ブラック企業の自己啓発セミナー(怖そうで怖くない少し怖いカクヨム百物語参加作品)
轟鏡
第1話 ブラック企業の自己啓発セミナー
前に働いてた会社のセミナーがヤバかったです。
仕事の時間が朝7時から夜の12時、休憩時間は5分で休日出勤当たり前、もちろん残業代ナシ(時給換算で最低賃金を大幅に下回る)の時点でヤバいのですがセミナーはもっとヤバかったです。
まずその会社の社長は自分大好き人間、一代で会社を興して経営してる自分は素晴らしい人間であり、従業員はそんな自分に喜んで着いて来てると本気で思ってます。従業員は50人くらいです。
当然ながら離職率は非常に高いのですが、何故に職員が辞めてくのか本気で分からない始末、そして始まったのが社長が何かの集まりで出会ったという噂の自己啓発セミナー講師を呼んでのセミナーです。
セミナーが始まり、当然ながら自分も行かされます。まずは社長が会社の小さなホールの前に出て「このセミナーで人生を学べ!」とか挨拶してから講義が始まりました。
「こんにちわ、皆さんは社長の○○さんの会社で働けて羨ましい! 世界一の幸せ者達です!」
正気か?とか思いながらも講義は進みます。その講師は自分は過去に覚せ〇剤に手を出したと言い、それでもクスリから足を洗えた自分は優れた人間だ!みたいなニュアンスの話を続け社長も同意します。もうお腹いっぱいなんですが、ここからが本番です。
セミナーの内容はこんな感じでした。
・働いてるじゃなく、働かせて頂いてるという気持ちを忘れるな!
・社長は素晴らしい人で、世が世なら一国の王になっていてもおかしくない人だ!
・雇って頂いてる会社への恩を忘れるな、会社が死ねと言ったら喜んで死ね!
・素晴らしい社長と人より優れた自分が言うんだから間違いない!
・むしろ従業員の方から金払ってでも働かせて下さいと進言するのが当たり前だ!
覚えてる範囲でこんな事を言ってました。この時点で社長はセミナーの内容に感動して涙を流し、重役はうんうんと頷いてます。まさかお前ら全員頭をやられたのか!?と思うような光景です。
嘘だろ!?と思うでしょうが、まだ続きます。
「ここで職員の皆さんに嬉しい発表があります! 社歌の発表です!」
社歌が発表され、一回聞いて覚えろと言われ、その後に即座に斉唱です。歌詞の内容はうろ覚えですが、大体こんな感じでした。○○の中には社長の名前や会社名が入ります。
我ら○○社長と共に行く、○○社の忠実なる労働力
会社と社長に全てを捧げ、清く正しき道を行く
仕事とは歓喜、仕事とは人生
働かせて頂ける感謝が我らの栄誉
社長を我らの神とし、神こそ社長と
(この後2分くらい社長を称える歌詞が続く)
こんな感じの社歌でした、職員は呆れ顔ですが社長と腰巾着の重役3名は素晴らしい!とか言ってます。
こういうセミナーが全部で15回くらいあり、その最後の日に『自分の夢の発表』という物がありました。このセミナーで学んだ事を活かし、どんな夢を持ったか皆の前で発表しろという内容です。
つまり、社長を褒めつつ喜んで働くのが私の夢です!みたいな事を言えというイベントなのですが、発表する内容は上記の通りで細かい指定はありません。分かってるよな?空気読めよ?みたいな暗黙のルールですね。
職員たちの心にもない言葉、社長のようになりたいですとか、講師は困難を乗り越えれて素晴らしいとか、下らない内容が続きます。
中でも印象に残ったのは、社長は成功者だ!というスピーチ内容で、従業員にタダ働きさせまくってんだから当たり前だろ!とか思った事です。社長の一か月の報酬は副社長である妻と合わせて2000万と上司に聞きました、従業員は最低賃金以下……。
私は色々な理由でセミナーの内容にキレてた上に、疲れも酷く、絶対に退職すると決めてたので空気は読みませんでした。
「このセミナーを聞いて、自分は宇宙に行きたいと思いました、それが自分の夢です」
とヤケになって言ったのです、場の空気は凍り付きましたが、講師と社長達は感動ムードでセミナーを終わらせたくて何も言わず、予定調和の感動ムードでセミナーは終わったのです。私はその後に少ししてから退職しました。
変なクスリの中毒になった講師と自分大好き社長が出会って、次は自分中毒になってしまってたという感じでした。その会社が今もあるのか知りません、調べる気にもなりません。
退職前に上司に聞くと社長は昔はあんな人じゃなかった、人情があって真っ直ぐな人だったけど、過度な不正で儲ける事を覚えてから変わってしまったと聞きました。
社長は自分という名の麻薬に溺れてしまった、だから覚せ〇剤中毒の経験があるセミナー講師と波長が合ってしまったんじゃないかと上司は疲れ切った顔で言ってました。麻薬はダメ絶対!
ブラック企業の自己啓発セミナー(怖そうで怖くない少し怖いカクヨム百物語参加作品) 轟鏡 @tepure35
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