繋ぐヘッドホン

白鷺(楓賢)

本編

勉は、机の上に置かれた壊れたヘッドホンをじっと見つめていた。音楽が流れなくなったのは、ついさっきのことだ。耳を覆う柔らかいクッションと、無骨なデザインが気に入っていたこのヘッドホン。どれだけの時間を共に過ごしてきたか、数えきれない。お気に入りのアルバムを繰り返し聴き、音楽に包まれるたびに、心が落ち着いていくのを感じたものだ。


「仕方ないよな、こういうのはいつか壊れるものだし」と、勉は自分に言い聞かせるように呟いた。


手に取ったヘッドホンはもう音を発することはない。それでも、勉はそのヘッドホンを愛おしむように、そっと撫でた。まるで長年の友人と別れを告げるように、少し寂しい気持ちが胸に広がる。


勉は机の引き出しを開け、まだ箱に入ったままの新しいヘッドホンを取り出した。購入したのは数ヶ月前だったが、気に入っていたヘッドホンが壊れるまで使わないつもりでいた。箱を開けると、新品のヘッドホンが姿を現した。


「これも、いつかは壊れるだろうけど……それまで、よろしくな。」


勉は新しいヘッドホンを手に取り、優しく耳に当てた。しっかりとフィットする感触が心地よい。彼はパソコンを立ち上げ、いつもの音楽アプリを開く。そして、プレイリストの再生ボタンをクリックした。


一瞬の静寂の後、ヘッドホンから流れる音楽が勉の耳を満たした。鮮明な音、澄んだメロディー、心地よいリズム。すべてが新しく、しかしどこか懐かしい感覚に包まれる。


勉は目を閉じ、音楽に身を委ねた。壊れたヘッドホンとの別れは確かに寂しい。しかし、新しいヘッドホンが、これからどれだけの素敵な音楽を彼に届けてくれるのかを考えると、心が少し弾んだ。


音楽に触れるひととき。それは、過去と未来を繋ぐ瞬間でもある。どんなヘッドホンでも、勉にとって音楽の力は変わらない。新たな音楽の旅が、また始まるのだ。


勉は心の中でそっと呟いた。


「ありがとう。そして、よろしく。」


彼の耳には、変わらず音楽が流れていた。

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繋ぐヘッドホン 白鷺(楓賢) @bosanezaki92

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