第56話 全開放の風呂咲さん
下着姿の脱ぎ咲が脱衣所に引っ込んでしばし待つ。
上と下、あと一枚ずつ脱ぐだけで風呂に入る準備はできるはずなのだが、随分と時間がかかっているように思える。
まあ、あんなことがあったわけだし、即冷静とまではいかないだろう。
むしろ、さっさと下着を脱ぎ捨てて、何事もなかったかのように振舞われても逆に困る。
脱ぎ咲ノータイムオープンザドアは普通にハプニングなのだから、少し恥じらいで悶えるクールタイムを確保するのも悪くないだろう。
あんまり長々薄着でいられて、脱ぎ咲が風邪咲にフォルムチェンジするのは困るけれども。
(それにしても……あんな格好で出てくるとはな)
大惨事だったリビングを片付けしていた痴女咲が見せつけてきたものもそうだったが、藤咲が割と大人っぽい下着を所有していることは把握している。
そして、本日着用しているものは気合が入っていそうだなとも思っていた。
その下着がどんなものなのかそのうち判明するだろうなとうっすら考えていたのは認めよう。
だがそれはあくまで下着単体の話だ。
藤咲は脱いだ下着を片付けずにそこらへんにポイする傾向があるため、そのうちどうせ目に入るくらいの認識だった。
それがまさかなぁ。
着用状態で拝むことになるとは思わなかった。
別に脱ぎ咲観測が初めてというわけではないが、やはり美少女のあられもない姿はそう簡単に慣れるものではない。
(……クールタイムが必要なのは俺の方だったか)
エロ咲のインパクトが強すぎて中々頭から離れない。
……藤咲、今日だけでどれだけサービスを積み重ねれば気が済むのだろうか。
しかもサービス内容はどんどん豪華になってるしな。
「……ねぇ、いる?」
そんなことを考えていると扉の向こうから呼ぶ声が聞こえる。
「えっ……いる、よね?」
別にわざと黙っていたとかではないが、急に声をかけられて驚いたこともあり、返事がワンテンポ遅れてしまった。
そのため、藤咲は慌てたような声で扉を数回叩き、俺の存在を確認する。
「いるぞ……今度は飛び出して確認しないんだな」
「あっ、あれはっ……ミスというか、勢い余ったと言いますか……。今出たらまずいし」
残念ながら脱ぎ咲完全体がオープンザドアするということはなく、こうした扉越しの確認に留まっているのは先程の反省をいかしてのことだろう。
さすがにこの短時間でやらかしを忘れて衝動で動くことはしないか。
「と、とりあえず準備できたから。時間差で来てよね」
「時間差? 一時間後くらいでいいか?」
「よくないよ? それだったら一人で入ってるじゃん」
「じゃあ……二秒後でいいか? いーち、にー」
「わー、だめだめだめっ! さすがにお風呂に入るの待ってよ」
ガンと扉を押さえつける音がする。
準備ができたというのはそのままの意味で、今すぐ湯に浸かれる状態――脱ぎ咲完全体ということだろう。
「なるほど。今なら逃げても追ってこれないってことか」
「その場合は末代まで呪うよ?」
「……怖いこと言うなよ。俺の子孫が何したっていうんだ」
「大丈夫。白柳くんが末代になるから安心して?」
何も安心できないんだが。
扉越しに呪咲の怪しい笑い声が聞こえてくる。
ある意味今日一番のホラーだが……扉の向こうにいる藤咲が全裸だと思うとなんだかシュールな光景だな。
「逃げないって。一分経ったら入るからさっさと行け」
「ほんと? 嘘つかない?」
「嘘つくくらいなら呪われ上等で黙って帰ってるわ。あんまりしつこいと一分待たずして入るぞ」
「すぐ入るからちょっと待ってね」
警戒心を持って扉を開けられないようにガードするのは結構だが、その場合は脱ぎ咲の身体が冷え、風邪咲に進化するだけだ。
俺を声の届く距離に置いておきたいというのはほかならぬ藤咲の要望なのだから、藤咲が扉をガードしている限り不毛な争いは続く。
まあ、俺は争うつもりはないし呪われたくもないから、どちらかといえばさっさと藤咲を風呂にぶち込んで面倒事を終わらせたい。
こちとら藤咲が入浴を済ませてくれないと帰れないのだから、それはもう協力的にならざるを得ない。
さすがに本気で押し入ろうとは思ってないが、脅し文句に折れてくれた藤咲は扉のガードを止めて風呂に向かったのだろう。
身体にお湯をかける音が聞こえてくる。
「さて……一分経ったか」
料理によって養われた俺のタイマー感覚が一分経過したことを告げたので、いざ脱衣所に入ることになる。
改めて思うが……ヤバい状況なんだよなぁ。
なんだ、お風呂の付き添いって……。
でもまあ、トイレの時と変わらない。
扉越しに声をかけて、一人じゃないことを意識させて、気を紛らわせる簡単なお仕事。
……って、そんな風に割り切れたら楽なんだけどな。
あんなエロ咲を見せられたあとだとそう簡単に割り切れない。健全な男子高校生舐めんな。
とはいえ、変に意識して入るのを躊躇していると、痺れを切らした呪咲がいつ呪詛を吐き出すか分からないしな。
ホラーにビビって一人で風呂にも入れないかわいいビビ咲のためだ。
一肌脱いでやらないと。
実際に脱いでるのは俺じゃないけど。
「藤咲ー。大丈夫……か……は?」
扉越しに安否確認。
短時間だが一人での入浴に耐えかねて錯乱し溺れてるかも……なんて軽い気持ちで声をかけたのだが、半透明の曇りガラス扉は俺の目には映らない。
その代わりに、立ち込める湯気と――全開放された浴室、そして……湯に浸かった風呂咲の姿が見えるではないか。
先程の脱ぎ咲のせいであまりにもエロ咲の妄想が捗りすぎるので、一瞬俺の目がおかしくなってしまったのかと思い目をこすってみるが、どうやら夢でも見間違いでもないらしい。
風呂咲、フルオープンザドアはまごうことなき現実だった。
クラスのクール美少女の家事代行をしたら、毎日晩御飯の献立を聞いてくるようになった 桜ノ宮天音 @skrnmyamn11
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