーーーっ!? ぁ゙ーーーーっ!?」


 初対面の女は、私の18禁BL小説の濡れ場を大声で暗唱しだしたのである! 


 洞窟を模している、隠れ屋を想定した、おしゃれ系レストランバー。広い天井に向かって、女の声は響く。


 私は、初対面の女性、という引け目がこの期に及んであったらしく、


「お願いですからやめて、やめてください、やめて」

 と口だけで頼むが、女の口は止まらない。


 受ちゃんが攻くんに✕✕✕されて、✕が✕✕✕にされ、✕✕✕しっぱなしのシーンを淡々と読み上げられるのである。


 こんな場所で自作を朗読されるのも底冷えする恐怖なのに、それがよりによって、エロ小説てどういうことだよ!


 夢であることに気づいていない私は、必死に女の前でやめてください、マジやめて、と言い続けた。女の口から垂れ流されるエロシーンは止まらなかった。


 怒りと焦りのあまりか、己のベッドで私は金縛りになった。ようやく夢だと気づき、助けを呼ぼうとするが声は出ない。夢から覚めたはずなのに、起き上がれない。

 エロシーンを紡ぐ女の声は聞こえた。


 頭の近くから聞こえるそれは、やはり淡々としている。金縛りから逃れようと首をふろうとした、

 その肩を掴まれ、引きずられる。ここからはいつものことで、引きずられ、地の底に落ちるように落下させられたり、窓の外から自分を見たりするのだが、すべて夢の中の夢である。


 つまり、夢から覚めたと思ったことが夢、である。


 たいがいこれをなん度も繰り返し幾度も家人が起こしに来てくれる幻を見る。しかし今回は来ないでくれ! と叫ぶ羽目になった、声は出ないのでどうなったかわからない。


 ギャルが部屋の中でベッドを覗きながら、私の書いたエロシーンを言葉に紡ぐ。

 その間にも覚醒した夢を何度も見て、金縛りになり足首を掴まれ空に放り出されて地に落ちる。受ちゃんがイクイクイクうるさい。これは町中に聞こえていないかとぞっとしながら、窓から見える寝ている己を見た。


 私は目が覚めた。本当に、目が覚めた。、時間はまだ午前3時いくかいかないか。


 スマートフォンからは、私のエロ小説が読み上げられていた。コレが原因であっても、夢とわかっても、公共の場で読み上げられたという恥と焦りはなかなか消えなかった。疑似体験が追体験で実体験錯覚になる瞬間芸であった。


 教訓。朗読アプリは1時間で止まるようにした方が良い。日清製粉グループのサイトに載ってた。


 朗読アプリは機械音声であるため、覚醒を促す肉声より眠りやすい。抑揚もそこそこあるが、演技くさくない。睡眠導入に使いやすい部類だろう。


 しかし、私は安全を保証しない。


 使い方を間違えると、彼らは私たちの脳にダイレクトで侵入してくる。そのとき、どのような悲劇が起きるのか。


 私のように、夢の中とはいえ、公衆の面前で、男性同士の濃厚な性交を発表されないとは限らない。

 その恐怖を肝に銘じてほしい。


 反省した私は、エロ小説をタイマーで1時間だけ垂れ流しながら睡眠導入に使っている。

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