第76話 おまけ 仕事を辞めたい名物受付嬢 クイナ


「ああ、また辞められなかったな」


 先程提出し、押し返された辞表を取り出して眺める。


 今まで二回提出したが、今回も上長のアダムスさんが「頼む、もう少し残ってくれ」と何度も頭を机にぶつけるかのように下げ、辞表を撤回しちゃった。


 仕事を一から教えてくれた恩人とも言って良い、アダムスさんが殆ど泣きながら頭を下げたら断れないな。


 ただ、毎日、毎日同じ事を繰り返して嫌気がさしている。 


 この観光地のスロネの冒険者ギルドの受付嬢になった時は、そんな事を思うなんて夢にも思っていなかった。


 私の生まれた小さな村は、女性の働き口なんかほとんどなかった。

 年頃になるとお見合いして、誰かの農夫の旦那になるというのが一般的だった。


 私の母も祖母もそうだったので、私もいずれはそうなるのかなと思っていたが、母の後押しもあり思い切ってスロネまで出稼ぎにきた。


 その時にアダムスさんにナンパみたいな手口で、この冒険者ギルトにスカウトされた。

 どうやらその時に何かあったらしく、一斉に冒険者ギルト員が辞めてしまったようだ。


 正直言うと華やかなギルドの受付に憧れもあったので、試しにやってみる事にした。

 ただこの仕事は華はあるかもしれないが、聞いていた以上にストレスが多い職場だった。 


 支給された制服はかわいいんだけど、私が着るとやたらと胸を強調するようで、常に冒険者達の目線が胸元に行っているのもろわかりだ。


 昔から胸が人より大きかったから、なるべく目立たない服装にしていたがこの職場だとごまかしがきかず、皆露骨に視線が私の胸元に集まる。


 この胸のせいなのか、指名率№1、名物受付嬢とか言われるようになったけど、本当にそんな称号はいらない。

 ただこの胸のおかげで、高い給料を貰えているの事実よね。


 スロネの冒険者ギルドは三つの派閥がある。

 アダムスさんが必死にコントロールしてる事もあって、派閥争いもそこまで激しいものじゃない。

 表面上は何もなく露骨な嫌がらせとかいじめはないけど、それでも聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で嫌みを言われたり、人前で人を褒める口調だけどこちらの評判を落としてくる事はざらにある。


 特に私は指名率№1のせいで何もしなくても目立ってしまい、同じ派閥じゃない人にも常にいい人に見られるように立ち振る舞わないといけないのが、本当にストレスだ。


 欲しい人がいるなら指名率№1とこの胸事誰かにあげたいけど、こんな事を言うと嫌みと思われるんだろうな。


 一人で外でタバコを吸いながら、気持ちを落ち着かせる。

 タバコを吸っているとイメージが悪くなるとか言って、ギルト長から辞めるように言われているので誰にもばれないようにこっそりギルドの裏で隠れて吸っている


 自分の吐いた煙を見ながら、将来の事を考える。


 村に戻るべきか、村に戻って農業をするのも悪くはないけど刺激はないのよね。

 この職場ストレスも多いけど、刺激が多い場所だったから、今更戻って仕事できるかしら。


 それとも受付あるあるだけど、誰かいい冒険者を捕まえて結婚して辞めるべきかしら。

 冒険者は稼ぎはいいけど、いつ死ぬかわからないからその日暮らしの人が多いのよね。

 結婚して資金を貯めて、冒険者を辞めてくれそうな人が理想的だわね。

 冒険者は腕が立てば立つ程、癖が強くなる傾向があるのよね。

 そこそこの実力者で顔は多少悪くてもいいから、冒険者やめてビジネスを始められそうな商才がありそうな男なんていたかしら。


「おねぇさん、ギルト員ですよね?」


 タバコを吸いながら現実逃避していると、可愛らしい女性に呼ばれた。


「あ、はい」


 鎧を着て武具を持っているから冒険者と思われる。

 慌てて吸っていたタバコを消して、隠す。


「ちょうど良かった、これを巨人殺しのバックスさんに渡してくれませんか」


「え、わかりました」


 ラブレターかと一瞬思ったが、封筒にジャイアントキリングスの紋章の巨人の足形マークの捺印がある。


 恐らくギルト内での連絡だろう。


「良かった。ボク、マスターになるべく冒険者ギルトには入らない方がいいって言われていたから、どうしようかなと思っていたんだよ」


「そうなんですか」


 よくわからないけど、早めに休憩を終えて巨人殺しのバックスを探しにいく。

 巨人殺しのAランク冒険者のバックスは、いつも決まった場所にいない。


 温泉に入ったり、酒場に行ったり、森の中に一人で入りに行ったり、と完全な自由人だ。


 冒険者らしいと言えば冒険者らしいが、一緒にいる人は苦労するだろうなと思う。


 色々な人に聞いてあっちこっち探し回った所、どうやら領主館で打ち合わせをしているらしい。

 走り回ってやっと巨人殺しに出会い、先程の可愛らしい女性の所まで案内する。

 巨人殺しと女性は二言三事喋ると、二人は街の外に向かっていた。


 休憩を邪魔されてしまったので、再度休憩に入る。

 タバコを吸いながらながらなんとなく二人を見つめていたが、思わず吸っていたタバコを落としてしまった。


 二人が地面から足が離れまるで、宙を歩いているように見える。


 目をこすって見るが変わらない。


 どうやら度重なるストレスのせいで、目がおかしくなり遠近感が狂っちゃったみたい。

 もしくは体調が悪く、風邪でも引いた?


 言われて見るとなんか、頭が痛いかも。


「クイナ、クイナどうだった?」


 早退の手続きをしようとギルドに戻ると、比較的仲のいい同僚がやってきた。 


「え、何が?」


「さっき、喋ったでしょ」


「巨人殺しの事?

 ちょっとチャラそうだけど普通だったよ」


「そっちじゃなくて、女の子の方。

 彼女アンデットなんでしょ、何ともなかった?」


「え?」


 あの可愛らし子がアンデットなの?


 うーん、もう限界だわ。


 その後は泣いて嫌がるアダムスさんに辞表を握らせて、冒険者ギルドを後にした。


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 たくさんの小説の中、読んでいただきありがとうございます。

クライフの旅は続きますが、一旦ここで小説は完結とさせてください。

 続きは考えていますが、まだ結末がまとまっていません。

 ある程度形が見えてきたら、近況ノートなどでご連絡しますのでフォローして頂けると助かります。

 また新しく小説も書こうと思っています、もしお時間があれば見ていただけると大変ありがたいです。


 最後に初めて投稿した小説でしたが、多く人が読んでいただき感謝しかありません。

 途中で話が抜けてしまったミスなどもありましたが、多くの人に温かく読んでもらいました。

 コメントもすべて読んで嬉しく思っています。

 途中で挫折しそうになりましが、書くモチベーションになりました。

 本当に、ありがとうございました、またはやいうちにお会いできるように頑張ります。

 





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スライムの弟子になりました。 うをの目 そば太郎 @UonomeSobatarou

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